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精肉MDの新常識!相場高でも売上利益をアップさせる3つの方法とは

精肉MD大

旺盛な食肉需要に支えられたSMの精肉部門

 「精肉部門は食品スーパー(SM)にとっての、『利益頭』」──。これが、これまでの常識だった。日本国内において、精肉需要が高まったのは2000年代から。食生活の欧米化に伴い、食肉の消費量が急拡大した。農林水産省の「食料需給表」によると、魚介類の1人当たりの年間消費量は01年度の40.2㎏をピークに減少し21年度には23.2kgまで落ち込んでいる。代わって台頭したのが食肉で、01年度から右肩上がりに消費量が増え、21年度には33.8㎏と、魚介類を大きく引き離した。

 畜種別に見ると、21年度は豚肉が13.2kg、鶏肉が14.4㎏と過去最高を記録し、牛肉は6.2㎏と過去10年間横ばいで推移している。農林水産省畜産局食肉鶏卵課担当者は「とくに豚肉と鶏肉は、魚介類と比べて『安価』で手軽にタンパク質を補給できる食材として人気。また、近年は脂身の少ない生肉が市場に出回るなど、健康需要にも訴求できている」と分析する。

 小売業各社も、この旺盛な精肉需要を取り込んできた。流通小売業黎明期において、生鮮3部門の売場、とくに鮮魚と精肉売場はテナント営業に頼る企業も多かったが、1980年代後半からは、精肉売場の直営化が一般化する。70年代から関西の総合スーパー(GMS)の精肉バイヤーとして市場を観察してきたフードサポート研究所の馬渕靖幸氏は「SMにおいて、精肉売場の直営化に取り組んできた背景には、消費者の食肉需要の急速な高まりを受け、自社の利益部門として育成しようとする意図があった」と説明する。

 精肉売場における直営化の成功は、食肉の消費量が伸長する中で収益性を期待できるようになったという事実のほかに、店内加工の機械化とそれに由来する店舗オペレーションの効率化も大きな役割を果たしている。

 また、精肉市場は他の生鮮品と比べ相場が乱高下しにくいのも要因だ。青果はその年の気候により生産量が上下するケースが多く、鮮魚は漁獲量そのものが減少傾向にある。一方の精肉市場では、生産量が安定していることから、SMは値入れを安定して行い、利益を確保できる。

 こうしたさまざまな理由から、他の生鮮部門と比較しても、精肉部門は安定成長を続ける部門として期待されていた。また、近年は、大手チェーン各社がプロセスセンター(PC)を構え、精肉を安定供給する体制を整備している。10年代から始まった「焼き肉ブーム」を発端にした「肉好き」消費者の台頭もあり、各社の精肉売場は盛況を見せていた。

不安定な相場の影響で値入れが困難に

 しかし、そうした状況が変わりつつある。その大きな理由は21年後半から始まったコストプッシュ型インフレや為替要因などによる相場高と、インフレに伴い家計防衛意識の高まったお客が購入頻度を減少させているからである。

 農畜産業振興機構によると、輸入豚肉の代表的商品である「アメリカ産豚肉(ロース)」の卸売価格は、21年12月に100ポンドあたり72.2ドルだったのに対し、22年12月は100ドルと約38.5%値上がりしている。国産豚も同様で、JA全農ミートフーズ調べの東京都・横浜市・さいたま市の主要3市場の豚肉枝肉相場(上規格)は、22年平均で対前年比約10%増と値上がりしている。相場高の原因は、国内外を問わず、飼料価格やエネルギー価格の上昇、生産者の人手不足など構造的な問題によるところが大きい。

 大手SMの精肉部門出身で、精肉売場のコンサルティングを行っているブルーチップ総合研究所の木元治仁氏は、こうした輸入肉の相場高の状況を「SMの精肉部門にとっては大きな痛手。輸入肉の価格訴求は集客のための強力な手段だったので、その売価が上がると、お客の売場離れを招きかねない」と話す。「22年以降、とにかく相場が乱高下している。SMの精肉バイヤーにとっては、これまでのように安定した値入を行うことが困難で、それが部門全体の利益率の不安定化にもつながっている」(同)

