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海外でスイーツに使われる「お米のリキュール」はあの調味料!和のオーガニックが来ている

ファベックス2019と同時開催で行われたプレミアムフードショー。その一角では、オーガニックフードEXPOのコーナーがあり、日本人に見慣れた食品もブースを構えていた。いま、なぜ、その食品をオーガニックフードとしてあらためて訴求するのか。有機JAS規格を満たしながらも、酒税法適用のため、有機JASマークをつけられない伝統的商品(みりん)と合わせて、和のオーガニックの現状をレポートする。

 有機八丁味噌のファン、ゆっくりと拡大中

まるや八丁味噌は、大豆と塩と水のみを使い、“人の手を入れず二夏二冬、自然の摂理に従う”昔ながらの伝統製法により「八丁味噌」を製造販売する

 1337年(延元2年)創業のまるや八丁味噌(愛知県/浅井信太郎社長)は、大豆と塩と水のみを使い、“人の手を入れず二夏二冬、自然の摂理に従う”昔ながらの伝統製法により「八丁味噌(Hatcho Miso)」を製造販売している。

 同社が有機大豆を意識して使うようになったのは30年ほど前のことだ。

「そもそも八丁味噌は人工化合物を使わない自然食品や健康食品として、海外市場に輸出していた。米国で販売するのに有機食品のお墨付きがあるほうがよいということから、1987年、アメリカ有機食品認定機関OCIAの認証を取得した」(社長室室長・石原友保氏)

 当時の日本には有機の認証制度がなく、海外で有機認証を受けた大豆を原材料にして海外向けの「Hatcho Miso」を製造販売してきた。

 昔ながらの伝統製法で製造する八丁味噌は、もともと自然生成物の力のみで造るものだ。加えて、海外に比べて、日本の食品は、一定基準以上の商品が流通しており、「“お値打ち”なものでも安心・安全」だから、海外のようにオーガニックの認証がなければ信用して買えないという状況にもない。そういう環境にあるから、日本国内でわざわざオーガニックをうたって販売したところで営業的にはさほどプラスにならないという現実もある。

「それでも、こだわっている人は、オーガニックをめざして買いにきてくれる。ゆっくりとだが、有機八丁味噌のファンも広がってきている」(同)

■まるや八丁味噌
https://www.8miso.co.jp/

 

昔ながらの材料で自然の力でつくる醤油 

有機JAS 法隆寺醤油を製造するニシキ醤油のブース

 日本の醸造食品の多くは、味噌に限らず、自然の力に頼ることで造られてきたものだ。しかし中には、その後の科学技術やテクノロジーの発展により、人工的な環境のもとで大量生産が可能となり、食品スーパーの店頭ではいつでも手軽な価格で購入できるようになったものもある。その代表が醤油である。

 いまその醤油を、昔ながらの材料でイチから造ろうとチャレンジしている醸造元がある。1900年(明治33年)創業のニシキ醤油(奈良県/大方豊社長)だ。

 「醤油はいまや、いい意味で工業製品化し、自然の影響をほとんど受けることなく、日々の作業として大量生産できるようになった。その反面、醤油の味わいを決める酵母菌の大事さに対する想いが薄れてしまっている」(取締役営業部長・大方 栄氏)

 そうした想いから「昔ながらの材料で、本当に美味しい、醤油を造りたい」として始まったのが、現在の「有機JAS 法隆寺醤油」(以下、法隆寺醤油)だ。

 法隆寺醤油は、「有機自然栽培で育まれた大豆・小麦(北海道「笠農場」)」、「太陽と風の力で育まれた、伝統海塩(伊豆大島「海の精」)」、「奈良いかるがの里で生まれた、ニシキ醤油酵母菌群」によって、醸造されている。

 もっとも「最初からオーガニックの醤油を造ろうと始めたものではない」(同)。同社社長がフランスに出張に出かけた際、現地では生食から加工品まで、すべてにおいてオーガニックが5%くらいのシェアを占めており、オーガニック市場の可能性を感じ取ったこと、さらに生協との付き合いを通じて日本の生産者の中に、有機JAS取得農場として無肥料、無農薬、自然栽培で「小麦」と「大豆」を生産しているところがあることを知った。

