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新型コロナウイルス影響下での プロモーション戦略像=2020年秋冬 注目マーケティングトレンド

─withコロナ時代の販促手法とは?

世界中のあらゆる生活の場面において未曾有の危機を投げかけた新型コロナウイルス。復興をめざす日本の社会や経済においても、今なお大きな不安や影を落としている。新しい生活様式や新常識の受け入れは、日常の買物行動にも反映され、今後の小売業やメーカーのマーケティング活動やプロモーションのあり方にも対応が求められる。この数カ月の売場やネットにおける展開を振り返りながら、これからの時代の取り組み方の〈ヒント〉を見つけたい。

新型コロナウイルスの感染防止に取り組む小売業

写真/Pixfly

 新型コロナウイルスという目に見えない敵と戦いながらの数カ月。小売業の従業員やスタッフは息つく間なく、商品の供給から売場づくり、店内や接客上の衛生・体調管理と次々と対応を迫られた。メーカー、制作会社やチラシなどの印刷会社との商談やルーティーンの打ち合わせの時間をつくることも容易ではなく、従来予定をしていた販促計画やイベントは延期や中止に。しかし、この間の売上は客数は伸び悩みながらも客単価が向上し、企業によっては月度の売上が過去最高を示すなど、既存店の業績はおおむね好調だった(主要食品スーパー〈SM〉の3月の売上は2カ月連続のプラス)。小売業の中では、非常時ではあるが「折込チラシや販促を行わなくても売上を高めることができる」「この新型コロナウイルスによる影響が落ち着いたら、買物行動が変わる」「キャンペーンやプロモーション以上に安心安全が担保できる店づくりや商品の供給が何よりも大事」 ── そうした声が聞こえるようになる。今後のマーケティング活動や販促の役割とは何か? そうしたテーマを考える前に、買物の意識や行動が変わることで売場や売り方がどのように変わるのか、「新しい売場の流儀 Styleof the sales floor」について考えてみたい。

新型コロナウイルスの(以降の)時代の新・売場の流儀
Style of the sales floor

「買物の目的」を買物客にわかりやすく示す。 お客さまは自分の買物に迷い、悩むことが多い。買物の目的(インサイト)を気づかせ、そのヒントや答えを新しい体験(行動につながるスイッチ)とともに用意する。
買物の品がわかりやすく買える売場をつくる。 シニア層の多くは、自分の買う商品を売場の目的地(棚)として認識している。従来の棚替えなどが頻繁に行われる売場からシニア層(または、有職女性など買物の行動が明確な客層)に対して新しいフォーマットで展開する。わかりやすい売場づくり=買物客に選ばれる店舗につながる。
一定の距離を保ちながらも「楽しさや発見のある買物体験」にする。 “セイフディスタンス”それはお客さまとの距離を保ちながらも、お客さまの買物行動をサポートするための工夫を示す。企業によっては専用の腕章やサインを付けながら、お客さまへの問い合わせなどに積極的に応える活動を実施。
「安心や安全が実感できる」売場づくりや商品の提供とお客さまへの啓蒙活動。 売場における衛生管理の徹底と合わせて、買物を通じてお客さま自身のセルフメディケーションやセルフマネジメントへの意識づけを行う。
店や売場に長くいなくても買物ができる仕組みをつくる。 お客さまにとっての快適で気持ちのよい買物を追求する。高齢化が進む中でI T対応でよいことと、人(従業員やスタッフ)を介して行ったほうがよいことがある。新型コロナウイルス以降にはオムニチャネル化や商品のピックアップの方法を考える。

 

今後のプロモーションのあり方を考える

チーズや冷凍商品の売場ではPOPで家ナカ消費を訴求。オードブルや手づくりも含めたデザート商品の売上が伸びる(左)専門店や施設ではお家での新たな楽しみ方を啓蒙するソーシャル・プロモーションの展開(右)

