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消費者の変化と原価高騰に対応し、2022年の食品スーパーはこう動く! 食品MD総まとめ!

食品MD大

「調理疲れ」から総菜の売上が伸長

 新型コロナウイルスの感染拡大により、好調が続くスーパーマーケット(SM)業界。コロナ禍1年目の2020年度は外出自粛や在宅勤務の普及などの影響により家庭で過ごす時間が増大し、生鮮を中心に食品のニーズが拡大したことで、SM各社は大幅に業績を伸長させることとなった。コロナ禍2年目の21年度も、引き続き各社の業績は堅調に推移。20年度ほどの勢いは見られないものの、多くの企業がコロナ前の19年度の業績をクリアしている。

コロナ禍2年目では総菜やベーカリーの売上が回復している(写真はイトーヨーカ堂の店舗の売場)

 追い風が吹いているとはいえ油断は禁物だ。売上・利益を拡大するため、SM各社にとって商品政策(MD)の重要性はいうまでもない。健康志向やプチ贅沢ニーズの拡大など消費者の購買行動の変化や原材料・輸送費の価格高騰、食品強化の姿勢を強くするドラッグストア(DgS)をはじめとする業態を超えた競争の激化などを踏まえ、22年以降、顧客に選ばれる店になるためにSM各社はどのような方向性でMDを組み立てていけばよいのだろうか。

 周知のとおり、コロナ禍では消費者の生活様式や購買行動が変化しつつある。コロナ禍1年目と2年目の違いとして挙げられる点の1つが、簡便・即食商品の代表である総菜・ベーカリーの復活だ。1年目は衛生面での懸念からバラ売りや試食の提供ができなくなったほか、「3密」を避けるべく消費者が買物回数を減らしまとめ買いするようになったため、日持ちがしない総菜やベーカリーは苦戦を強いられた。ところがコロナ禍が長期化し、消費者の「調理疲れ」も見られるようになると、前年の反動から総菜やベーカリーの売上は回復傾向にある。

 コロナ禍で一時期は不調となったものの、共働き世帯の増加などライフスタイルが多様化するなかで、時短となる簡便・即食商品のニーズはコロナ前から伸長傾向にあった。感染状況が一定の落ち着きを見せ、飲食店の需要も戻りつつあるなか、味や品質を追求した自社にしかない総菜の品揃え強化に取り組むSMも少なくない。

 アクシアル リテイリング(新潟県/原和彦社長)傘下のSM企業フレッセイ(群馬県/植木威行社長)は、以前からMDの方針の1つとして「簡単便利」を掲げており、21年度は新店や改装店オープンのタイミングで次々と総菜の新商品を投入してきた。部門を超えた取り組みにも積極的に挑戦しており、なかでも最も成功したのが店内加工したローストビーフで、スライス商品だけでなく丼物や寿司としても販売し、人気商品となった。

 サミット(東京都/服部哲也社長)も以前から部門横断型の商品開発に取り組んできた。生鮮部門が仕入れた新鮮な素材を使った総菜はもちろん、火にかけるだけで出来上がる「店内手作り鍋セット」などの簡便商材も複数の部門が協力しあって製造している。全部門のバイヤーが集まる「バイヤーミーティング」を定期的に開催するなど、部門間連携ができる社内環境を整えていることもサミットの強さの1つだ。

冷食売場拡大に取り組む企業続々

 簡便・即食商品としては、冷凍食品のニーズも急速に拡大しつつある。従来の弁当のおかず用商材だけでなく、冷凍野菜などの素材系商品や一食完結型のメニュー、冷凍パン・スイーツなど大幅に品揃えを拡大するほか、冷凍食品にEDLP(エブリデー・ロー・プライス)の導入を開始するSMも少なくない。ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)は21年10月にオープンした新たな旗艦店「ヤオコー和光丸山台店」(埼玉県和光市)で、EDLPを訴求した同社最大規模の冷凍食品売場を展開するほか、生鮮売場の平台でも冷凍肉や冷凍魚の品揃えを強化している。

