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無人店舗向けに3つのサービスを提供、まずはマイクロマーケットを攻略 ヴィンクス 取締役常務執行役員 竹内雅則

流通・サービス業務向けパッケージ・ソフトウエア開発などを行うヴィンクス(大阪府/藤田俊哉社長)が無人店舗の開発展開向けサービスでも異彩を放っている。今年2月にはパナソニック(大阪府/津賀一宏社長)と業務提携を発表。マイカルやダイエーの血脈をくむ「流通系ITリーディングカンパニー」は躍進を始める。

聞き手=千田直哉(本誌)

国分グローサーズチェーンにシステム提供

──ヴィンクスの無人店舗(省人化)向けサービスは現在、大きく分けて3種類あると聞いています

竹内 そうですね。現在、最も進んでいるのは、オフィス内売店や工場内売店といったマイクロマーケット(限定商圏)を対象にしたサービスです。具体的には、国分グローサーズチェーン(東京都/横山敏貴社長)さんがマイクロマーケットで取り組んでいく無人店舗の開発や展開をサポートするかたちで「タブレット型セルフPOSシステム」など当社のソリューションを提供していきます。

 現在、マイクロマーケットを対象にした店舗とは、①従業員が常駐してレジ打ちしてくれるタイプの店舗、②パンやカップ麺などさまざまな自動販売機が並んでいるケースの2つが主流です。

 これを現金の扱いをせず、セルフレジを置いて会計してもらうかたちに変えていきます。もともと、事業所内なのでセキュリティは、ある程度、担保されています。しかも防犯カメラを設置しますので、万が一にでも万引きがあった場合もだれなのか特定することができます。

 こうすることで運営コストは確実に下がります。加えて、利用者の商品選択の幅も広がります。これまでマイクロマーケットでは、売り手の扱いやすい商品や売りたい商品をメインに品揃えされるケースが少なくありませんでした。国分グローサーズチェーンさんとの取り組みですので、お客さまからご意見を伺いながら品揃えに反映させていくことが可能です。

 仕組みはきわめてシンプルです。通常のセルフレジは、POSシステムがあり、重量検知のための秤が組み込まれたりします。しかも、アテンダントを常駐させています。

 けれども1号店では、そういうものをすべて取り払って現金決済をやめ、電子マネーやクレジットカードやモバイル決済にするだけです。一部の駅のキオスクでは自分で商品をスキャンして電子マネーで支払う形式をとっていますがあの延長です。技術面でのハードルは高くありません。

 マイクロマーケット対象ならばそれで十分という判断ですし、この需要は確実に大きく存在します。

パナソニックと業務提携

2018年2月16日、ヴィンクスはパナソニックと業務提携を結んだ(左:パナソニック青田広幸執行役員コネクティッドソリューションズ社副社長、右:ヴィンクス藤田俊哉社長)

──一方では、パナソニック(大阪府/津賀一宏社長)との取り組みも確実に進んでいます。

竹内 そうです。それが無人店舗向けの2つめの提案である「レジロボ®」になります。

 「レジロボ®」そのものはパナソニックの取り組みですが、その大まかな仕組みは、お客さまに商品のバーコードを読み取るためのセンサーを装備した専用の買物カゴを持っていただき、お客さまは商品購入を決めたら、そのセンサーに商品を近づけ、バーコードをスキャンする。そして、カゴをカウンターに設置された「レジロボ®」上に置くと、会計の明細と合計金額が表示されます。お客さまは決済手段を選んで支払います。

 精算が終わると「レジロボ®」が自動で袋詰め作業を開始します。買物カゴの底部がゆっくりと開き、その下にセットされているレジ袋に商品が落ちていきます。ケーキやタマゴといった壊れやすい商品でも、衝撃を受けて破損することがないようなつくりになっています。

──「レジロボ®」はRFID搭載の実証実験にも取り組んでいました。

竹内 そうです。2017年2月に商品にICタグを貼り付けるかたちで実証実験が行われました。これでお客さまは商品のバーコードをスキャンする必要がなくなりました。商品をカゴに入れて「レジロボ®」の上に置くだけで、瞬時に計算されるため、お客さまはより快適なショッピングができるようになりました。

 RFIDの導入はお客さまのみならず、小売店さまにとっても大きなメリットがあります。個品管理やリアルタイムインベントリー(現状在庫把握)が可能になり、商品の需要予測をより正確にできるとともに、販売期限や消費期限の情報も的確に管理できるようになっています。

 やはり大きなハードルになっているのは、そのコストです。現在、RFIDの価格は1枚10~15円ほどしますので、貼付できる商品は限られてきます。高額商品の多い衣料品や化粧品ならまだしもすべての商品への導入はまだ難しいかもしれません。

「ローソン 晴海トリトンスクエア店」と刷新された「レジロボ®」
パナソニックとヴィンクスのコラボレーションの1つ。棚札の位置に4Kディスプレーを付け、レシピや産地情報などを流すというもの

──そういう経緯があって、今年の2月16日にパナソニックと業務提携しました。両社の持つ知見・技術・事業基盤・ネットワークなどを相互に活用して新しい購買スタイルの構築やサプライチェーンの高度化など、小売業向けの先進的なソリューション開発を行うという幅広い内容になっています。そして、両社は今年5月に「ローソン 晴海トリトンスクエア店」で、新たな「レジロボ®」の実証実験に着手しました。