 いずれ業務が平時に戻るとマーケティング活動やプロモーションの考え方は、新型コロナウイルスの影響を受ける以前のとらえ方とは違う発想が生まれるだろう。その時に小売業は新しい売場や売り方を念頭に、メーカーやステークホルダーと一緒にどのような効果的な取り組みができるだろうか? プロモーション戦略の5つのポイントを挙げてみた。

①「行動をデザインすること」を意識する

母の日に限らずに、今後は買物客の買物行動に注目。〈デザイン〉した企画が期待される

 今年の母の日に日本花き振興協議会が「今年は5月を母の月」として1カ月間コミュニケーションを展開をした。家事の負担が普段の生活以上に大変だったお母さんや来店されるお客さまやお店のスタッフの安全を案じたこの企画は、母の日における買物行動を変えた。展開期間を1カ月とすることで買物客の行動量と機会を増やして、売上を向上させる結果につながった。買物客の新しい購買行動を創出し、それを習慣化することを意識したい。

②「本当に試してみたい!」をつくる

 新型コロナウイルスの影響から売場における試食や試飲、化粧品関連のお試し(サンプルやテスターの設置)などが取り止めになり、商品購入を後押しする大きな決め手を欠くことになった。今後、売場における衛生管理が一層厳しくなることで実証体験型のアプローチは難しくなるだろう。そこで、味や香りや触感などを従来と別の方法で「見える化」することで、買物客への新たな納得、共感を得る。これは①にもつながる。

③応援してくれる企業・専門家とつながる

 今後、消費者の節約志向の高まりから暮らしや家計応援をテーマにしたお買い得(まとめ買いやセット商品)による訴求企画も大切になる。また、医療や健康や食に関するさまざまな専門家が小売業とメーカーの企画に参画することで、お客さまとの関係により強い信頼を築くなど新しいシナジー効果を活用したい。

④セルフメディケーション(Self-medication)を意識する

 直訳すると自分自身で健康を管理し、あるいは疫病を治療するセルフケア。セルフマネジメントと同様に、海外のドラッグストア(WalgreensやCVS/pharmacy)などで訴求されるテーマ。衣食住を通じた健康管理、家族との暮らしのあり方を含めた取り組みが今後さらに注目される。これらのテーマは生鮮品の訴求を重視する小売業にとって新しい切り口となる可能性を持つ。

⑤オンデマンドで迅速に対応する

 今回の新型コロナウイルスの対策を進める中で、小売業はメーカーとの商談が思ったように進まず、売場のテーマ訴求や演出を自社の機材を活用してオンデマンド印刷で対応。売場で活用できる情報(行動をつくるテーマ)やコンテンツ(情報やワクワクの演出)を日常的にメーカーと共有しながらオンデマンド印刷を活用すればコストダウンとスピーディーな対応が図れる。

 この数カ月の環境が私たちの生活様式や買物行動のあり方を大きく変えてニューノーマル(新しい状態)をつくり出した。日本の社会が迎える少子高齢化という問題以上に、世の中のさまざまな仕組みを変える大きな波になった。生活のライフラインである小売業のプロモーションのあり方も今まで以上に知恵を結集させてこの状況を乗り越えて行く必要がある。本誌で紹介をしたプロモーション戦略の5つのポイントに「その企業のらしさ(特徴)」が加わることで、その差別化や推進力がさらに高まることを願いたい。

倉林 武也(くらばやし たけなり)
株式会社リテイルインサイト 代表取締役コンサルタント アカウントプランナー

美術学校・私立大学卒業後に株式会社クレオに入社。企画職、営業開発部、教育研修部部長として流通小売業、メーカー、サービス業のマーケティング、プロモーションの業務に従事。2018年11月に起業、株式会社リテイルインサイト(千代田区大手町)を設立。代表取締役。コンサルタント、アカウントプランナーとして主に大手メーカー企業、リテイルにおいて、消費者や買物客のインサイトを起点にした行動デザインの応用や、実務的なデジタルの活用など人や組織を動かす仕組みを追求している。2015年から2020年の国内外の主に店頭におけるプロモーション事例を収集・分析。学習院マネジメント・スクール研究員。