アクシアル リテイリング(新潟県/原和彦:以下、アクシアル)傘下の食品スーパー、原信(同)とナルス(同)は、相次ぐ食品の値上げで消費マインドが冷え込むなかでも既存店売上高を伸ばすことに成功している。そんな同社がコロナ禍でとくに注力してきた商品政策(MD)のテーマが「癒し」「健康」だ。その具体的な取り組みと商品を、写真を多め使って紹介しよう。
22年度上期も客数伸ばし
既存店売上が2.3%増
コロナ禍で追い風を受けた食品スーパーだが、22年に入ると外食需要の復活や、相次ぐ値上げによる消費マインドの冷え込みなどにより、一転して厳しい経営環境に置かれた企業は少なくない。
こうしたなか絶好調なのが原信・ナルスだ。2023年3月期第2四半期売上高は対前年同期比3.5%増。コロナ禍で増えた買い上げ点数をほぼ維持しながら、店舗間競争が激化するなかにあって来店客数を同1.5%も増やし、既存店売上高は同2.3%増となっている。
そんな同社で注目したいのが、コロナ禍での消費ニーズの変化に応じてMDも進化させている点だ。まず、現在の原信・ナルスMDのベースとなるのが、15年から取り組む「ニューコンセプトⅡ+(ツープラス)」だ。これは、環境変化に合わせて①新しい商品展開、②あかぬけた売場、③生産性の向上をテーマに店づくりを行う「ニューコンセプトⅡ」から、MDのいっそうの深掘りをめざすというものだ。具体的にMDの深堀りとは、生鮮3部門の専門性向上と、生鮮各部門での即食商品の開発を強化している。
そこからさらにコロナ禍を機に推進してきたのが、冒頭でも述べている「健康」と「癒し」のMDだ。順に、具体的な取り組みと商品を紹介していこう。
和総菜の定番メニューを
「健康」志向の商品に改良
「健康」については、コロナ禍で消費者の健康志向が高まったことは周知のとおりである。そうしたなかで原信・ナルスは無理なく日常の食宅のなかで取り入れてもらいやすい形で、健康志向に対応した商品を提案しているのが特徴だ。
たとえば、和総菜の中でも定番のメニューであるうの花をリニューアルし「大豆香るしっとり卯の花」として販売する。塩分を抑えて4種の出汁でうま味を出したほか、香り豊かな信州産大豆を使用することで、より美味しさを追求し、タンパク質を積極的に摂取してもらえるようにしている。
魚や肉にヨーグルト!?
アイデア光る「極醸」シリーズ
体によいとされる発酵食品を提案する「極醸」シリーズもユニークな例としてとりあげたい。
同シリーズは主に鮮魚部門と精肉部門して展開しているもので、味噌や酒粕、ヨーグルトに漬け込んだ味付き魚・肉をコーナー化している。漬け込む調味液は「ヤスダヨーグルト」「八海山あまざけ麹」「越乃景虎酒粕」など、質の高い銘柄品を使っておりさらなる付加価値を訴求している。調理も簡単な簡便商品であり、鮮魚、精肉と双方での展開で、かつ調味液によるバラエティも出した、日常的に購入したくなる健康提案の好例と言える。
「シーン」をテーマに設定し
幅広い提案を生み出す
次に「癒し」のMDについては、コロナ禍で家で過ごす時間が増えたことで、自宅でスイーツを楽しむニーズが高まった。これに対して原信・ナルスの取り組みで特筆するべき点は、単にスイーツの販売を強化するのではなく、「癒し」というMDのテーマに落とし込んで商品開発、提案を進めている点である。
その背景について原信ナルスオペレーションサービス(新潟県/原和彦社長)常務取締役商品本部長の中川学氏は「スイーツを求める背景にあるお客さまのストレスや不安、自宅で寛ぎたいという心理に目を向け、それに対する提供価値である『癒し』をテーマに設定することで、幅広い提案が生まれるようにした」と説明する。この結果、実際にスイーツの提案にとどまらず、質の高い睡眠をサポートする成分を含んだ商品を集積し「睡眠改善」コーナーを展開した店もあったという。
スイーツのPB開発進む
素材でさらなる独自化を
また、「癒し」をMDのテーマに掲げたことで、スイーツのラインアップ自体もここ1年で一気に広がったという。主にプライベートブランド(PB)商品や即食商品で商品開発が進んでいる。
たとえばPB商品では、22年には、3月に「バウムクーヘン屋さんのバウムクーヘン」、4月に「牛乳屋さんがつくった牛乳ぷりん」、6月に「牛乳屋さんがつくったたまごぷりん」、8月に「国産小麦と卵のカステラ」、10月「しっとりひとくちドーナツ」と立て続けにスイーツ商品を発売している。
なかでもプリンについては「牛乳ぷりん」や「たまごぷりん」のほかに、同じくPBの「ごまとうふ」を使った「ごまどうふ屋さんがつくったごまぷりん」も販売。さらに即食商品の売場では、原信・ナルスで長年愛されるオリジナルの商品であるおはぎの餡を使った「生ようかん」を展開するなど、独自の素材を使うことよってオリジナル性をより高めた商品開発を実践している。
このように原信・ナルスの商品開発の例を見ると、消費マインドが冷え込む中でも、消費者のニーズに沿って、価値ある商品をしっかり提案できれば需要は掘り起こせることがわかる。消費環境が新たな局面を迎え、商品政策(MD)を進化させることが求められるなか、原信・ナルスの取り組みから学べる点は多いはずだ。