2025年6月3日~5日にシンガポールで開催されたNRF Asia Pacific(APAC)。ダイヤモンド・リテイルメディアでは、その総括としてレポートセミナーを8月下旬に開催。ダイヤモンド・リテイルメディア編集局次長の阿部幸治がMCを務め、博報堂コマースデザイン事業ユニットの徳久真也氏、PwCコンサルティングの矢矧晴彦氏が、シンガポール開催の「NRF APAC」を総括。両氏は講演・展示を幅広く把握し、追加調査と現場知見を重ね、アジア小売の最前線を体系的に読み解いている。今回、レポートセミナー内のディスカッションで語られた内容を一部、紹介する。

NRF APAC全体の印象としては、2年目を迎えた今回は、昨年と比べて出展規模・内容とも拡充していた。中核となるテーマは「CX(顧客体験)」「EX(従業員体験)」「デジタル」「リテールメディア」で、ニューヨークで開かれたNRFと一致しつつも、「成長軌道」「多様性」「高いデジタル受容」というAPAC独自の文脈が論点を刷新している。
ユニファイドコマースに関しては、米国では「一社の経済圏内での統合」を前提とした成熟が進んでいる。一方、APACでは、モールや街区、さらには物販・飲食・エンタメといった業態を横断する形での統合が特徴的であり、急速に進展している。こうした動きの背景には、ECプラットフォーマーの存在が生活動線全体の接続を促進している点が挙げられる。
CX(顧客体験)においては、「過去依存のパーソナライゼーション」から、文脈を読み取り先回りで提案する「プレディクティブ」型への移行が進んでいる。
気象、行動、トレンドなど多様な信号を取り込みながら、“ハイブリッド消費者”がリアルとデジタルの購買チャネルによってキャラクターを変えるという、矛盾を含んだニーズにも柔軟に対応している。
さらに、対話を通じて比較・最適化・代理購入まで担う「エージェンティックAI」が台頭しており、顧客との接点は検索中心から双方向の会話型へとシフトしている。
リアル店舗では、匂い・音・触感といった五感に訴える体験を編成する「コンテンツのキュレーション」によって、来店の動機づけが図られている。
EX(従業員体験)については、人材の流動性が高いAPAC特有の課題を背景に、社内表彰やコミュニティ形成、社内アプリの活用など、“ヒューマニティ”を軸とした取り組みによって人材の定着と働くことへのロイヤルティ向上が図られている。こうしたEXの充実は、CX(顧客体験)の向上に寄与するとともに、業績にも好影響を与えている。
APAC地域のリテールメディア市場は伸長が見込まれるものの、依然として実額では米国と比べると緩やかな成長に留まる見通しだ。各国で異なる、言語・規制の多様性やウォールドガーデンの分断が設計を難しくしている。一方、財閥系ネットワーク連携やAIによる超細分最適化といった進化の筋道も見えてきている。
「NRF 2025 APAC」総括 ディスカッションでは、各テーマの事例、数値の裏づけ、実装プロセスなどを詳しく解説している。続きは本編をご覧いただき、自社の次の一手に落とし込んでほしい。