 むろん、昨今の値上げ基調は精肉に限った話ではないが、「安さ」を理由にSMで精肉商品を買っていたお客が売場から離れる可能性もある。実際に本特集に際してmitorizが行ったネットアンケート調査でも、「特売の日以外は肉を買わない」「(購入する精肉の)品質は落としたくないので購入回数と買物する量を減らしている」「グラム当たりの単価をこれまで以上に確認するようになった」といった消費者のコメントが寄せられている。

今こそ調達を見直し利益商材の開発を

相場高の状況では、調達体制の見直しや肉総菜の開発、冷凍肉の拡充などに取り組む必要がある

 こうした相場高の状況下で、SMはどんな施策を打ち、利益を確保していけばいいのだろうか。前出の馬渕氏と木元氏は口を揃えて、①「1頭(半頭)買いによる安定した調達の実施」と②「端材の有効活用による、肉総菜の商品開発」を挙げる。

 ①の調達に関しては、部位ごとの仕入れを行うと原価が高くつくうえ、相場高の局面では値ごろ感を意識せざるを得ないため、粗利益がどんどん削られるためだ。1頭買いの方が部位別の仕入れよりも原価を抑えられる半面、在庫リスクを抱える可能性が高く、SMにとっては挑戦的な取り組みだとも言える。しかし、2点目の「端材の有効活用による、肉総菜の商品開発」を実行できれば、仕入れた肉を廃棄せずに商品化することで新たな利益の柱をつくることができ、一石二鳥である、というわけだ。

 また、大手SMのコンサルティングに定評があるアイダスグループの鈴木國朗氏は、これまで以上に店内加工の技術を高めることが必要になってくる、と指摘する。お客が精肉売場に求める第一条件は「信頼」であり、それを獲得すためには、たとえば小間切れ肉の脂肪と赤身のバランスを一定に保ったり、ハレの日向けのステーキ肉などの高額商品に関しては、ドリップが出ないように品質を保ったりする必要があるという。さらに、同氏は精肉部門では今後、冷凍肉の訴求がより重要になってくるとも分析する。「コロナ禍で伸長した内食需要と、それによって生じた『保存性の高い商品』に対する需要はコロナ後も定着する可能性が高い。独自性が高く、普段使いに重宝する冷凍肉を展開する精肉売場はお客に重宝されるだろう」(同)

 つまり、SMの精肉部門は、調達体制を見直し、インフレに悩むお客に訴求する新たな商品政策(MD)を実施することで、利益を確保しなければならない状況に直面しているのだ。

独自のMDに取り組む小売業各社

 すでに有力SM各社の精肉部門は、相場高の局面で、さまざまな施策を打っている。イオンリテール(千葉県/井出武美社長)は、お客の「不」を解消するMDとして、鶏もも肉のうす切りなどの商品を訴求。また、PCを積極活用することで、商品の安定供給を図っている。サミット(東京都/服部哲也社長)は、肉総菜を強化。お客の「あったらいいな」を実現するMDとして、グリルキッチンシリーズとレンジアップ商品を展開し、売上を伸ばし、リピーターを獲得している。

 関西エリアで総合スーパー(GMS)を展開する平和堂(滋賀県/平松正嗣社長)は、生肉商品に「栄養成分表示」を貼り付けるなど、健康志向のお客に訴求するMDを実践。自社ブランドの鶏むね肉やサラダチキンなどの商品が好調だ。さとう(京都府/佐藤総二郎社長)は、PCで製造する冷凍牛肉を展開するなど、競合他社にはない商品を訴求。商圏人口が少ないエリアで店舗を運営しているが、精肉部門は売上を伸ばしている。

 フード&ドラッグ企業として精肉をフルラインで展開するドラッグストア(DgS)のGenkyDrugStores(福井県/藤永賢一社長)は、DgS企業として唯一自前のPCで精肉を製造する。「100gあたり100円以下」を原則に、豚肉をメーンに価格を訴求し、商圏内のSMにとって脅威となる売場をつくっている。

 本特集では、こうした注目企業の取り組みや、専門家の提言、売場調査、消費者へのアンケート調査をお届けする。相場高で新たな局面を迎える小売業の精肉部門に対するヒントが詰まっているはずだ。