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本格到来!? 小売業のクラウド活用

 ● Case Study 1

クラウドサービスを2013年に導入
リソースコストを3分の2に削減!

イオングループ

イオン(千葉県/岡田元也社長)グループは2013年から、クラウドサービスを本格的に導入している。現在は、顧客サービスや社内向けのポータルシステムなどをクラウドサービスで運用しており、その稼働率は年々拡大しているという。大手流通グループはクラウドサービスをどのように活用しているのか──。

信頼性の高いクラウドサービスを導入

 イオンのグループ会社でITインフラ事業を担うイオンアイビス(千葉県/金子淳史社長)は、2013年からクラウドサービスの活用に乗り出している。

 

 採用したのは、日本マイクロソフト(東京都/平野拓也社長)が提供するクラウドサービス「Microsoft Azure」(以下、アジュール)だ。アジュールは、日本マイクロソフトのデータセンターがホストとなり、データベースやアプリケーション開発環境などをインターネット経由で提供するサービスだ。

 

 同サービスは、これまでは企業が独自に調達し管理しなくてはならなかったサーバーやシステムの開発/運用環境をクラウドサービスで提供することで、企業におけるIT運用を支援するもの。10年1月に「Windows Azure(ウィンドウズ・アジュール)」として世界21カ国で正式に開始され、14年3月に「Microsoft Azure」と名称変更されて現在に至っている。

 

 イオンアイビスITインフラ本部副本部長の篠原信之氏は、クラウドサービス導入の背景について、「クラウドサービスの試験運用の一環として、アジュールの導入を開始した。導入を検討した12年当時、同サービスは法人向けクラウドサービスとしての信頼性が高かった」と話す。

 

 導入に先駆けて、イオンアイビスは、10年にイオンの全国1000店舗以上に設置されたサーバーを、日本マイクロソフトの多目的サーバー「Windows Server 2008 R2 Hyper-V」に置き換えている。同サーバーは、OSやアプリケーションの仮想化環境を提供することで、より柔軟なシステム運用を可能にするのが特徴だ。具体的には、業務によって異なるシステム構成の最適化や、ソフトウェアをハードウェアから独立させることによるメンテナンスコストの削減などが可能になる。イオングループでは、同サーバーを導入することで、店舗系システムの品質を向上させながら、4000台以上のサーバーを半数程度に統合し、データ品質の向上とコスト削減を図っている。

 

「タッチ・ゲット」にアジュールを採用

オムニチャネルの実証実験として14年に開始した「タッチゲット」でアジュールを採用
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 イオングループでのアジュール活用は、12年後半から主にサブシステムを中心に行っている。ここでいうサブシステムとは、キャンペーン施策や新規事業、社内ポータルサイトなど、本業以外で必要となるシステムのことを指す。

 

 12年の試験運用段階では、マイクロソフトのデータセンターが香港にあったため、レスポンス面での課題があった。しかし、1年後にはこの課題が解消されたことから、アジュールを本格活用したサービスの開発・運用に着手したという。

 

 イオングループにおけるアジュール活用の大きな一歩となったのが、14年に開始した「タッチ・ゲット」である。タッチ・ゲットは、店舗に在庫がない商品を店頭のタブレット端末「A touch Ru*Run(エー・タッチ・ルルン)」で発注し、店頭や自宅での受け取りができるサービスだ。タブレット端末は現在、東京、千葉、神奈川、山梨の1都3県にあるイオングループの店舗に約1500台設置されており、約8000品目を取り扱っている。

 

イオンアイビスITインフラ本部副本部長兼データ基盤部部長の篠原信之氏

 「タッチ・ゲットは、オムニチャネルの実証実験として大々的に取り組んだ施策。お客さま向けのサービスのため、高品質で安全なシステムの構築を目標とした。ここでの運用経験が、社内ポータルシステムなどへの展開につながった」(篠原氏)。

 

 タッチ・ゲットの提供開始の翌年、同社はグループ企業の従業員向けのシステムでアジュールの運用を開始。グループ会社220社の従業員約40万人を対象として、各企業のポータルサイトの運営やグループ横断での情報共有を可能にした。

