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味への信頼高まる!インフレで劇的に進化する米小売の食品PB競争

米国におけるプライベートブランド(PB)商品の2023年売上が前年から4.7%伸びて2360億ドル(約37兆円)に達した。2019年との比較では34%も増加しており、PBを展開するチェーンがインフレを逆手に取り、全国ブランド(NB)から消費者を奪っていると見られる。一方で、ウォルマート(Walmart)やターゲット(Target)などの大手小売がより魅力的でお買い得感のある商品開発を競うなど、従来の①低価格、②プレミアムラインによる差別化に加え、③オーガニックやナチュラル志向といった「第3の軸」のPBも登場している。米小売のPB競争ではいま何が起きているのか。その最前線を追った。

AJ_Watt/iStock

薄まる偏見、食品PBが好調

 米プライベートブランド製造業者協会(PLMA)が2月に発表した年次PB報告書によれば、2023年のPB売上は対前年比4.7%増となった。下図に示されるように、対前年比で伸びが大きかったPBカテゴリーは化粧品(+10.5%)、一般食料品(+10%)、飲料(+8.9%)、在宅看護用品(+8.9%)、冷凍食品(+4.4%)、雑貨(+4%)などであった。

米国におけるPBの売上高の対前年比較(出典:米プライベートブランド製造業者協会)

 とくに好調なPB食品の市場全体に占めるシェアに関して、市場調査企業の米サーカナ(Circana)は、米ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)紙の特集記事の中で、「パンデミック以前の18.7%から2023年には20.6%に達した」と明らかにしている。

 注目されるのは、チェーン側の商品改良努力により、PB食品の「NBに比べて味が落ちる」「安かろう悪かろう」のイメージが解消されつつあることだ。たとえば、チーズやワインを例にとると、ホールセールクラブチェーン大手の米コストコ(Costco Wholesale)が展開するPB「カークランド(Kirkland Signature)」が、NBと比較しても遜色ないおいしさの水準を達成して評判になっていると、ニューヨーク・タイムズは伝えている。

 ニューヨーク州立大学バッファロー校のマイケル・クラップスキー助教は米経済専門局CNBCのインタビューに対し、「カークランドは、消費者に『クール』だと認識されている」と語り、「過去のPB商品にはなかったエクスペリエンスを提供できている」と分析した。

この傾向は、他のチェーンでも確認されている。米食品産業協会(FMI)の2023年PB報告書によれば、買物客の54%が「もっと多くPB食品を購入する予定」と回答した。その理由を問われると、51%が「味がよい」、47%が「品質に満足」と答えた。PB食品に対する偏見は確実に薄まっている。

ウォルマートが新PBを投入!

 米小売業界ニュースサイトのスーパーマーケットニュース(Supermarket News)が5月21日に伝えたところによると、2024年4月の生鮮肉の価格は1ポンド(454グラム)当たり平均4ドル64セント(約727円)と対前年同月比4.1%増、3年前の同月比では14.4%増となるなど、食品価格は高止まりして家計を圧迫している。

 こうした環境でウォルマート、ターゲット、クローガー(Kroger)などの大手小売は、食品PBの生き残り戦略として、すでに信頼を勝ち取った低価格路線やプレミア化に加え、新たな差別化を打ち出しつつある。

 ウォルマートは2024年4月に新たな食品PBである「ベターグッズ(Bettergoods)」を立ち上げた。乳製品・冷凍食品・パスタ・スープ・スナック・飲料・コーヒーなど300品目で構成されるベターグッズは、同社が1993年に発売した食品PB「グレートバリュー(Great Value)」と比較して、「より若く、より裕福な層に訴求する」(PB担当のスコット・モリス副社長)要素を前面に打ち出していることが特徴だ。

 ベターグッズでは、植物由来やグルテンフリー、抗生物質の不使用、人工香料や人工甘味料の不使用、さらにシュガーフリーなど、オーガニックやナチュラル志向をアピールしており、高級生鮮チェーンである米トレーダージョーズ(Trader Joe’s)や米ホールフーズマーケット(Whole Foods Market)から顧客を引き付けることを意識して開発されたことは明らかだ。

 ベターグッズの価格帯は2~15ドルで、およそ7割が5ドル未満と、「健康志向だが安い」のが特徴だ。また、植物ベースのチーズ代替品を揃えるなど、従来のグレートバリューにはない新しさを演出している。

krblokhin/iStock

激化する米小売の食品PB競争

 このようにPB食品は、インフレ下における単なるNB代替としてのみならず、味や素材にこだわることで顧客の信頼を獲得し、NBから一定のシェアを奪いつつあると言えよう。しかし同時に、物価高の中でPB同士、つまりチェーン同士の競争も激しくなっている。

 ウォルマートのライバルであるターゲットは5月20日、プレミア感で評判の食品PB である「エバースプリング(Everspring)」や「グッド・アンド・ギャザー(Good & Gather)」の1500品目を含む合計5000品目を、夏季限定で値下げすることを発表した。

 グッド・アンド・ギャザーの無塩バター1ポンドが3ドル99セントから3ドル79セントへ、同じくグッド・アンド・ギャザーのオーガニックほうれん草の5オンス袋が3ドル29セントから2ドル99セントなど、小幅な値引きではあるが、PB食品1500品目をカバーすることで「塵も積もれば山となる」効果をもたらすというわけだ。

 こうした新機軸で勝負するPB食品は、近年NBで多く見られるようになった、商品の価格を変えないままその内容量を減らす(シュリンクさせる)「シュリンクフレーション」に対する利点としても有効だ。

 翻って、米ファストフード業界では、度重なる値上げに対する一般消費者の息切れで、米マクドナルド(McDonald’s)や米バーガーキング(Burger King)などファストフードチェーンによるセットメニュー値下げ競争が起こっている。“インフレの避難所”である食品小売のPBでも、値下げ競争がより顕著になる可能性はあるだろう。利幅がよいとされるPB食品であるが、消費者の景況感が回復するまでは、プライスカットによる競争激化は避けられないだろう。