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食べ放題の心理に寄り添う! 値上げしても「焼肉きんぐ」が絶好調の納得の理由

焼肉チェーンやラーメンチェーンなどの外食事業を営む物語コーポレーション(愛知県/加藤央之社長)が好調だ。20236月期の売上高は対前期比24.4%だった。好調をけん引しているのが、同社が運営する焼肉チェーン「焼肉きんぐ」だ。本稿では、焼肉きんぐが躍進を続ける理由について、担当事業部長に聞いた。

食べ放題の心理に寄り添う戦略

焼肉きんぐ

 多くの外食企業がコロナ禍で経営不振に陥るなか、成長を続けたのが物語コーポレーションだ。主力の焼肉きんぐ事業の売上高は、コロナ禍の外出自粛の影響で一時的に落ちこんだものの、直近3期の通期実績は前期を下回ることはなかった。売上、出店数ともに現在も伸長を続けている。

 焼肉きんぐでは、通常の焼肉店と同様に単品での注文も受け付けているが、最大の特徴はなんといっても食べ放題サービスを提供している点だろう。2780円(税抜、制限時間100分間:以下同)で牛、豚、鶏、海鮮、野菜を注文できる「58品コース」、加えて「きんぐカルビ」「壺漬けドラゴンハラミ」などの名物メニューを揃える3180円の「きんぐコース」、3980円で国産の特選牛などを味わえる「プレミアムコース」の3つのコースを提供している(一部店舗では販売内容が異なる)。

焼肉事業部事業部長の山口学氏

 物語コーポレーション執行役員 焼肉事業部事業部長の山口学氏は「食べ放題コースの強みは、お客さまが新メニューを頼みやすい点だ。一風変わった新メニューでも、食べ放題であればお客さまは失敗のリスクを気にすることなく注文できる。実際に、新メニューの注文を多くいただいているのは食べ放題コースのお客さまだ」と話す。

 そうした背景から物語コーポレーションは、挑戦的な新メニューの開発に力を入れている。たとえば「きんぐコース」と「プレミアムコース」で注文できる「韓国フェア」「北海道フェア」などの期間限定メニューでは、スティック型ポテト「PIZZAポテトチュロ」や、イイダコの甘辛炒め「とろ~りチーズチュクミ」(現在はどちらも終売)など特色あるサイドメニューを豊富にラインナップする。

期間限定/韓国ポチャ

 「サイドメニューはお客さまからの評判が高く、フェアを打ち出すたびにSNSで大きな反響を呼んでいる。また、満腹になったお客さまが『頼みたかったけど頼めなかったメニュー』を心残りに思ってもらえれば、次の来店のきっかけになり、リピートにもつながる」(山口氏)

 祖父母・親・子の三世代など大人数で来店しても、各自が遠慮せずに好きなメニューを選べる点も食べ放題コースが人気を集める理由の1つだ。焼肉きんぐでは1皿当たりの量を少なくすることで、気軽にたくさんの種類を注文しやすいようにしている。

 一方、デメリットもある。それは単品コースに比べてお客の回転率が低い点だ。山口氏は「食べ放題コースでは、制限時間である100分間のうち、後半はデザートなどを注文してゆっくりと滞在しているお客さまがほとんどだ。店舗にもよるが、お客さまの回転率は食べ放題コースよりも単品コースのほうが高い場合が多い」と説明する。

 足元では、原材料費高騰の影響も大きく受けている。焼肉きんぐは23年3月、2つのコースの価格を改定。「58品コース」は税別100円、「きんぐコース」は同200円値上げした。

 山口氏は「値上げといっても、高騰した原材料費やエネルギー費、人件費などの差額をカバーできるほどの値上げはしていない。たとえば夫婦と小学生と幼児のお子さまの4人家族を想定したとき、小学生は通常料金の半額、幼児は無料であるため、『きんぐコース』を4人ぶん頼んでも合計金額が税込8745円に収まる。主要客層であるファミリーのお客さまが1万円以下で食べ放題を楽しんでいただけるような価格に設定している」と語る。

マニュアルのない“おせっかいな接客”

 焼肉きんぐが競合の焼肉チェーンと差別化を図るために提供しているサービスはほかにもある。その1つが、「焼肉ポリス」による接客サービスだ。

 「焼肉ポリス」とは、店内を見回り、必要に応じてお客に肉の焼き方や美味しい食べ方を教える、“おせっかいな接客係”だ。物語コーポレーションには「焼肉ポリス」の教育を専門としたチームがあり、かつて「レジェンド店員」と呼ばれた接客のプロフェッショナルがリーダーを務める。そのリーダーやチームメンバーが全国の店舗を行脚し、店舗スタッフ(焼肉ポリス)を指導・教育するかたちだ。

 山口氏は「『焼肉ポリス』の接客はマニュアル化していない。お客さまの好みに合わせて焼き方を指南していくことが大事だからだ。もちろん、望まないお客さまには指南しない。すべてのお客さまがリラックスして外食を楽しめる店舗をめざす」と述べる。

特急レーン/生田川店

 ほかにも店舗運営においては、デジタル化に力を入れる。とくに注力しているのが、2021年から採用している配膳ロボットと、料理を自動で客席まで運ぶ「特急レーン」だ。これらはいずれも、時間制限のある食べ放題サービスにおいて、お客の待ち時間を短縮することや、スタッフの空いた時間を接客に充てることを目的に導入している。山口氏は「単なる省人化や経費削減ではなく、サービスの一環としてデジタル化を推進している」と説明する。

 出店戦略では、これまでは郊外出店に力を入れてきたが、今後はデジタル設備が整った店舗を都心部や駅前立地に出店することも視野に入れているという。コロナ禍前(196月末時点)より50店舗以上増やし236月末現在は305店舗を展開する焼肉きんぐの、今後のさらなる進化が注目される。