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ドラッグストア業界のDXの現況は?前編 注目技術のトップは生成AI

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が一般化してから久しい。あらゆる業種業態でDXが推進されており、ドラッグストア(DgS)業界も例外ではない。DgS企業へのアンケートから、DgS業界のDXの現況を明らかにする。

注目技術トップは生成AI

『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌は、ドラッグストア(DgS)業界の経営企画、情報システム、デジタルトランスフォーメーション(DX)などの担当者に対し、DX推進の現状や課題、導入テクノロジーの活用状況、投資動向などに関するアンケート調査を実施。18社から回答を得た。アンケート結果からは、DgS業界におけるデジタル活用に関する実態と変化が見えてくる。

回答企業一覧
ウエルシアホールディングス、カメガヤ、クスリのアオキホールディングス、クリエイトSDホールディングス、Genky DrugStores、ゴダイ、サッポロドラッグストアー、サンキュードラッグ、新生堂薬局、スギ薬局、セキ薬品、中部薬品、ツルハホールディングス、トモズ、ハシドラッグ、富士薬品、ミズ、龍生堂本店

DX推進への期待は多様な分野で高まりを見せる

DX推進の現状は?DX推進の現状(Q❶)については、「戦略的に一部の部門でDXを推進している」と「できるところから部分的に着手している」が並んで回答数のトップ(36.8%)となった。一方、「現時点でDXの予定はない」は皆無であることからドラッグストア業界におけるDX推進が活発化していることがうかがえる。

DX推進の主な目的は?DX推進の主な目的(Q❷)については、「業務効率化と生産性向上」が首位(38.3%)、「顧客体験(CX)の向上」が2位(23.4%)、「データドリブン経営の実現」が3位(17.0%)となった。人材不足や働き方改革などを背景とした省力化への関心も高いようだが、多様化する顧客を取り込む施策や、データに基づいた意思決定への期待も高まっているようだ。

DX推進における主な課題は?DX推進の主な課題(Q❸)としては、「デジタル人材の不足」が首位(38.5%)、「既存システムとの統合の難しさ」が2位(35.9%)、「投資コストの確保」が3位(20.5%)となった。日進月歩のテクノロジーを使いこなせる人材の確保・育成が悩みの種である一方で、既存システムと新しいシステムをいかに統合させるかという課題にも直面している実態がうかがえる。また、DX推進は資金力にも左右されやすいことから、投資コストの確保も課題となっているようだ。

顧客体験(CX)向上の具体的な取り組みはあるか?顧客体験(CX)向上の具体的な取り組み(Q❹-❶)についても質問したところ、「デジタルサイネージの活用」が1位(35.5%)、僅差で「パーソナライズされたサービス提供」が2位(32.3%)となった。「デジタルサイネージの活用」により、販促においてもITの活用が進んでいることに加え、顧客に合わせたサービス提供へのIT活用も進んでいる実態が垣間見える。

また、これらの施策によって得られた成果や効果(Q❹-❷)について自由記述方式で回答を求めたところ、「会員の増加」や「顧客の来店頻度アップ」など、顧客体験の向上によって、集客力の強化につながる効果を複数の企業が挙げている。また、それと同時に「コスト削減」などのメリットを実現している企業も多く見られた。

新テクノロジーの導入・活用状況(Q❺)としては、「導入済みで活用できている」が1位(52.6%)、「導入予定・検討中」は2位(26.3%)となった。具体的な導入テクノロジーについても質問したところ、「RPA(業務自動化)によるバックオフィス効率化」が1位(24.4%)、「ビッグデータ分析プラットフォーム」と「マーケティングオートメーション(MA)ツール」と「AI・機械学習による需要予測・在庫管理」が同率2(19.5%)となった。バックオフィスの効率化による省人化に拍車がかかる一方で、新テクノロジーがさまざまな分野で活用されていることがうかがえる。店舗作業の負担を軽減しつつも、これまで従業員の経験や勘に頼ることの多かった業務の一部を新テクノロジーに置き換えることで、より的確な経営判断を行うツールとしても活用されているようだ。

DXの取り組みでとくに成果を上げているもの(Q❻)についても自由記述方式で回答を求めたところ、「AIによる需要予測、発注の自動化による作業改善」など、AI活用による成果を挙げる回答が多く見られた。また、MAツールやRPAによる成果を挙げる回答も多く、具体的に導入したテクノロジーの回答ともリンクしているといえよう。

基幹システムのクラウド化やアップグレードの状況(Q❼)については、「基幹システムをクラウドベースに部分的に移行している」が1位(42.1%)、「基幹システムをクラウドベースに完全移行している」が2位(36.8%)となった。加速度的に進められた基幹システムのクラウド化やアップグレードの基盤が整いつつある企業も存在する一方で、「部分的に」「数年内に」といった回答も見られることから、移行に向けたプロジェクトが進行中の企業も多いようだ。一方、基幹システムの変更を予定しない企業もあることから、クラウド化やアップグレードに躊躇している企業も見られるようだ。

デジタル人材の確保・育成に関して、どんな取り組みを行っているか(Q❽)については、「デジタル教育について社内研修・教育プログラムの実施」が1位(34.8%)、「専門人材の新規採用」が2位(26.1%)となった。DX推進の主な課題において、「デジタル人材の不足」が首位であったことからも、デジタル人材の確保・育成は企業にとっても急務のようだ。

サイバーセキュリティ対策について、どんな取り組みを行っているか(Q❾)については、「社員へのセキュリティ教育の実施」と「セキュリティポリシーの策定・更新」が同率で1位(31.7%)となった。サイバー攻撃による顧客情報の流出といったセキュリティリスクへの対応も、不可欠な事項として注力している企業が多いようだ。

今後、注目している技術やソリューション(Q❿)については、「生成AIの活(ChatGPTなど)」が1位(34.9%)となった。生成AIの活用については、今後ますます革新の波が押し寄せることが期待される分野でもあることから、企業からの注目度も高いことがわかる。

今期のDX関連予算の伸び率(Q⓫)については、対前期比で「横ばい」が1位(63.2%)、「10.0%以上の増加」が2位(21.1%)、減少と答えた企業は皆無だった。来期のDX関連予算伸び率(Q⓬)についても、今期と比べて「横ばい」が1位(63.2%)、「10.0%以上の増加」が2位(21.1%)、減少と答えた企業は皆無であったことから、現状と同程度またはそれ以上の予算で、来期もDXを推進していきたいと考える企業が多いようだ。

取引のあるITベンダー企業(Q⓭)については、NEC、日立システムズ、富士通などが挙がっており、さまざまなITベンダー企業との取引を通じて、DXを推進している実態がうかがえる。このほかアンケートの回答には、「もう少し簡単に補助金制度が利用できるようになってほしい」「業界DXのシンポジウムや意見交換の場があればよいと感じている」「大手企業のDX推進は資本力が関わるため、参考になるが導入が難しいと感じている。中小規模で工夫している事例があれば、ぜひ聞かせていただきたい」といった声もあった。企業規模やDgS業界の特性に合わせ、投資コストの確保も踏まえたうえでのDX推進が今後も求められていくようだ。