スポーツ用品メーカー大手のミズノ(大阪府/水野明人社長)は近年、BtoBを主軸とするワークビジネス事業でその存在感を強めている。2025年3月期(24年度)、同事業の海外も含めた売上高は142億円となり、対前年度比24.1%増と大幅に伸長。27年に国内事業の売上高200億円という中期目標も掲げている。ミズノは非スポーツ分野でなぜ安定した好業績を残せているのか。ワークビジネス事業部長の宇野秀和氏に聞いた。
売上高が7年で5倍超、中期目標は200億円に
ミズノの25年3月期通期の業績は売上高2403億円(対前期比4.6%増)、営業利益 208億円(同20.2%増)、経常利益214億円(同10.7%増)、当期純利益152億円(同6.5%増)で、いずれも過去最高を更新している。
業績好調の要因はフットボールや野球などのスポーツ品の伸長が挙げられるが、ミズノには国内売上の伸長を支える“もう一つの柱”がある。それが、非スポーツ分野で急成長を遂げているワークビジネス事業だ。
ミズノのワークビジネス事業の歴史は意外にも長く、発足は1997年にまでさかのぼる。当時から別注の企業ユニフォームを企画・販売していたが、2016年3月、ワークシューズの販売を皮切りに事業を本格化。19年4月にはワークビジネス事業部を設立し、事業の強化に取り組んできた。
「ワークウエアは、着ている人のパフォーマンスを上げるという点で、スポーツウエアと非常に似ている。スポーツ用品を長年手がけてきた当社にとっては、非常に親和性の高い分野だ」と語るのは、ワークビジネス事業部長の宇野秀和氏。この言葉を裏付けるように、16年度に27億円だった売上高(海外も含む)は、19年に53億円となり、23年度には100億円を突破し、24年度は142億円と大きく伸長。27年度に国内事業のみで200億円をめざすとしている。
スポーツ由来の機能性が差別化の源泉に
ミズノのワークウエアの販売形態は、デザイン・素材・仕様を一からつくり上げる「完全別注」、カタログ品をベースにした「ミズノカスタムスタジオ(セミオーダー)」、既製品の「カタログ販売」がある。
中小企業様向けに小ロットからでもオーダー可能なミズノカスタムスタジオは、800種類以上にカスタマイズ可能で、「ジャケットのみ」「パンツのみ」といったオーダーにも対応する。企業ロゴや反射材なども追加可能で、“ほぼオリジナル品”のユニフォームを作成できる。これらはすべてオンライン上でデザインシミュレーションから発注まで完結でき、多くの企業に活用されている。
スポーツウエア開発で培った高度な機能性も多くの企業から評価されている理由の1つだ。代表例が、同社独自の立体設計技術「ダイナモーションフィット」を使用した商品。この技術は3次元コンピュータグラフィックスや人体の解剖学データを活用し、しゃがむ・伸ばす・ひねるといった作業時の身体の動きに沿ったパターン設計を可能にするというもの。これにより、着用時の突っ張り感や動きづらさを軽減し、現場作業の快適性と効率を高めている。
スポーツシーンでの汗臭抑制のために開発された消臭素材「ミズノデオドラント」も現場で高い評価を得ている。「襟まわりに『ミズノデオドラント』テープを取り付けるオプションは、契約されるほとんどの企業さまからご要望をいただいている」と宇野氏は語る。
「クーリング・ボディマップ」に基づき効率的な冷却を実現
昨今の猛暑を受け、注力しているのが暑熱対策だ。ミズノは近年、ファン付きベストやネッククーラーなど、熱中症対策に特化したアイテムのラインアップを強化。ファン付きのアイテム自体は他社製品も多く出回っているが、同社の製品は空気の流れを「首・脇・裾」など人体の冷却効果が高い部位に重点的に設計しており、効率的な換気と冷却機能の高さで差別化している。
これに加えて、24年6月には次世代のクーリングギア「アイスタッチデバイス」シリーズを発売。同シリーズは電流を流すと冷却する「ペルチェ素子」を搭載しており、ベスト型の「アイスタッチデバイスベスト」、首巻き型の「アイスタッチデバイスネック」、頭部冷却用の「アイスタッチデバイスインナーキャップ」の3種をラインナップ。とくに冷却効果の高い首元や頭部を集中的に冷やす仕様となっている。
これらの製品は、科学的根拠に基づいた効率的な冷却設計がなされている。ミズノでは、アスリートの体温調整メカニズムに着目し、身体の各部位を冷やした際の効果を可視化した独自設計「COOLING BODY MAP(クーリング・ボディマップ)」を開発し、ワークウエアにも応用した。同シリーズを自社ECサイトで販売したところ、「アイスタッチデバイスベスト」はわずか5日間ほどで完売。現場からのニーズの高さを裏付ける結果となった。
小売業向けのシューズをサミットと共同で開発
ミズノのワークビジネス事業において確固たる人気を誇るのがワーキングシューズだ。25年1月に発売された「オールマイティ LL 11L」は、建設業や運輸業といった重作業を伴う現場向けに開発された新モデルとして注目を集めている。
同商品は、ミズノのワーキングシューズとしては史上最軽量となる仕様で、26.0cmサイズで片足約295gの軽さを実現。日本保安用品協会(JSAA)のA種規格をクリアする安全性も備えている。
これまでは主に建設業、運輸業などに向けワークシューズを展開してきたミズノだが、近年は小売業向けの商品開発にも本格的に着手している。その象徴となるのが、24年7月に発売した「FREEROAD EU 31L」だ。
このモデルは食品スーパーのサミット(東京都/服部哲也社長)と共同企画し、食品小売業で想定されるあらゆるリスクに対応した仕様となっている。アウトソールの溝には油や水で滑りやすい床面での転倒リスクを最小限に抑えるべく、液体がたまりにくい意匠を施した。接地面には鏡面仕上げを施し、床との接地面積を増やすことで高い耐滑性を確保。さらに、靴底をつま先が上がるようなソール形状にすることで、つまずき防止にも配慮している。第三次産業における労災の約4分の1を占めるとされる転倒事故への対策として開発された商品である。
ミズノでは小売業に続き、製造業など他業種へのワークウエア展開にも意欲を見せている。製造現場で使用されるワークウエアは、高い耐久性が求められることから、今後はポリエステル以外の素材開発にも注力し、「製造業向けにアピールできる商品を組み立てていきたい」と宇野氏は意気込む。