スーパーの総菜からあげが、年々レベルアップしている。からあげブームの影響もあるが、ドラッグストアなど異なる業態が台頭してきたことで、差別化を図る必要があったことも一因に挙げられる。スーパーならではの価値を発揮するものとして、総菜からあげはどのような進化を遂げているのか? 2つの企業に直撃取材した。
ライフコーポレーション:希少価値の高い純和赤鶏のムネ肉を使用メディアの後押しで全国区の人気商品に!
総菜からあげの活性化のため素材を一から見直す
ライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)の総菜からあげといえば、2019年の「第10回からあげグランプリ®」(日本唐揚協会主催)において、東日本スーパー総菜部門で最高金賞を受賞した「純和赤鶏むね唐揚げ」(首都圏店舗で販売)が有名だ。スーパーの総菜と侮るなかれ、からあげ専門店に引けを取らない味に仕上がっており、主催者側の審査員もうなったほどだ。
そんな本格派の総菜からあげが誕生したきっかけは「ライフらしい総菜」を確立したいとの熱い思いである。“素材、製法、出来立て”の3つにこだわったライフらしい総菜の実現のために、同社では3つの方針を掲げた。1つ目は主力商品の改良、2つ目は強化カテゴリーへの注力、3つ目は独自性の追求だ。
同社における強化カテゴリーとは、市場の伸びとライフでの販売動向にギャップがあるカテゴリーのことを指す。市場は伸びているにもかかわらず、それをうまく取り込めずに伸び悩んでいた商品の1つがからあげであり、ここにメスを入れ、全体の底上げをめざしたのである。この難題に挑んだのが、首都圏商品本部チーフバイヤーの中島敬一氏だ。
「既存の商品をブラッシュアップするのではなく、まったく新しい切り口のからあげを開発する必要があると考えました。これまでは調味液の種類や配合などにこだわっていましたが、今回は素材そのものを見直すところから始めました」
日本生まれで日本育ち純和赤鶏のおいしさを生かす
強化カテゴリーを活性化させ、独自性も発揮できる総菜からあげを実現させるために、中島氏らが着目したのが純和赤鶏だ。純和赤鶏とは、基礎鶏から育種改良した純国産鶏種同士を交配させて生まれた鶏種のこと。そもそも国内で流通する鶏肉の中で、純国産鶏種同士をかけあわせた鶏種はわずか1%程度であり、純和赤鶏はその1つ。当然、希少価値が高く、コストもかかる。
だが、日本人がおいしいと感じる肉質に仕上げているだけに、これ以上の素材は見当たらなかった。なにより同社の畜産部では以前から純和赤鶏を扱っており、お客からの認知度も高いため、中島氏らは総菜からあげの素材として使うことを決めた。昨今の健康志向に配慮し、選んだのは鶏ムネ肉だ。繊維が細かく、柔らかな肉質ゆえ、そのおいしさを最大限に生かすために、下味は塩麹を使ってうまみを引き出した。さらに、1個当たり約40gの大粒サイズに仕上げた一方、衣は薄衣に。こうすることでサクッと歯ごたえがあり、肉汁がジューシーなからあげをつくることに成功した。
「チェーンストアの課題である標準化については試行錯誤の連続であり、今なお取り組んでいるところです。からあげ粉をまぶしてから5分寝かせたり、温度を変えて2度揚げしたり、調理担当者にはこうしたプロセスを丁寧にわかりやすく教えながら、標準化に向けた取り組みを継続して行っています」(中島氏)
約1年の開発期間を経て、18年12月、ライフ ムスブ田町店(東京都港区)で初めて販売した。試食を用意し、出来立てを量り売りで販売したところ、100g258円という価格ながら飛ぶように売れ、一気にヒット商品に。その後、テレビでも紹介され、さらにからあげグランプリ®で最高金賞を受賞したことから、首都圏全店舗での販売へ。今後は調理工程も見直し、さらなるブラッシュアップをめざす考えだ。