 総合スーパー大手のイトーヨーカ堂(東京都/三枝富博社長)も「イトーヨーカドー和光店」(埼玉県和光市)で同社最大の約80坪の冷凍食品売場を展開。同社は冷凍食品・日配品・総菜を一体化した売場を展開し、冷凍・冷蔵・常温の三温度帯で商品を取り扱う。顧客が自分の状況に応じて商品を選べるような売場を構築するという独自の施策に取り組んでいる。

来店動機となるPB開発が活発化

 食品強化を進めるDgSなど業態を超えた競争が激化するなか、選ばれる店になるための基本戦略としては、SMの強みである生鮮食品を軸に、鮮度向上や、カット野菜や魚の切り身、味付け肉などを拡充し利便性の提供に取り組むのも効果的だ。また、プライベートブランド(PB)をはじめとする、自社にしかない、来店動機となるような独自商品も有効な施策の1つである。従来、PBにおいてはナショナルブランド(NB)と同等の品質の商品を低価格で提供する戦略を採る企業が少なくなかったが、最近では競合との差別化のために味や品質を追求したり、NBにはないニッチな商品を開発したりする企業も多くなってきた。

ドン・キホーテは21年2月にPB「情熱価格」をリニューアルした

 ドン・キホーテ(東京都/吉田直樹社長)は21年2月、PB「情熱価格」をリニューアル。品質や安さに加え、思わず手に取りたくなる「驚きのニュース」を訴求した商品開発や販促に取り組み、売上を伸ばしている。リニューアルで商品の特徴を約70文字の商品名に詰め込んだ「年間売上5億円突破 ナッツを愛しすぎた担当者が独断と偏見で決めたアーモンド・カシューナッツ・くるみの黄金の究極比率 食塩・油を使わないこだわり」(315g/推奨売価698円)は、以前から年間売上約5億円だったが、リニューアルで7億円を超え、非食品を含む「情熱価格」全体で最高売上高を記録する商品に成長した。

原価高騰への対応が急務

 これまで見てきたように、消費者のニーズの変化に対応した商品を強化したり、他社との差別化につながる商品の開発に注力したりすることで、売上面では一定の成果を出している企業も少なくない。

 その一方で利益確保もSM各社にとって重要な課題である。しかし、コロナ禍では消費者の生活防衛意識が高まり節約志向が強まってるほか、最近では世界的に食品の原価や輸送費が高騰しているという厳しい状況だ。利益貢献度の高いPBも置かれた環境は同じで、以前のように高い粗利益率を確保することが難しくなりつつある。本特集で実施した食品小売業のバイヤーを対象とするアンケートによると、回答者の8割以上が自分の担当部門の仕入れ価格が上がったと回答。「業務スーパー」を展開する神戸物産(兵庫県)の沼田博和社長も、21年10月期の決算会見の場で「経験したことがないほどの原材料の高騰が起こっている」と危機感を露わにするなど、原価高騰は業界の深刻な問題となっている。

 こうした状況下、食品小売業は量目や商品内容、包材の見直しや仕入れ先の変更、生鮮素材を活用した総菜をはじめとする付加価値型商品の強化などさまざまなアプローチを駆使しなければならない。SMを中心に業務改善のコンサルティングに携わる新谷千里氏は、収益性改善のためには部門やカテゴリー単位ではなく、単品での売上・利益管理が重要だと指摘する。どの商品に値下げや廃棄ロスが多いのかを詳細に分析し、生産性向上につなげることが必要不可欠だ。

 一例として、フジ(愛媛県/山口普社長)はプロセスセンター(PC)の活用による収益性向上に取り組んでいる。鮮魚部門では、生食商品や塩干物のパック詰めなどをPCで一括して行うことで効率化を進める一方、店内では付加価値の高い寿司など、差別化や利益につながる部分に人時を集中させることで、20年度には黒字化に成功した。

 本特集で取り上げている9社はいずれも、消費者のニーズの変化や原材料の価格高騰などに素早く対応し、新たな商品開発や売場づくりに取り組んでいる。22年のMDの方向性を決めるうえで、各社の戦略をぜひ参考にしてほしい。

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