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発酵ブームに広がり スーパーや農協も活用可能なBtoBの発酵製造メーカーに注目

醤油、味噌、つけもの、みりん、酒、茶など、身近な醗酵食品の消費量が減少傾向にある一方で、「醗酵」がブームになっている。「醗酵」とは、目には見えない微生物が有機物を分解し、人にとって有用な物質をつくり出す働きのことだが、ことしの食品開発展では、「発酵ドリンクカフェ」が登場したように、従来とは違った側面から発酵が注目されている。(本稿は2019年10月2日から4日までの間、東京ビッグサイトで開催された第30回食品開発展2019での取材をベースとしています)。

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酒造メーカーが製造する植物発酵エキス

 液体、ペースト、粉末・顆粒、ソフトカプセル、ハードカプセル、丸剤など、さまざまな形態で供給されているものの、OEMとしての出荷になるため、その植物醗酵エキスの製造元として表に出ることのない企業に、澤田酒造(奈良県/澤田定至人社長)がある。

 同社は、1830年(天保3年)創業の酒造メーカーだ。植物醗酵エキスを製造することになったきっかけは、4代目当主の蔵人に対する思いやりからだった。

 冬の寒い時期、体調を崩しながらも、過酷な酒造りに従事する蔵人のことを思い、4代目の当主である澤田定司氏が、1935年、醸造学者でもあった自身の知識を活かし、身近な野菜や果実を酒蔵に生息する酵母菌で醗酵させた醗酵液を考案し、蔵人に飲ませた。これが現在の植物醗酵エキス『澤田酵素』の原型となるもので、「澤田の蔵からは病人が出ない」と近隣の村人たちのうわさになった。

植物醗酵エキスの製造元、澤田酒造

 現在の『澤田酵素』は、厳選した100種類以上の野菜、果実、山野草、穀類、海藻類を、沖縄産の加工黒糖などの糖類で仕込み、その浸透圧により抽出されたエキス(水溶性の栄養素や食物繊維)を、酒蔵に生息する「蔵付酵母菌」をはじめとする酵母菌により、醗酵・熟成させたものだ。

 一切水分を加えることなく、醗酵に約1年、熟成に1年から2年以上を費やし、じっくりと仕上げたエキスには、素材そのものの栄養素をはじめ、黒糖に含まれるミネラル、醗酵過程で生成されるアミノ酸(必須アミノ酸9種類)、有機酸(乳酸、コハク酸、酢酸が検出されている)や酵母、乳酸菌などの有用物質が含まれている。

 同社取締役営業本部長澤田尚与司氏は次のように語る。

「甘いものは健康にマイナスととられやすいが、糖分は醗酵、酵素分解することにより、果糖とぶどう糖に分解され、『澤田酵素』の甘さは、この自然由来のぶどう糖によるもの。人間の体にとって、プラスの糖分だ」

 そもそもが蔵人のためを思ってつくったものだったため、成分を掘り下げて調べる機会があまりなかったが、調べていくほどに、人にとってやさしいものが含まれていることが明らかになってきたという。

『澤田酵素』の原液ベースでのものだが、腸内改善に効果があり、便の色、形、回数など、腸内環境にプラスの影響が現れている。また、肌の水分値の上昇率もよく、肌荒れ改善にも効果が見込まれている。

  売れ残り品はB級品を発酵ピューレにして付加価値をつける

発酵ピューレを展開するアットハンド

 通常、醗酵には半年から1年はかかると言われている。ひとつの食品に対し醗酵に適した麹菌は1種類しかなく、どうしても発酵に時間がかかってしまうからだ。それに対し、21種類以上もの酵母が共生しながら醗酵できる特殊な種菌を用い、あらゆる果物、野菜、海産物などを、2日もあれば発酵を完了させられる技術により、売れ残り品やキズあり品にも、新たな商品としての価値を与えられると注目されているのが、アットハンド(香川県)の『醗酵ピューレ』だ。

「「佐賀大学の先生が発見した酵母で、もともとは、市場には出せない農家のB級品に付加価値をつけ、農家のブランドとして販売してもらうことを狙いにスタートした」(醗酵事業部醗酵工場責任者・植村洋一郎氏)

 3、4年すると、業界内にアットハンドの名前が知られるようになり、業務用としての用途も広まり、乾物業者、アイスクリームメーカー、化粧品会社などからオファーが入るようになった。

「昨年の食品開発展をきっかけにして、日高産昆布の試作品をつくっているところ」(同)

 一般家庭で昆布出汁をとる機会が減っているなか、それをピューレにすることで、新たな利用価値を見出そうという試みだ。試作品は昆布の色味そのままにピューレ状になったものだが、口にしてみたところ、昆布のうまみがしっかりと抽出されており、使い勝手もよい。さまざまな用途が考えられそうだ。

 変わったところでは、うに、かつおぶし、一味唐辛子、抹茶などでも試作したことがあるという。

 外食大手からの引き合いもある。こちらは試作品のペースト状態を確認しながら、商品化に向けて改良が進められているところだ。またJA(全農)からも、売れ残り品の再利用という話が入っている。

 この『醗酵ピューレ』は、添加物も一切入らず、野菜や果物などは素材感もしっかり残る。たとえばトマトの『醗酵ピューレ』は、トマト独特のツブツブ感にイチゴのような甘さがプラスされたものに仕上がる。健康志向の人には、ネットを通じて、アットハンドの『醗酵ピューレ』はかなり知れ渡っており、冬場はいちごやレモンのピューレがとくに人気だという。

「食品スーパーで売れ残った野菜を安く処分するのであれば、『醗酵ピューレ』に加工するほうが、高い付加価値をつけられる。瓶詰にするとコストもかかるが、パウチにして販売すれば、手ごろな値段で販売できるのでは」(同)