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10月開催の「シアル・パリ2024」は食の多様化と課題をどう解決するか?

2年に1回フランス・パリで開催され、日本からもメーカー各社や小売業のバイヤーなどが多く参加する、世界最大級の総合食品見本市「SIAL Paris(シアル・パリ)」。今年は10月19日からの5日間、130を超える国・地域から7500社以上が出展し、40万点以上の商品が展示される予定だ。コロナ禍を経て、そして世界的なインフレに伴う物価高騰下で、食に対するニーズや課題が多様化するなか、シアル・パリはどのような役割を担うのか。

「シアルの意義は不変」28万人が来場見込み

 シアル・パリは、フランスのコメクスポジウム社主催で2年ごとに開催されているイベントだ。コロナ禍を経て消費トレンドが大きく変化・多様化するなかにあって、世界最大級の総合食品見本市であるシアル・パリは、食に関わるあらゆる事業者にとって重要な位置づけのイベントになっている。

 2020年はコロナ感染拡大に伴い中止となったものの、22年はコロナ前の18年を超える規模で開催されるなど、シアル・パリに対する期待は以前にも増して高まっている。そして60回目を迎える今年の「シアル・パリ2024」は、130を超える国と地域から7500社以上が出展、40万点以上の商品が展示される予定だ。また、小売業や卸企業のバイヤー約8000人を含め、流通関係者およそ28万人の来場が見込まれている。

 

2022年はコロナ前の18年を大きく上回る規模で開催された

 今年5月にPRのために来日したシアル・ネットワークジェネラルダイレクターのニコラ・トラントゾー氏は、「コロナ禍では『国際見本市に未来はあるのか』という厳しい見方もわれわれの中ではあった。しかし、食品という五感に訴える商材は、オンラインではなくリアルで、生産者や製造者、バイヤーが一堂に会して、コミュニケーションをとりながら情報を共有することが何より重要。22年の開催規模がコロナ前を超えるものだったことからも、シアル・パリの意義は不変であると確信している」と強調する。

 このように世界の食品ビジネス関係者からの注目度がさらに高まるなか、今年のシアル・パリでは、出展ブースの配置方法を大きく変更する。従前の国・地域ごとに区分したレイアウトから、生鮮食品、加工食品、冷凍食品、オーガニック、さらにフードテックなど、商品カテゴリーやテーマ別のレイアウトに一新する計画だ。

 「過去の来場者アンケートでは、約8割が商品ジャンル別にブースを回りたいというニーズを有していることがわかった」(トラントゾー氏)ことを受けたもので、来場者は自身の興味・関心に近いブースを中心に、効率的に情報収集ができるようになる。

参加者の約8割が取引を成立

 なお、「シアル・パリ2024」の出展スペースのほとんどはすでに予約で埋まっており、一部のゾーンではキャンセル待ちが出るほどとなっている。

 ちなみに、国別の出展スペースの総面積はイタリアが1万6000㎡以上と最大になる見込みで、アジアからは中国が6000㎡超のパビリオンを設置する予定。このほかウガンダやリビア、イラクなどアフリカ・中東諸国からの初出展も目立ち、世界各国から最新の食品やトレンド情報が集積する場となりそうだ。さらに、100以上の公式代表団も各国から訪問する予定で、「“食の外交”の場としても大きく機能するだろう」とトラントゾー氏は説明する。

 日本からは、伊藤園やかどや製油、日本畜産物輸出促進協会など複数の企業・団体が出展を表明(4月時点)している。また、日本貿易振興機構(JETRO)も「ジャパンパビリオン」を展開し、地方メーカーを中心に日本の食を海外に向けて提案する場を設ける予定となっている。

 トラントゾー氏は、「来場者のおよそ8割が、シアル・パリをきっかけに取引を成立させているというデータもある」としたうえで、「日本とフランスは食に対する愛がとりわけ深いという共通点がある。今年は60周年という節目でもあり、日本の食品産業に携わるすべての皆さまにシアル・パリを訪れていただき、自社のビジネス成長に生かしていただきたい」と力を込めた。