イオンリテール:誰からも愛される王道の味をめざし5つのこだわりをもつ「唐揚げ 唐王」を開発
看板商品の伸び悩みをいかに解決していくか
イオンリテール(千葉県/井出武美社長)において総菜部門を統括する食品本部デリカ商品部長の金子聡氏によれば、からあげはベーシックメニューの1つであり、“店の顔”ともいえる看板商品だという。
「商品の良し悪しはお客さまの反応ですぐにわかり、それによって総菜全体の評価が決まると言っても過言ではありません」それゆえ、からあげの商品開発には絶えず力を入れてきたが、ここ数年、“視界不良”に陥っていたと明かす。創意工夫に取り組むものの、なかなか数字に反映されず、難しい時期が続いていた。
そこで金子氏らは、何が伸び悩みの要因なのかを分析することから始めた。大きな課題は2つ。1つは店内調理だからこそ生じる規格のズレだ。各店でつくると、粒の大きさや揚げ具合などが試作品と微妙にズレてしまう。店舗によってつくり手が異なるため、多少のズレが生じるのは致し方ないにせよ、その幅をいかに小さく抑えるか? そしてもう1つはプロモーションの方法だ。商品名の認知も含め、総菜からあげの魅力をうまく伝え切れていなかった。
「ベーシックな料理だからこそ、逆に難しい。自信をもって販売できるからあげをつくることはもちろん、再現性の高いレシピに落とし込むことが急務でした」(金子氏)
じっくりと腰を据え、開発に取り組むこと半年余り。ついに完成したのが、その名も「唐揚げ 唐王」だ。「唐揚げの王道をめざす」という思いを込めて名付けられたからあげは2019年10月より販売を開始した。
課題だったオペレーションとプロモーションにも注力
商品開発を担当した米沢哲也氏によれば、誰からも愛される味をめざし、5つの点にこだわったという。
まず1つ目は、コクのあるうまみとさっぱり後味を両立させるために、高知県産生姜と焼きあごだしを調味液に加えたことだ。一般的な昆布やかつおのだしではなく、トレンドの焼きあごだしを採用することで差別化も図ったのである。
2つ目は、人気が高まるからあげ専門店にならい、1粒25gから40gにボリュームアップし、ジューシーさと肉感を高めた。
3つ目は、昨今のトレンドに合わせて薄衣に。しかも、国産米粉をブレンドし、歯切れのよい薄衣に仕上げた。
4つ目は、下味となる調味液に塩麹を使用した。これにより、風味の良さはもちろん、肉自体が柔らかく、ジューシーさを保てるようになった。
そして5つ目は、濃口、薄口、たまり醤油の3種の醤油を使用したことだ。濃口やたまり醤油だけを使うと、揚げたときに真っ茶色になってしまい、見た目のおいしさが半減してしまう。そこで肉の中に味を行き渡らせる漬け込みには濃口とたまり醤油を使い、肉の外側には薄口醤油の風味と色味が出るように使い分けた。「総菜からあげの場合、温め直して食べる場合が少なくありません。そのため、再加熱を前提とした商品設計にしており、今後も改良を続けていく予定です」(米沢氏)
課題だった規格のズレについては、オペレーションを見直すことで改善を図っている。従来のように、手順どおりに工程を追っていくのではなく、最終形から逆算して工程に落とし込むという手法によって、標準化のハードルを低くした。
また、プロモーションについてもこれまでにない規模感で実施している。日本唐揚協会の八木宏一郎氏とタレントの彦摩呂氏による「唐揚げ 唐王」の食レポ風動画を店頭でPR用に流したり、からあげグランプリ®(日本唐揚協会主催)にも初出品するなど認知拡大に徹底注力。さらに、「だから今夜は家でトリハイ&カラアゲにしよう!!」をキャッチコピーに掲げるサントリーの「トリス」ブランド製品とコラボした売場も展開している。同社では、「唐揚げ 唐王」のブランド化をめざすとともに、長期的な育成にも取り組んでいく。