機能性ウエアでアパレル業界を席巻するワークマン(群馬県/小濱英之社長)が2023年2月に設立した「快適ワーク研究所」。作業を快適にするウエア製造のノウハウを新次元に引き上げるべく、協業先を企業/大学に拡大し、科学的に機能性を追求していく組織となる。その設立の背景や狙いについて、同社製品開発部長・快適ワーク研究所所長の柏田大輔氏と製品開発担当の中野登仁氏に聞いた。
労働力不足をウエアで補完
ワークマン快適ワーク研究所の所長として設立の背景を説明する柏田大輔氏の視線は、日本を覆う、高齢化による社会課題にフォーカスされていた。
「日本全体が高齢化の進行、そして現状では円安による外国人労働者の流出などで労働力不足が不可避の状況にある。そこで、せめて働き続ける人に対し、労働寿命を延伸してより長く働き続けてもらうことで、労働力不足を補完していければと」(柏田氏)
機能性ウエアでアパレル業界に旋風を巻き起こした同社らしく、ウエアで労働力不足に切り込むというわけだ。
すでに2製品の販売がスタート
昨年末から動き始めており、すでに研究所発の製品も販売が開始されている。
第1弾は2023年2月から本格販売がスタートした「アシストパワースーツ」。動力を使わず、軽量で簡単に着用可能ながら、背筋の使用率を38%以上も軽減できる。着用することで、筋力の弱い高齢者や女性でも、肉体労働の負担を軽減でき、より多くの作業をこなしやすくなる。
第2弾は「冷暖房服」だ。パナソニックホールディングスの100%出資会社であるShiftall(シフトール)と提携し開発したペルチェ素子による直冷方式の冷暖房ウエアとなっている。冷房は10度、暖房は43度になり、ボタンで簡単に切り替えができる。
数値としての裏付けを持った、より高次な機能性ウエア
「単に機能があるとか、新しい技術を取り入れるだけではなく、数値としての裏付けを持ったものをワークマンとして責任を持って販売していく。そのために当社では形にできない部分を企業や大学などの機関の力を借りながらしっかり開発していきたい」
柏田氏がこう話すように、高い機能性と安さのワークマンらしさではなく、同研究所では、高機能に加えエビデンスにもこだわり、科学的裏付けのあるワークアイテムを値段にこだわらず開発し、販売していく。つまり、いい意味でワークマンの「制約」を取り除くことで、より機能性を追求し、社会課題に踏み込めるほどのクオリティを目指す。
実際、上記2製品はそれぞれ9,800円、19,800円となっており、いわゆるワークマン価格と一線を画す。機能面も大学やメーカーの力を存分に借りながら、ワンランク上の機能を装備している。
法人を軸に販売も一瞬で完売
視線の先に、労働寿命延伸という大テーマを見据えるだけに、販路も法人が軸となる。発売済みの2製品は新たに立ち上げられた法人部門が担い、あっという間に製造分を完売。倉庫や警備会社、医療機関など過酷な労働環境にある企業を中心に、多くの引き合いがあるという。
企画から開発までのスピード感が強みのワークマンにとって、企業や大学との協業は諸刃の剣でもある。多くの実験や検証、データ収集などが増えることで、どうしても製造までの時間がかかってしまう。その結果、販売数が需要に追い付かず、限定生産を繰り返すことになる。
とはいえ、法人にとどまらず将来的には現在満足な供給ができていない個人向けの展開も視野に入れており、1000店舗に迫る販売網にあまねく行き渡るよう、体制は整備していく。
作業以外の「快適さ」の追求も視野
「快適ワーク」とネーミングされているものの、製品開発担当の中野登仁氏は「作業だけでなく、ワークの意味をもっと幅広くとらえて快適を追求していきたい」ともいい、子育てや家事などをサポートする機能性ウエアの開発も検討しているという。
さらに、日本赤十字看護大学付属災害救護研究所からも相談があり、「例えば災害時の避難所でいかに快適に過ごすことができるのか?といった視点での製品開発も今後、研究対象にしていきたい」と、柔軟に研究対象を拡大していくスタンスを示す。
機能性ウエアの可能性をどこまでも追求することで、よりよい社会にーーまさにワークマンの究極形を目指すことが、同研究所の存在意義となる。
作業服で機能性を追求し、そのノウハウをアパレルに活用。スポーツ領域やワークマン女子まで展開させ、すそ野を広げるワークマン。次なる領域が労働人口減少対策といってもなんら違和感はない。
ウエアによる動作の快適さをより身近に体感させた同社が、企業や大学などとより科学的に機能性を追求する先に、どんな革新があるのか。まずは過酷な職場を救うウエアによる、労働革命の成り行きに注目だ。