竹内 「 ローソン パナソニック前店」の実験を進展させたものです。今回はどんなPOSレジでも導入できる特長を持つ当社の「ANY-CUBE®」を組み込み、小売店が「レジロボ®」を導入しやすい仕様にしています。見た目は、あまり変わっていないように見えるかもしれませんが、汎用性は確実に高くなっており、中身は大きく変わっています。

 パナソニックさんと連携をして、小売業ラッグストア企業もあります。そのほかにも、数社から検討のオファーを受けているところです。

スマートシェルフの可能性

──ヴィンクスの無人店舗ソリューションの3番めは、どういうものですか?

竹内 当社では、「スマートシェルフ」と呼んでいるものになります。

 今話題の「アマゾンゴー」ではないのですが、お客さまが商品を取ったら、そのことを認識するという仕組みになります。

リテールテックに出展したヴィンクスのブース
イシダとの協業で重量センサーによる「スマートシェルフ」が提案された

 今回のリテールテックにおいて展示したのですが、これはかなりの反響がありました。類似するシステムを出している企業があまりなかったことも注目を集めた一因だと考えています。

 ハカリメーカーのイシダ(京都府/石田隆英社長)さんにご協力いただき、減重量からお客さまがいくつ商品を取り、在庫がいくつあるのかわかるというものです。

 技術的には、棚を支える部分に重量センサーが付いています。1SKUの重量を登録してあるので、在庫減が検知できます。現状のかたちなら部分的に導入できます。ただ、ポテトチップスのような軽重量の商品はあまり得意ではない面もあります。

 リアルタイムインベントリーのニーズは、小売業界では大きいので、こういうソリューションは価値があると自負していますが、さらなるイノベーションは必要です。

 もう1つの展示は、棚札の裏側に付いている距離センサーで商品を確認する仕組みです。こちらについては当社の社員が開発しました。あらかじめ商品間の距離を登録しておき、そのすき間が大きくなったら商品が取られた、と認識します。まだ完成形とはいえませんが、大掛かりな仕組みではなくてもできる、ということを私たちも知ることができました。

 「スマートシェルフ」はあくまでも、近未来型店舗(フューチャーストア)を想定しています。その代表格と言っていい「アマゾンゴー」も一般顧客への開放をスタートさせていますが、本格チェーン展開は、まだ先のことでしょう。実際、今回の展示を受けて、「やりたい」という小売業からのオファーはありませんでした。

 コストを多く費やせば、たいていのことはできますが、それでは採算は合いません。ではどうするかについて、私たちも真剣に考え取り組んでいきたいところです。

──カメラを活用した画像認識による無人店舗の可能性はあるのですか?

竹内 今のところ、カメラによる画像認識だけで無人化を図るというのは難しいと判断しています。たとえば、一方向からの撮影なら、裏側から商品を取られてしまうと認識することができません。ただ、カメラを、店舗内を埋め尽くすほど設置して、数で勝負するという方法は考えられなくはありません。

 しかしながら、その場合、損益分岐点は非常に高くなってしまい、そろばん勘定の合わない店舗になってしまうこと必至です。とはいえ、カメラの性能は日進月歩で価格は日に日に下がっているという現実から想像すればペイできるようになる可能性も否定できないところです。

流通系ITリーディングカンパニーへ

──ということは、ヴィンクスのソリューションで最も現実的なのはマイクロマーケットということになりますか?

竹内 そうですね。中国の「ビンゴボックス」は、無人POSとして展開可能な技術レベルと考えていますので、あのかたちであれば日本でも出店は可能です。ただし、小売業の方々が、路面店であのタイプで出したいと考えているのかどうかはわかりません。

──ヴィンクスがビンゴボックス型の店舗を実験するということも考えられますか?

竹内 実は、それを検討しているところです。われわれは小売業出身なので、体内には小売業のDNAも宿っています。今回の取り組みをきっかけに国分グローサーズチェーンさんより商品調達の支援をいただき社内にテスト店舗を出してみようということで動き始めています。数カ月後には1号店を出店します。

 どうなるかはまったく未知の領域になりますが、やってみて初めてわかることも少なくないでしょう。

 その店舗では、AI(人工知能)を活用した在庫の最適化や棚割の模索や自動発注の実験にも取り組みたい。17年にはカラフルボード(現:センシー)に出資しています。AIを活用することで新商品のヒットの可否の見極めや対応も迅速にできるようになるはずです。

──そうしたソリューションの提供の障害になっているようなことはありますか?

竹内 今のところ大きいのは、当社の知名度の低さです。最近は株式を東証一部に上場し、少しずつ知名度も上がってきていますが、まだまだ「パッケージベンダー」ととらえられているようなきらいがあります。

 当社は、小売業の情報システム部門が独立した企業であり、お客さまの情報システム関連でできないことはありません。ちなみに、当社のビジョンは「流通系ITリーディングカンパニー」です。小売業出身というベースがあって、業界をリードしていくというイメージを植え付けていきたいと思います。