 

 「社内ポータルのシステムでは、従業員にとっての情報系の基幹システムとして、すべての情報をクラウドに移行した。この施策により、ユーザーの増加にも対応できるサービスとして、あらためてクラウドのメリットを確認することができた」(篠原氏)。

 

導入から4年で利用額が20倍に拡大

「WAONポイント」の会員向けウェブサイトでもアジュールを活用している

 こうした成果を受け、イオングループは「WAONポイント」の会員向けウェブサイトでもクラウドサービスを採用した。WAONポイントは、購入金額200円につき1WAONポイント(1円相当)が加算されるポイントプログラムで16年6月にスタート。同サイトでは、WAONの利用方法や、最新のキャンペーン情報などを配信している。

 

 「ポイントを利用するためのサービスの基幹となるシステムのため、DR(災害対策:ディザスタ・リカバリー)を検討する必要があった。アジュールを採用することで、拡張性を担保しながら、DRに対応したサイトを短期間で構築することができた」(篠原氏)。

 

 ウェブサイトでのアジュールの活用は幅広く、「おせち受注システム」「住まい探しサイト」「ブランドEC」などでも利用されている。「最新のアジュールは機能が充実しており、運用における技術的なハードルも非常に低くなっている。現在イオングループでは、アジュールを活用できそうな案件では積極的に使っていく、という方針になっている」と篠原氏は話す。

 

 イオングループでの、アジュールのサービス利用料金の支払額は、13年の正式な導入開始年と比較し、タッチ・ゲットを導入した14年は約4倍、16年では20倍となっている。同社が業務システムのクラウド化を加速させているのがうかがえる。

 

柔軟な料金システムで費用を節約

 サブシステム中心とはいえ、運用当初の20倍も利用を拡大している背景には、同サービスの柔軟な料金システムにも秘密がある。

 

 アジュールでは、「使用した時間」単位での支払いとなるため、使用しないシステムを「オフ」にすることで、費用を抑えることができる。たとえば、社内システムなど日中に使用するものは、夜間にシステムを停止することで利用料金を削減可能だ。イオングループの例であれば、「おせち受注システム」といった季節のキャンペーンシステムなどは、期間外に使用を停止させることで、その分の利用時間を節約できる。

 

 このような取り組みを通じ、イオングループでは、アジュールを活用することでプライベートシステムに近いクラウドと比較して、3分の2程度にリソース費用を節約できているという。

 

 「クラウドサービスのメリットは、『サーバーを資産に持たなくていい』ということ。必要な容量にあわせて自由に取り扱いを設定できるため、サーバーの調達や管理、売却などの手間がかからない。そのため、必要となるサーバーの規模がわからないオムニチャネル施策など、トライアンドエラーが必要な施策には、クラウドが活用しやすい」

 

 さらに篠原氏はこう続ける。「ITシステムは新陳代謝していくものなので、『やめやすさ』も重要になる。通常、サーバーの購入は『資産』となってしまうため、調達までのハードルが高くなってしまう」

 

 では今後、イオングループではすべてのシステムをクラウド化する構想はあるのだろうか。

 

 「すべてをクラウド化するか、という判断が迫られる時期が来るのではないかと思っている。とくに、ビッグデータの活用などは将来的にクラウド上で行うようになるのではないか。今後のサービス稼働率の向上や機能の充実などに注目しながら、より効率的な運用を進めていきたい」と篠原氏は話す。

 

 顧客サービスの向上、効率的な事業運営、そして徹底したコスト管理。イオングループのアジュール活用法は、この3つを柱として今後も拡大が続きそうだ。

 

 ● Case Study 2

POSシステムをクラウド上に構築
リアルタイムの売上把握が可能に

サッポロドラッグストアー

サッポロドラッグストアー(富山浩樹社長)は、北海道を地盤に190店舗超のドラッグストア/調剤薬局を展開する。同社は14年、道内で利用できる地域共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」を導入するため、POSシステムをクラウド化した。新POSシステムはエゾカ導入を実現する一方で、ITコストの削減をもたらした。

