デザインを変えるだけで繁盛店になる―。なか卵、すきや、吉野家(吉は正しくは士+口)など数々の外食チェーンやコンビニエンスストアの外装デザインを手がけてきたOLLDESIGNの大西良典社長はそう断言する。「ダサカッコイイ」デザインを標榜し、来店者増、売上増に結びつけている。そのコンセプトと実例を自著「コロナ危機を生き残る飲食店の秘密」から2回にわたってお届けする。1回目はローソンの中国店舗のリニューアル。
非常識を常識に変えた中国「ローソン」の快進撃
私のデザインポリシーは「郷に入れば郷に従え」です。
第2章でお話ししたとおり、外国に出店するときは本国のルールを振りかざすのではなく、あくまで現地のニーズに最も合うデザインにするのが得策です。
中国で「ローソン」の店舗デザインを手掛けた事例をもとに、郷に入っては郷に従うデザインがいかに大切であるかについてお話しします。
「ローソン」はロゴデザインや店舗のデザインに細かな規定はあるので、海外でもデザイン変更が容易ではありません。しかし、中国にある「ローソン」の日本人社長は現地のニーズを熟知した人物で、「中国でチェーン展開するなら、店も中国に合わせたデザインにするべき」という考えの持ち主でした。
そのため、彼は日本本社に対して「中国現地に即した『マチのほっとステーション』(ローソンのスローガン)にするには中國のお客さまの嗜好をもとにした中国独自のデザインの店舗を作りたい」と申請したのです。そして、彼は私にこう言いました。
「ぜひ中国現地のニーズに合うローソンのデザインをしてほしい。責任は私が全部取るから」
私は彼の男気溢れる英断に賛同し、それによって日本ではあり得ない型破りなインダストリアルデザインのローソンが大連に、キッズ向けのポップなローソンが重慶に誕生することになったのです。
インダストリアルデザインは、英国の産業革命時代のファクトリーの雰囲気をイメージさせる空間デザインです。「男前デザイン」ともいわれるように、骨太のアイアン素材などを多用したクールな雰囲気で近年人気はあります。といっても、食品や日用品を扱うコンビニエンスストアはクールすぎると敷居が高くなって気軽に入店しにくくなります。また、個性が強すぎるデザインはチェーン展開が難しくなります。
そこで私は、各地でのチェーン化を視野に入れ、お客さまが気軽に入れるようにチューニングした「ダサカッコイイローソン」をデザインしました。カッコイイ方向に振り切れば、もっとシンプルで未来的なデザインにできましたが、現地の人たちが気軽に入りやすい雰囲気づくりを優先したのです。ガラス張りの外観や商品棚に黒いアクセントに用いて、カウンターなどにはウッディな素材をあしらいました。
イレギュラーな存在がスタンダードに
結果、欧米のおしゃれなフードショップのような雰囲気になり、たちまち人気店になりました。さらに、重慶では親子をターゲットにした「キッズローソン」も手掛け、子どもがワクワクしてハッピーになるような遊び心のあるデザインにしました。
中国だから全部が全部、同じ統一にすればいいわけではないのです。大連と重慶で私がデザインした2つの異色な「ローソン」は話題を呼び、中国のフランチャイズ加盟が2割も増えました。
最初はイレギュラーな存在でしたが、需要が増えたことで、今ではこの「ローソン」が中国のスタンダードになりつつあります。規制があるとなかなか冒険がしにくいかもしれませんが、収益という結果を出せば、このように厳しいルールが緩和されることもあるのです。
店のデザインをするときは、最初から「これはどうせムリ」と決めつけず、既成概念を打破するチャレンジ精神が必要だと私は思います。