 しかしそれだけで「本当に美味しい醤油」ができあがるわけではない。これまで醤油造りでは、目標成分に応じて原料の調達、配合を行っているが、今回の場合、初めて扱う自然栽培の原料であり、酵母菌とのバランスも手さぐりになったという。だができあがった醤油のうま味の値は、濃口醤油の特級の基準(全窒素分1.50%)を大きく上回るものに仕上がった。

 この法隆寺醤油をしっかり味わうには、「醤油だけのシンプルおすまし」、茹でた水菜にかけるだけ「水菜のおひたし」、アツアツご飯に、醤油をかけてから卵を落とす「醤油からかける卵かけご飯」などがおすすめだという。

■ニシキ醤油
http://www.nishiki-shoyu.co.jp/

 

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フランスでスイーツに使われる日本の伝統的な調味料

世界に広がるオーガニックみりん

40年も前から、海外のオーガニックマーケットに「Mikawa Mirin」を輸出してきた角谷文治郎商店

 海外ではオーガニック市場が広がりを見せている。長寿法を説く「マクロビオティック」の世界では、砂糖や塩化ナトリウムの使用が否定され、穀物由来の甘さとして「みりん」が浸透。「みりん」では通じなくとも、インターネットから「Mikawa Mirin」と入力するだけで、海外と簡単につながることができる。

 いまから40年も前から、海外のオーガニックマーケットに「Mikawa Mirin」を輸出してきたのが、1910年(明治43年)創業の角谷文治郎商店(愛知県/角谷利夫社長)だ。その販路は北米、EU、中近東、豪州、ニュージーランドに広がっている。

 同社では、同業が製造コスト削減のため醸造用アルコールや醸造用糖類の使用に走る中、「もち米、米麹、本格焼酎」のみを原材料にみりんの製造販売を続けている。

 同社みりんの価格は、他社同等品の2倍近くになる。その商品が日本で注目されるようになったのは、2011年の東日本大震災後の原発事故により、食の安心・安全への関心が高まり始めてからだ。海外のオーガニックマーケットでは当たり前のように求められる、食品安全国際規格の「ISO22000」および、食品安全のガイドラインである「HACCP」をいち早く取得、2000年には日本でのオーガニック認証の取得も済ませていたこともあり、「もち米、米麹、本格焼酎」だけで製造されるみりんとして注文が集まるようになったという。

 このところは、海外市場の開拓にあらためて力を入れている。

「オーガニックマーケットにより、海外市場を知っているつもりになっていたが、和食ブームのなかでのニーズには応えられていなかった。それに気づいて、フレンチの世界で通用する調味料をめざすことにした」(角谷利夫社長)

 ジェトロ(日本貿易振興機構)のサポートでパリでの商談会にも参加、「Mikawa Mirin」を「お米のリキュール」として訴求をすると、たちまち需要の開拓につながった。フランスではチョコレートに使われるようになり、それを知った世界を舞台に活躍する辻口博啓シェフは2019年の新作ショコラに同社の「三州三河みりん」を使用したという。

■角谷文治郎商店
http://www.mikawamirin.com/

 

 

 味噌、醤油、みりんは、日本を代表する醸造食品だ。今回取り上げた3社は、原材料や麹菌をはじめ自然の力に依存した昔ながらの伝統的製造法を守っている。しかし、自然と共存しコストと時間を要するその製造法は、時間とコストを抑えていかにパフォーマンスを上げるかを求める現代の風潮とは、良くも悪くも、明らかに真逆を行く動きである。

 だからこそ、彼らは、「オーガニック」という海外からの評価が集まる世界に商品を投入したのではないか。“海外の目”というその威を借りて、(外からの評価に弱い)日本国内での再評価、原点回帰への気づきを促しているのかもしれない。