地域共通ポイントカード「EZOCA」導入をめざす

サッポロドラッグストアーはPOSシステムをクラウド化し、新店POS導入コストを削減した
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地域共通ポイントカード「EZOCA(エゾカ)」を導入するためPOSシステムを刷新した

 サッポロドラッグストアーがクラウドを利用したPOSシステムに刷新したきっかけは、道内のほかの小売業やサービス業でも利用できる地域共通ポイントカード、エゾカの導入であった。

 

 同社は14年6月に自社のポイントカードを地域共通ポイントカードに切り替える計画を持っていた。これを実現するために、他社が参加できるようにPOSシステムの改修が必要になったのである。

 

 POSシステム刷新プロジェクトの指揮をとった、サッポロドラッグストアー業務システム部IT開発担当マネジャーの小野寺雅樹氏はシステム会社やPOSベンダーに相談を持ちかけた。しかし、思うような返事を得られなかったという。

 

 「他社のシステムと連携できない自社内で閉じたシステムで、数千万円から数億円のコストがかかるという提案が返ってきた。POSシステムの刷新はなかなか前に進まなかった」

 

4U Applications取締役兼GRIT WORKS社長の久下雅幸氏

 そこで声をかけたのが、「POS4U」というPOSアプリの開発会社である4U Applications(以下、4U)である。当時4U社長だった久下雅幸氏は、Microsoft Azure(アジュール)のPaaS(Platform as a Service:パース)であるクラウド・サービスを利用することを提案した。久下氏は次のように話す。

 

 「アジュールはパースとして完成度が高い。初期投資を抑えながら、企業成長に対応した拡張性と柔軟性を確保するには、オンプレミス(自社運用)やIaaS(Infrastructure as a Service)ではなくパースがベストだと考えた。アジュールであれば、われわれのこれまでの.NET開発環境を活用できるメリットもあった」

 

サッポロドラッグストアー業務システム部IT開発担当マネジャー兼GRIT WORKS取締役の小野寺雅樹氏

 この提案に対して小野寺氏は「業務システムでのアジュールの活用については半信半疑だった」と言う。しかし、セキュリティや信頼性についての久下氏の丁寧な説明を聞き、最終的には久下氏の提案を受け入れた。

 

 13年6月にプロジェクトが立ち上がり、アプリケーション開発も動き出した。1年後にエゾカ導入が予定されていたため、それまでに完成させる必要があった。

 

 プロジェクトが始動した半年後の12月に本部売店のPOSレジをアジュールに接続し、翌14年1月には実店舗の接続実験に着手した。5月には全店のPOSレジ600台を接続し、新システムに完全移行した。そして6月に地域共通ポイントカードのシステムを接続し、計画どおりにエゾカの運用を開始した。

 

図表●サッポロドラッグストアーのPOS開発
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 その後、矢継ぎ早に機能を追加していく(図表)。14年11月にプリペイド方式の「EZOマネー」機能をスタート。15年3月に免税対応機能を付加し、5月にギフトカードを導入した。16年に入ると1月に銀聯決済、6月に電子マネー対応を開始した。

 

 短期間でさまざまな機能を開発できた要因について、小野寺氏は「4Uが開発したPOSアプリケーションのフレームワークでは、最小の手直しと最小のテストで動くようになっている。加えて、高頻度でバージョンアップして使い勝手をよくできるアジュールのメリットもあった」と説明する。

 

新店POS導入費用を削減、各店舗のストコンも廃止

 サッポロドラッグストアーはPOSシステムをクラウド化したことで、エゾカ導入という当初の目的を果たした。エゾカの加盟店は約100社に上り、道民の4人に1人が保有するカードに成長している。

 

 一方で、新しいPOSシステムは自社のITコスト削減ももたらした。コストを削減した分野は大きく2つある。

 