食の多様化がグローバルで加速するなか、運営サイドはシアル・パリの意義や重要性をどう見ているのか。そして、日本からの参加者に期待することとは何か。シアル・ネットワークジェネラルダイレクターの二コラ・トラントゾー氏に聞いた。

シアル・パリは単なる展示の場ではない

──食に対する消費者ニーズや消費トレンドが多様化するなか、世界最大級の総合食品見本市であるシアル・パリの役割はどう変化していると見ていますか。

トラントゾー とくにコロナ禍を経て、食を取り巻く環境は大きく変わりました。シアル・パリとしても、そうした変化に寄り沿うことが求められていると感じています。

 最も大きく、重要な課題として認識しているのは世界的な人口の増加です。増加率こそ下がっていますが、世界総人口はまだまだピークアウトしていません。つまり、人口増をカバーするだけの規模の食市場を維持しないといけないわけですが、それは簡単なことではありません。

 同時に、食料自給率が低迷する国も増えてきています。そうした食資源の少ない国では、日々食べる食材そのものを変えなければならない、「食のトランジション(移行)」を検討する必要も出てくるでしょう。

 またコロナ禍では、先進国を中心に外食から内食へのシフトも顕著になりました。食品メーカーや小売業では、提供する商品の規格や設計自体の再考も迫られました。そのほかにも、フードテックやAIなど、食市場に密接にかかわる技術革新も進んでいます。

 シアル・パリは、単に世界中からさまざまな食品を集積して提案するという場ではありません。食市場で起きている変化やトレンドを参加者全員が共有でき、各々が抱える課題解決のヒントを発見できる場を提供する。それがわれわれの重要な役割だと認識しています。

──世界的なインフレに伴う物価高騰も、食ビジネスに大きな影響を与えています。これに対してシアル・パリはどのようなソリューションを提供できますか。

トラントゾー インフレによって食へのアクセスが困難になり、選択肢が狭まっていることは事実です。たとえばヨーロッパでは、高所得者層がアルディ(Aldi)のようなハードディスカウンターに流入するという現象が、ここ数年加速しています。

 そうしたなかで“Simply Good”、「シンプルだけど、おいしい」という特徴を持った食品へのニーズが高まっています。より少ない材料と工程で製造できて、手に入りやすい価格で、それでいて味や品質はよいという商品です。

 ただし誤解してはならないのは、そうした商品だけに需要が集中するわけではないということです。消費者はその時々のシーンに応じて、「味には多少目をつぶっても安いものを選ぶ」こともあれば、「品質に妥協せず、よりよいものにお金を払う」といったふうに考え方を切り替えています。

 そうした消費マインドは、近年指摘されている食の多様化をより促進させることになるでしょう。実際に今年のシアル・パリで展示される商品やサービスは、そうした多様性を参加者に実感させるものになるでしょう。

食市場をグローバルで俯瞰することが重要

──今年のシアル・パリについて日本からの参加者に向けてとくにアピールしたい点はありますか。

トラントゾー 日本に限った話ではありませんが、自国の食市場のみに注意を払っていては、グローバルで進む食の多様化を理解することはできません。シアル・パリはその理解を促すための重要な場になると断言できます。

 繰り返しになりますが、シアル・パリは単なる食の展示会ではありません。消費トレンドを予測したり、商品開発のヒントを得たり、新たなテクノロジーに出合ったりと、食ビジネスのさらなる成長・拡大を図れる「機会」なのです。バイヤーに限らず、マーケティングに携わる方にとっても意義ある場になるはずです。

 また、バイヤーの方については、言語の壁はあるかもしれませんが、とにかく各ブースで密なコミュニケーションをとっていただきたいです。というのも、輸入食材を自国で“定番化”させることは非常に難しく、そのハードルを越えるためには、商品に関する“深い”情報──開発の背景、開発者の思い、その国での消費トレンドなどをバイヤー自身が認識しておく必要があるためです。

 今年は展示スペースがとくに広大です。時間は限られるかもしれませんが、ぜひ隅から隅まで、さまざまな国と地域からやってきた出展者のブースをできるだけ訪れ、自社の成長につながるような商品・サービスとの出合いにつなげていただきたいです。