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パジャマスーツから高価格帯まで!AOKIがヒット商品を連発できるワケとは

AOKI(神奈川県/森裕隆社長)が202310月末に発売した「金のスーツ」が計画比約135%と好調に推移している。約9万円の同商品は同社でも高価格帯。スーツ離れが進む中で、売るハードルは決して低くはない。20212月に1万円を切る格安スーツで潜在需要を掘り起こしたマーケティング力は定評だが、今回はどこに勝算を見出したのか。開発担当者を直撃し、その戦略を探った。

「ものづくり」の想いと技術を集結させた一着

ウール100%で5色展開

 「金のスーツ」は創業から65年を記念し、AOKIのものづくりの想いと技術を集結させた一着として2023年10月に発売された。

 生地には、オーストラリアのニューイングランド地区で厳選して採取された、超極細毛の「SUPER150’sウール素材」を使用。これにより、上品な光沢感、滑らかな手触り、深く美しい発色が実現し、ワンランク上の上質感を見た目と着心地で実感させる。

 加えて、パリコレデザイナーの島田順子氏が監修する唯一のメンズブランド「JUNKO SHIMADA JS homme」としての展開がプレミアム感を増し、大事なときに着用する一着として、所有欲をくすぐる逸品となっている。

ハードルの高い高価格をどうヒットにつなげたのか

 とはいえ、価格は1着8万7,890円と、オーダースーツでも5万円出せばそれなりものが買える時代に、既製品で約9万円の敷居は決して低くない。どこに勝算があったのか。

 同社商品企画部スーツ課の栗林努氏が明かす。「この10万円前後のハイクオリティの高価格帯商品は従来、百貨店やセレクトショップが扱っていた。ところがコロナの影響で品揃えを縮小し、上質な既製品スーツの買い場が減ってしまった。その結果、そこで購入していた方が買い物に困るようになった。そうした層を取り込めているのでは」

 コロナ禍でスーツ市場が縮小した際には、パジャマスーツやセットアップで1万円を切るアクティブワークスーツを短期間で開発。潜在ニーズや新たな需要を掘り起こし、ヒットにつなげた同社。今回は、コロナ禍で失われた買い場に狙いを定め、求められる商品をピンポイントで投下し、ニーズをすくい上げた。

機を見るに敏 次に見据える商機は

商品企画部スーツ課の栗林努氏

 市場環境の変化を敏感に捉え、柔軟かつ迅速に対応することで隠れた需要をすくい上げる同社。スーツ需要の大幅な伸びが期待できない中で、今後をどのように見据えているのか。

 「数字を見ていると、高価格帯と低価格帯に二極化しつつある。中価格帯は、コロナの影響でスーツの着用機会が減少した層の影響を受けている。その中で高価格帯は役職のある方に需要がある。まだ伸びしろはしっかりあると考えている」(栗林氏)

 1万円を切る格安スーツを大ヒットさせた同社は、安いのに価格以上のクオリティで顧客を満足させた。既製品の高価格帯製品ではもちろん、安くはないが、それ以上の価値を生み出す製品力で顧客満足度を高めている。常に消費者の期待を裏切らない点が、同社の最大の強みといえるだろう。

世間を意識し続けて65年

 「金のスーツ」は、同社の創業65年を記念して企画された。振り返れば、同社は1958年に「ビジネスマンが日替わりでスーツを着られる世の中にしたい」との想いとともに紳士服メーカーとして誕生している。

 在宅勤務が浸透すればパジャマスーツ、スーツ需要が縮小すれば格安スーツ、コロナ初期にはマスクも発売し、1000万枚以上を売り上げた。スーツの概念にとらわれない商品企画の数々は、まさに創業時のコンセプトそのままであり、65年変わらず世間を意識し続けている。

柔軟性を支える広い視野と事業の多角化

 スーツメーカーとしては厳しい市場環境を見据え、2032年までにビジネス4:カジュアル3:レディース3へのシフトを計画。広い視野で状況を俯瞰しながら市場に切り込むスタンスは、生き残るための進化を遂げるうえで理想的といえる。

 いまやAOKIグループではファッション事業以外が4割を占める多角化もまた、AOKIグループの柔軟性を力強く支える要素だ。複合カフェの「快活CLUB」「自遊空間」、カラオケの「コート・ダジュール」、24時間営業のフィットネスジム「FiT24」、ブライダル事業の「アニヴェルセル」は実は同社のグループ。その合計店舗数は800を超え、ファッション事業の約600店舗を大きく上回っている。

 ともすればピントがぼやけがちになるのが多角化のデメリットだとすれば、他の事業で補完ができるという基盤の強さがメリット。スーツ市場が縮小する中でも、斬新なアイディアで、ときに市場を掘り起こし、新規開拓もする懐の深さは、多角化のメリットを存分に生かした余裕から生まれるものなのだろう。

 市場の縮小に加え、カジュアル衣料分野からの参入組も増え、ますます先行き不透明なスーツ市場。二極化とボーダレスが大きなトレンドだとすれば、この先は独自の製造ノウハウがより際立つことになる。古参メーカーにとって、そこに商機があることは間違いない。あとはいかに世間と会話をし、最適な施策を最適なタイミングで打てるかが生き残りへの分岐点となる。