 1つは、新店のPOSシステム導入コストである。多くのPOSレジはハードウエアとアプリケーションが一体で販売されている。そのため、いったんあるメーカーのPOSレジを導入すると、たいていは新しくPOSレジを導入する際そのメーカーの製品を導入せざるをえない。それが、POSアプリケーションを自社開発しハードウエアとアプリケーションを分離したことによって、「ハードウエア間の競争が起きた」(小野寺氏)。既存のPOSメーカーへの依存度が低下するとともに、使用しない付属のアプリケーションのライセンス料も不要になった。その結果、新店のPOSシステム導入コストは44%削減された。

 

 もう1つは、サーバーの保守コストである。クラウド化し売上データをリアルタイム処理にしたことで、日々の売上データを蓄積していた各店舗のストアコントローラー(ストコン)が不要になり、初期費用・保守費用が削減された。また、オンプレミスのサーバーは5年ごとの更新や店舗数増加への対応も不要となった。これらにより、サーバーの保守コストは50%削減された。こうしたコスト削減以外にも、POSシステムのクラウド化はさまざまなメリットをもたらしている。

 

 たとえば、レシート単位での売上データのリアルタイム処理である。従来、各店舗の売上データはPOSレジからその店舗のストコンにいったん蓄積され、夜間バッチ処理で本部のサーバーに送られていた。これが、POSレジでレシートが発行されるたびに、それがクラウド上のシステムで集計される。その結果、独自開発したポータルサイトで、ほぼリアルタイムで各店舗の売上を把握できるようになった。

 

 また従来、マスターデータを更新したりPOSアプリケーションを改修したりする場合、遠隔操作によって各店舗のサーバーに入り、1台ずつ設定作業を行っていた。これが、クラウドを通じて一括して更新できるようになり、POSシステムの運用面でも効率化をもたらした。

 

 このほか、パースとしてのクラウド利用で、データ処理量が急増する年末年始の繁忙期にも、簡単な操作でキャパシティを拡張できるようになった。小野寺氏が「クラウドの醍醐味の1つ」と言うメリットである。

 

 新しいPOSシステムはこうしたメリットをもたらしたが、稼働後に問題がなかったわけではない。サッポロドラッグストアーが利用しているクラウド・サービスでは、複数の利用者がデータベースのリソースを共用しており、特定の利用者が大量にリソースを使った場合にデータを更新できなくなってしまうことがあった。その際、数秒後にリトライして対応する必要があったという。ただし現在は、自動リトライするなどクラウド独特の仕様に寄り添うことにより、こうした問題は解消されている。

 

受発注もクラウド化へ、在庫もリアルタイムで把握

 POSシステムをクラウド化したサッポロドラッグストアーが次にめざしているのが、受発注システムのクラウド化である。

 

 すでに、受発注や在庫のシステムのクラウド化に取り組んでおり、来春の稼働をめざしている。クラウド化によりリアルタイムで受発注データが把握できるようになれば、売上データのリアルタイム集計と組み合わせてリアルタイムの在庫管理も可能になる。同社はEC(ネット通販)サイトを運営しており、店舗とECを融合するオムニチャネル化をめざすうえで重要な在庫の一元管理も実現できる。これにより新たな経営戦略にも柔軟に対応できる基盤が整うことになる。

 

 情報系システムでクラウド・サービスを利用する小売業は多いが、基幹業務システムではセキュリティや信頼性の面での不安から、二の足を踏む小売業が多い。だが、サッポロドラッグストアーはPOSシステム刷新の経験を生かし、基幹業務システムのクラウド化にチャレンジする。

 

 さらに、クラウド化で得た知見・ノウハウを生かし、新たな事業にも乗り出している。親会社のサツドラホールディングスが66%、4Uが34%を出資し今年5月、小売業・飲食業のデジタル化を支援するGRIT WORKS(グリット・ワークス)を設立した。

 

 新会社は、サッポロドラッグストアーやほかの小売業・飲食業の基幹業務システム開発、POSシステムの販売、クラウド技術コンサルティングなどを手がける。またサツドラホールディングス子会社のAI TOKYO LABのAI(人工知能)研究・開発と協業することによる小売業・飲食業へのさらなる価値提案をめざしている。POSシステムのクラウド化から始まったサッポロドラッグストアーのIT改革は新たな広がりを見せ始めている。

