昨今、直輸入ワインの販売に力を入れる食品スーパーは少なくない。しかし、小売店が直輸入ワインを扱うメリットについて深く理解している方はそう多くはないだろう。食品スーパーが直輸入ワインを扱うメリット、注意点は何か。ワインの小売業や輸入卸業、経営コンサルティング業などを行うワインのプロフェッショナル、BMO(東京都)代表の山田恭路氏が、食品スーパーのワインの取り扱いについて全3回にわたって解説する。
「直輸入ワイン」、厳密には直輸入ではない?
昨今、一部の食品スーパーが直輸入ワインを積極的に展開している。一般的に「直輸入」とは、バイヤーが他国の仲介商人を介さずに海外から直接仕入れることを指す。しかし実際は、食品スーパー企業が海外のワイナリー(ワイン生産者)から直接輸入しているわけではない。
一般的に、他国のワイナリーから出荷されたワインは「フォワーダー」と呼ばれる国際輸送業者によって通関会社の手に渡り、いわゆる輸入代行業者や輸入者である「インポーター」を経由して、小売業やメーカーの元へと渡る。この過程で小売業のバイヤーがフォワーダーや通関会社とやりとりをすることはまずない。そうした役割はほとんどの場合、インポーターが担う。つまり、「直輸入ワイン」と言ってもインポーターが仲介しているケースであることが多いのだ。
たとえば、ビール大手のサッポロビールでは小売店は飲食店向けのワイン輸入を手掛けているが、その輸入代行の役割を担っているのは総合商社大手の三井物産である。一般的に輸入代行者(三井物産)はは海外から集荷した貨物を「保税地域」といわれる外国貨物を留置きする場所で、輸入者(サッポロビール)に保税転売(外国企業の自社在庫を国内の顧客に売却すること)している。
保税地域にある貨物は「外国貨物」の扱いになり、税金を払って輸入許可を受けることで日本の貨物として扱われる。保税地域において貨物が売買されることで初めて、ワインのラベルにある「輸入者」の欄に自社名(サッポロビール)を入れることができる。同様に、ラベルの「輸入者」の欄に食品スーパーの企業名が入っているワインは保税地域で売買されたものであることが多い。
直輸入には、サッポロビールと三井物産のように全く別の企業間で売買契約を行うパターンのほかに、企業内で分社化した子会社などで輸入エキスパートを採用して売買契約を行うという手法もある。
たとえば、東京都内で食品スーパーや酒販店を展開する信濃屋(東京都)は田地商店(同)という輸入専門企業を立ち上げており、駒込に本社を置くローカルスーパーのサカガミ(東京都)も輸入部門を担うKIWA(東京都)という企業がグループ内にある。大手ではヤオコー(埼玉県)が貿易業務を手がかける小川貿易(同)を17年に立ち上げている。イオン(千葉県)も1994年に、開拓力の定評のあるやまや(宮城県)と資本業務提携を結んでおり、ワインを基軸商品とする専門輸入商社であるコルドンヴェール(東京都)を共同出資で設立している。
小売業が直輸入を取り扱うメリットと注意点
では、小売店が直輸入ワインを販売する利点はどこにあるのか。自社で輸入機能を持つ場合も輸入代行を使う場合も、小売店が直輸入を行う目的は2つに大別される。その1つが「低価格の訴求」だ。
先述したインポーターと小売店のあいだには、本来であれば問屋(場合によっては二次問屋も)が介入する。そうした問屋取引を省略することで低価格を実現できるわけだが、問屋を介さないことのリスクもある。
たとえば、仕入れた商品がヒットしなかったり、あるいは仕入れ前のテイスティングと味が異なったりする場合もある。そのため外部のプロフェッショナルな輸入者から仕入れたほうが結果的にコストを抑えられる場合もある。
もう1つの目的が、「ほかにはないこだわりの訴求」だ。直輸入商品の利点は商品を自由にハンドリングできる点にある。ただその場合は、商品の開拓能力が必要不可欠だ。「ソムリエ」「ワインアドバイザー」などの資格を持っているだけでは不十分で、ワインの品質だけではなく、トレンドや売れ筋を見極める能力が必要となる。また、ワイナリーとのつながりを持った、現地のプロフェッショナルとのコネをどうつくるかも重要だ。
ワインの資格といえば、日本では「ソムリエ」が知られているが、ワイン業界では「マスター・オブ・ワイン(MW)」も権威のある資格と言われている。日本人では現在、MWの有資格者は1 人しかいない。一方、欧米では企業規模の大小にかかわらずMWを持ったバイヤーがいるスーパーもある。このように日本と欧米とではバイヤーの能力に大きな差があるのが現状だ。直輸入ワインを展開する、もしくはこれから展開したいと考えている小売業にとっては、バイヤーの能力開発は大きな課題になるだろう。