メニュー

糖質、カロリーをコントロールしたいニーズは拡大中、ロカボ市場拡大のためのポイントとは?

近年、健康志向の高まりとともに、糖質やカロリーをコントロールしたいというニーズが拡大してきている。この傾向を反映し、ロカボ(低糖質)市場も着実な成長を遂げている。本稿ではロカボ市場の現状と拡大のためのポイントについて、詳しく見ていきたい。

コロナ禍で糖質、カロリーオフ商品の売上はこの10年間で1.8倍に拡大したが、この数年の動きは鈍化してきている(写真はイメージ、iStockよりasiandelight)

糖質、カロリーをコントロールしたいニーズの拡大とその背景

 ロカボや低糖質、糖類オフ、カロリーオフを謳った商品について2014年からの売上金額の推移を見てみると、この10年間で1.8倍に拡大していることが分かる【図1】。とくに2019年から2020年にかけて大きく増加しており、コロナ禍で生活習慣が見直され、食生活の改善を試みた人が多かったことが窺えた。ただ、この数年の動きを見てみると伸びが鈍化してきており、今後の市場動向が気になるところである。

 この市場の将来性を予測するための一つの要素として、糖尿病患者の推移に注目してみたい。国民生活基礎調査によると、2022年時点で、糖尿病で通院する人は400万人に達し、高血圧症に次いで2番目に多い疾患となっている。さらには10年前から1.2倍に増加していた【図2】。通院者数全体は10年前から1.07倍の増加なので、糖尿病患者の増加は際立っている。糖尿病の増加傾向の主な要因として、食事内容の欧米化が挙げられ、高カロリー・高脂肪の食事が日常的に摂取されるようになり、必要以上のカロリー摂取が糖尿病の増加に拍車をかけている。

 健康寿命の延伸は国の方針としても掲げられており、生活習慣病に対する啓もう活動が増え、特定健康診査の受診率が上昇してきている。そのためこれまで以上に糖質やカロリーをコントロールしたいというニーズは増えてくるのではないかと考えられる。しかし一方で、必要とされている人に糖質、カロリーをコントロールできる商品が届いていない可能性も高く、商品設計や伝え方などの見直しが必要となってきているのではないだろうか。

ロカボ商品を男性向けに強化

 糖尿病患者の性別構成比を見ると、興味深い傾向が浮かび上がる。通院している糖尿病患者の61.7%が男性であり、これは全疾患の通院者における男性比率46.4%を大きく上回っている。つまり、糖尿病はとくに男性に多い疾患であることがわかる【図3】。

 しかし、現状のロカボ市場では男性の購買率が低いという課題がある。スーパーでロカボ商品を購入する男性の割合は18.6%にとどまっており、スーパー食品全体の男性利用率19.8%を下回っている。この数字は、男性向けロカボ市場にまだ大きな成長の余地があることを示唆している。最近の傾向として注目すべきは、ロカボを謳ったカップ麺の売上が伸びていることだ。このカテゴリーでは男性の購入割合が22.6%と、全体平均を上回っている。このことから、総菜やレトルト商品など男性が好むカテゴリーでロカボ商品を増やしていくことが、市場全体の拡大につながる可能性が高いと言える。

ロカボ商品ユーザーの特徴からみる、市場拡大のポイント

 ロカボ商品ユーザーがふだんどのような商品を購入しているのか、購買行動を分析すると、健康的な食品全般に対して支出が高いことがわかった。とくに、タンパク質や食物繊維を含む食品の購入が多い傾向にある【図4】。

 この傾向を反映してか、最近のロカボ商品は単に低糖質であることだけでなく、「低糖質×高タンパク」など、複数の健康訴求点を組み合わせた商品が増えている。消費者はより効果的に糖質をコントロールできる商品を求めており、健康感をより強く訴求できる商品開発が望まれている。

 ロカボ商品の月別の売上構成比を見ると、食品全体と比べて1~5月が高くなっており【図5】、これは正月太りの解消や夏に向けた体形改善といったニーズを反映していると考えられる。一方で12月のようなホームパーティーや帰省で食品の消費が増える時季には売上が落ち込む傾向にある。健康訴求だけでは持続的な市場拡大は難しく「おいしさ」も重要な要素となっており、実際、監修市場がここ数年で3倍に拡大するなど、専門家の監修によりおいしさが担保された商品が人気を集めている。また、消費者の嗜好の変化も見逃せない。炭火焼」や「燻製」といった調理法であったり、「ASMR動画」の流行により食感への関心が増してきている。

 これらの傾向を踏まえると、今後のロカボ市場拡大のポイントは以下のようにまとめられる。

  1.  男性向け商品の強化:とくに男性が好むカテゴリーでのロカボ商品開発
  2.  複合的な健康訴求:低糖質に加え、高タンパクや食物繊維など、複数の健康要素を組み合わせた商品設計
  3.  季節性を考慮した販促:正月明けや夏前など、消費者の健康意識が高まる時季に合わせたマーケティング
  4.  おいしさの追求:健康面だけでなく、味や食感にもこだわった商品開発
  5. 専門家の監修:信頼性と品質を担保するための専門家との協力


 ロカボ市場は今後も拡大が見込まれる有望な分野だ。しかし、単に低糖質であることだけでなく、消費者のニーズや嗜好の変化に柔軟に対応し、健康とおいしさを両立させた商品開発が求められている。これらのポイントを押さえた戦略を展開することで、ロカボ市場のさらなる成長が期待できるだろう。

文=日本食研ホールディングス株式会社 食未来研究室 室長 児玉一穂
食未来研究室ホームページ : https://nsk-shokumirai.com/