 

 ● 注目のクラウドサービス

大手小売業が続々と導入!
顧客接点拡大と生産性向上を支援

Microsoft Azure

人口減少による需要縮小や労働力確保難に加えて、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com:以下、アマゾン)を筆頭とするディスラプター(破壊者)が急成長しており、小売業を取り巻く環境は厳しさを増している。そうしたなか、米マイクロソフト社は近年、パブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」(マイクロソフト アジュール:以下、Azure)の提案を強化している。国内の大手小売業も続々と導入しているAzureとはどのようなものなのか。

デジタル技術を活用しビジネス革新が加速

 米マイクロソフト社の日本法人である日本マイクロソフト(以下、日本MS)は、従来から国内小売業界向けの提案や、業界貢献活動を推進してきた。

 

 POS向けのWindows OSの提案や、店舗システムの国際標準仕様を策定する「OPOS技術協議会」の運営などのほか、最近では、経済産業省の電子レシート実証事業に積極的に参加したり、Azureに含まれるAIを活用した人流計測・需要予測・自動発注サービスを提案したりするなど、活動の範囲は幅広い。

 

 日本MSの流通サービス営業統括本部シニアインダストリーソリューションエグゼクティブの藤井創一氏は、「消費者の購買チャネルが、スマートフォン(スマホ)にシフトし、『オムニチャネル』がキーワードになった頃から、当社への問い合わせが急激に増えたと感じる」と話す。

 

 小売業界では、アマゾンを筆頭とするデジタルネイティブなディスラプターに対抗するため、「デジタルトランスフォーメーション」が加速している。デジタルトランスフォーメーションとは、アナログを前提としていた既存ビジネスを、クラウドやモバイルなどを活用して革新させていく動きを指す。小売業のデジタルトランスフォーメーションについて、藤井氏は「消費者とのつながりの強化、差別化された商品やサービス開発、業務生産性の向上といった方向性で進んでいる」と分析する。

 

小売業担当部門の人員を強化・拡充

 小売業のデジタルトランスフォーメーションを支援するため、米マイクロソフト社は小売業担当組織の強化を進めている。増強された本社の小売業担当組織のメンバーの約半数が、小売業あるいは情報システム子会社での職務経験者だという。「各メンバーは、グローバルの小売と情報システム双方の業界の最新動向を追いながら、各国の小売業や政府に先進的な提案を行っている」(藤井氏)。

 

 そして、今後の小売業におけるデジタルトランスフォーメーションの基盤として、米マイクロソフト社が強く打ち出しているのがAzureである。米マイクロフト社は、年間1兆円を超える研究開発投資の多くをAzureに投入している。

 

 Azureは米国政府に次ぐ世界第2位の規模の自社保有ネットワークで、100カ所以上のデータセンターと接続しており、東京と大阪を含めた世界42地域でサービスを提供している。これはアマゾンが提供する「Amazon Web Service(以下、AWS)」に比べると約2倍、Googleの約6倍の地域をサポートする規模になる。

 

小売業に適した最新クラウド基盤

 Azureでは、インターネット経由でサーバーやストレージなどを利用することができる「インフラストラクチャーサービス(IaaS)」とともに、データベースやプログラム実行環境などのプラットフォーム自体を利用できる「プラットフォームサービス(PaaS)」を包括的に提供している。

 

 昨今、Linuxをはじめとするオープンソースを活用する企業から、IaaS上への移植要望が増えている。Azureは、Windowsだけでなくオープンソースにも対応しており、すでにAzure内の約3分の1の仮想マシンがLinuxで稼働しているという。

 

 低価格戦略やコスト意識の強い海外大手小売業は、業務システム用の大量のLinuxサーバーをAzure上で稼働させ、大幅なコスト削減と安定稼働を実現している。また、Azureは機械学習をはじめとするビッグデータ分析用サービスや音声認識サービスのAIといった、精度の高いPaaSも豊富に提供している。サービス利用型で迅速に実装できるため、柔軟な変化対応や展開柔軟性を必要とする小売業にとって最適な性質を持っているといえる。

