経営コストの上昇や消費の多様化など、小売企業を取り巻く環境は依然として厳しさを増している。そのなかで、この1年間だけでも各業態で大小さまざまな合従連衡の動きがみられた。業態ごとの足元の市場動向と、今後の勢力図の変化やその背景について、長年小売市場をカバーしてきたUBS証券の風早隆弘氏が解説する。
ウエルシアとツルハ統合は起こるべくして起こった
2023年度を振り返ると、ドラッグストア(DgS)業界で大きな動きがあった。イオン(千葉県)傘下でDgS最大手のウエルシアホールディングス(東京都:以下、ウエルシアHD)と、同2位のツルハホールディングス(北海道:以下、ツルハHD)が資本業務提携を締結し、経営統合に向け協議を開始した。
これは、起こるべくして起こった事象ともいえる。DgS業界は近年寡占化が進んでいるものの、依然として企業数は多く、まだまだ合従連衡の余地があるためだ。
ウエルシアHDとツルハHDの経営統合は、店舗や人材を獲得するうえで必要な「時間を買う」というメリットを両社にもたらすだろう。競争が激化し、差別化戦略に向けた投資が必要となるなか、経営統合によって店舗数が増えることで、投資効率を高められるのも利点だ。
経済産業省の商業動態統計調査によれば、23年のDgSの総売上高は8兆円を突破した。食品スーパー(SM)、EC、コンビニエンスストア(CVS)に次ぐ大きな規模となり、ECと並んで成長している業態である。そのためイオンにとっては“イオン経済圏”を広げるうえで、両者の経営統合は極めて重要なイベントだといえるだろう。
DgSは今後しばらくは、小売市場全体の成長率を上回る勢いで成長を遂げるものと考えられる。その理由は大きく2つ。①圧倒的な価格優位性を持つ食品のシェアの拡大が続く、②門前薬局からシェアを奪うことで調剤事業の成長も当面望める、ためである。
店舗飽和が進むなかで上位寡占化は必至
継続的な市場成長は期待できる一方で、
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