ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(千葉県/澤田宏太朗社長)と、服のお直しサービス「キヤスク」を運営するコワードローブ(千葉県/前田哲平社長)は、ZOZOが展開する生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO」を通じて、ファッションブランドがZOZOTOWN上でインクルーシブウェアを受注販売できるサービス「キヤスク with ZOZO」を8月10日から開始した。
「着やすさと自分好みのサイズやスタイルで、障がい当事者を含めたすべての人がファッションを楽しめる世界をめざす」と題し、インクルーシブウェアの生産支援に乗り出したZOZO。多くの人が気軽にファッションを楽しめるようになった今日において、注目されている「インクルーシブウェア」とはどのようなものなのか。
新たな価値を創造する「インクルーシブウェア」とは
ZOZOによると「インクルーシブウェアとは、障がいの有無や体形の違い、性別に関係なく、誰もが便利に使える『インクルーシブデザイン』の考え方を取り入れた服」と説明されている。
そもそもインクルーシブデザインの定義とはどのようなものなのか。インクルーシブデザインとは、疎外されてしまった個人のニーズや特定の問題を見つけ、解決し、社会全体に新しい価値や利益を生み出すという考え。誰も仲間はずれにせず、ユーザーの声を反映した商品やサービスをデザインするという考え方だ。
誰もが自由に楽しめるファッションにおいて、障がいや病気、怪我などの理由で着たい服を選択できない人々は、メインストリームから排除されてしまっている。「着たい服」を選ぶことよりも、機能性を重視し「着やすい服」を選びがちになってしまう。このような特定の人々の抱える問題やニーズを理解し、一緒に衣服をデザインすることこそ、インクルーシブデザインの考えだ。Inclusiveは「包括的」という意味なので、その意味のとおりだとわかる。当事者が抱える問題を共有し、ともに解決するという考え方は、いまや多くの企業が推し進めている。
今回ZOZOが協力したコワードローブは、「着たい服を着る日常を、すべての人に。」をスローガンに、既製服を自分好みに着やすくするためのお直しを依頼できるサービス、「キヤスク」を運営している。同社はこれまで、800人を超える当事者へのヒアリングを行い、延べ300人以上の障がい者、病気のある人にサービスを提供してきた。この知見を生かすことで、当事者だけではなく、同様の悩みを抱える人にとっても効果的な機能やデザインをブランドに提案できる。
第一弾として発売される「座っても立ってもかっこいい!車いすでも動きやすい魔法のデニムチェアーパンツ。サイドのファスナーで着替えがラクラク、ペットボトルから作られた地球にやさしい素材でできています(両開き4分)」(1万4980円、以下税込)と、「座っても立ってもかっこいい!車いすでも動きやすい魔法のチェアーパンツ。サイドのファスナーで着替えがラクラク」(1万1980円)の2商品は、車いすユーザーの悩みに応えた商品だ。
同商品は着脱しやすいように、「腰から裾」または「腰から膝」まで開閉できるファスナーをパンツの両脇に取り付けている。また、体の同じ部位が長時間圧迫されて血流が悪くなってしまう「床ずれ」が発生しにくいように、臀部には縫い目をつくらない設計を採用した。当事者だからこそ感じるファッションの悩みを解決し、機能性とデザイン性をあわせ持った商品となっている。
ユニバーサルデザインの衣類とインクルーシブウェア、何が違うか?
近年、すべての人が着やすいよう考慮された「ユニバーサルデザイン」の衣服や、男女兼用(ユニセックス)の商品が増えている。これらが社会全体に浸透してきているのに対して、特定の人々に向けたインクルーシブデザインの衣服はまだそれほど広がっていない。そのような状況下でZOZOがインクルーシブウェアの普及に取り組む意義、ZOZOだからこそ可能になることはどのようなことなのか。
インクルーシブウェアをつくるにあたって、ブランド側が特定の人の抱える問題を見つけ、その人々に向けた商品づくりをしていく。つまり、想定する購買層は特定の悩みを抱える人々であり、広くない。前述したユニバーサルデザインの服などと比較すると、大量生産して在庫を抱えることはブランドにとってリスクにつながるのだ。
ZOZOが取り組む意義、ECサイト活用の利点
ZOZOはこの問題を、自社のサービスによって解決している。それがファッションブランドの在庫リスクゼロをめざすZOZOの生産支援プラットフォーム「Made by ZOZO」だ。同プラットフォームは、商品の企画・設計から調達、生産、物流、販売までサプライチェーンを一気通貫でサポートするというもの。ZOZOTOWN上でお客からの注文を受けた後に生産を行い、受注から最短10日で発送する。このシステムの活用によって、ブランドはニーズに対応した複数のサイズやデザインを用意しておけば、在庫を抱えることなく販売を行える。ここにZOZOが取り組む意義がある。キヤスクの知見を生かしたウェア開発に加え、豊富な色展開も可能になっており、障がいを抱える当事者が自分好みの服を選べるメリットがある。
ZOZOTOWNには24年3月末時点で1566店のショップが展開されている。「キヤスク with ZOZO」の取り組みに共感したブランドがデザインを開発することによって、サイト内で多くのインクルーシブウェアが販売されるようになる。同一サイト内に選択肢が増えることによって、お客側も気軽に服を探せるのだ。これこそ、ECサイトが中心になって取り組む大きなメリットではないだろうか。
障がいの有無にかかわらず、すべての人がファッションを楽しめる環境が実現できるか、今後の取り組みに期待だ。