 

 最近は、店舗システムやECなど業務遂行上、誤作動や障害などが許されない重要システムである「ミッションクリティカルシステム」の領域でのAzure採用が進んでいる。それは、Azureによる多重データ複製機能や管理機能、国内データセンターの分散配置による災害リスクによるBCP(事業継続)対策などの特徴を持っていることなどが影響しているようだ。

 

 さらに、消費者データの分析・活用・管理のような、これまではセキュリティに対する不安からクラウドが利用されにくかった領域でも、Azureの採用は進んでいる。その大きな要因の1つが、米マイクロソフト社の長年にわたる企業システムのセキュリティ対策の経験と実績だ。Azureでは、外部からの攻撃や侵入に対して、専門組織が24時間体制で監視。サイバー攻撃に対しては、AIを使った防御機能を備えるなど万全の体制を敷いている。

 

 こうした取り組みが評価を受け、Azureは日本発のセキュリティ認定制度「クラウドセキュリティマーク ゴールド」を取得しているほか、世界各国でセキュリティやコンプライアンスに対する基準を満たす監査評価を受けている。また、クラウド上に保存されているデータの取り扱いに関しては、「他社クラウドと異なり、これらデータは小売業者など顧客の了承なしには、いかなる場合も開示しないという明確な基準を設けて運用している」(藤井氏)としており、顧客の安心とデータの安全を担保する上で大きな強みになっている。

 

先進的事例がAzure上で展開

米マイクロソフト社とアクセンチュア・アバナードで共同開発したCOOP Italyの「Future Store」
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ラーメン専門店「鶏ポタTHANK」でAIロボを導入
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 小売業界では、革新的な取り組みにおいてAzureを採用する事例が増えている。15年に発足した米ECベンチャーのジェット・ドット・コム(Jet.com)はその好例だ。

 

 「米国でアマゾンに唯一対抗できるEC」として注目されている同サイトは、膨大な商品を扱っており、常にアマゾンより安い価格で商品を提供することで消費者からの支持を集めている。同サイトでは消費者がカートに商品を入れると、商品の組み合わせや送料、そのほかのさまざまな価格要因からリアルタイムに最低価格に変動させる。

 

 この低価格戦略を実現するために、高度なアルゴリズムと膨大なデータをもとに、リアルタイムで処理を行えるコンピューティングリソースが必要であった。また、早期のサービスインに向けた開発生産性を高める工夫も必要であり、ジェット・ドットコムはAzureを採用することで、これらの課題を解決した。

 

 国内の小売業でも先進事例が出始めている。その1つが、ローソンのLINE公式アカウント「あきこちゃん」である。同サービスは、ミレニアル世代を中心として利用が拡大しているソーシャルの領域で、AIを活用して効率的に消費者とのつながりを強化しようというもの。

 

 Azure上で稼働するAIを活用して、ローソンのキャラクターである「あきこちゃん」をAI化し、顧客とのソーシャル上でのコミュニケーションを実現している。これにより、機械学習を活用した精度の高いパーソナライズをしたり、対話の中からのチャネルでは知りえない消費者の嗜好データを獲得したりすることできる。

 

 ほかにも、Azureは国内外で多くの導入事例があり、企業のデジタルトランスフォーメーションに大きく寄与している。代表的な事例は、日本MSの公式ホームページ上で公開されている。現在、日本MSにおけるAzureの売上高は1年間で約2倍となり、売上高全体の47%を占めるまでになっている。

 

 クラウドサービス市場は拡大を続けている。実際に、アマゾンは利益の大半をAWSが稼ぎ出している。「個人的な考えではあるが、アマゾンと小売業が競合関係にあると考えると、小売業がAWSを利用することには矛盾があるように思う。事実、米国ではウォルマートをはじめとした大手小売業やその取引先がAWSの利用をとりやめる動きが始まっているようだ」

 

 藤井氏はこう続ける。「AWSの競合関係にある弊社は、小売業のためにもAzureの提案を加速させていく使命があると感じている」と話しており、今後、さらに小売業への取り組みを推進していきたい考えだ。

 

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