成長が鈍化し、小売売上高の伸び率がインフレ率を上回れていない米国小売市場。関税強化、物価高などによって消費者の景況感が悪化する恐れもある中、小売各社はECを成長ドライバーとして事業規模を拡大。企業間で連携・参入が増えたことで、市場全体のEC化率は29.1%に達した。今後も同様の傾向は続き、経営環境は新たなフェーズへと移っていくとみられる。企業・業態ごとの最新動向をランキングとともに読み解き、今後の展望を探る。 ※1ドル=145円換算
小売販売総額が対前年比2.8%増! トップ10の順位は一部変動
2024年の米国小売(自動車、ガソリンなどの燃料を除く)の市場規模は、対前年比1.7%増の4兆3724億ドル(約634兆円)で、19年から24年までの過去5年間の年平均成長率は6.1%で推移している。
24年の販売額ランキングトップ10は23年から顔ぶれこそ変わっていないものの、4位~7位の間で順位の変動が見られた。1位ウォルマート(Walmart)、2位アマゾン(Amazon.com)、3位CVSヘルス(CVS Health)、そして23年に5位だったコストコ・ホールセール(Costco Wholesale)が4位、4位だったクローガー(Kroger)が5位となっている。
6位と7位も前年から順位が逆転しており、6位ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance)に次いで、7位ターゲット(Target)となっている。8位以降は変動がなく、アップル(Apple)、アルバートソンズ(Albertsons)、ホームデポ(Home Depot)の順だ。
このうちウォルグリーン(同1.6%減)、ターゲット(同0.6%減)、ホームデポ(同1.3%減)の3社が23年に続き販売額を減らしており、さらにCVSヘルス(同2.2%減)もマイナス成長に転じた。販売額上位10社のうち、半数近い企業が対前年比減という結果に終わっており、厳しい経営環境にあることがわかる。
1位のウォルマートは2位アマゾンに1兆3000億ドル以上の差をつけてトップとなった。同社の24年の販売額は同5.7%増と、23年(同6.8%増)から堅調に推移している。インフレ下で高所得者層を新規に取り込み、客数と客単価増につなげたほか、プライベートブランド(PB)の売上を伸ばしたことも好業績に寄与している。
加えて、ここ数年、同20~22%で成長を続けるEC事業が貢献。サプライチェーンを含むインフラ整備など、10年にわたるECへの投資が実を結び「25年度中に通年で黒字化する見込み」だという。出店戦略では、25年は12店舗を増やし、年間に平均650店舗を改装する計画を明らかにしている。
次ぐアマゾンは販売額の伸び率で1位のウォルマートを大きく上回る(同9.0%増)ものの、その伸びは23年(同10.4%増)より鈍化している。しかし、このペースを維持すれば25年度の売上高は7000億ドル程度となり、5%程度の増収を仮定したウォルマートの7150億ドルに肉薄。25年度中に四半期ベースでウォルマートを抜き、「グローバル企業売上高ナンバーワン」という称号の獲得も夢ではない。
同社のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)、3Pセラーサービス、広告サービスを合わせたBtoB事業は、総売上高の半分を占めるほどに拡大。成長率はBtoC事業以上で、すでに主力事業となっている。アマゾンは法人ビジネス主体へと変貌しているのである。
出店を加速するコストコ クローガーは経営体制の混乱続く
ホールセラー業態最大手で、昨年5位から4位に浮上したコストコ(Costco Wholesale)は、インフレの追い風を受け、販売額で高い伸び率(同8.9%増)を維持している。同社は24年度にメイン州初出店を含む29の新店をオープンするなど、出店を加速させている。とくにEC事業は好調で、24年度のEC売上高は同16.1%増と力強い伸びを見せた。
CEO(最高経営責任者)のロン・ヴァクリス氏は、24年度第4四半期の決算説明会で「コストコ・ロジスティクスは同29%増となる450万点以上の商品を配送した。24年度はECの売上高伸長には大型でかさばる家電と家具の売上が大きく寄与した」という。
米食品スーパー最大手の5位クローガー(Kroger)は、2年以上協議が続いていたアルバートソンズとのM&Aが24年12月に破談となるなど、混乱が続いている。このM&Aの過程で、連邦取引委員会(FTC)による独禁法審査を通過するため、両社は24年7月、計579店舗をC&Sホールセール・グローサーズ(C&S Wholesale Grocers)へ売却している。
しかし、FTCの反対によりM&Aは実現せず、両社が店舗網を縮小しただけに終わった。さらに25年3月、クローガーは11年間CEOを務めたロドニー・マクミュレン氏の辞任を発表。現在は、取締役会長のロナルド・サージェント氏が暫定的にCEOを務め、新CEOの選任が進められている。
また、英オカドグループ(Ocado Group)と提携している自動フルフィルメントセンター(FC)への多額の投資が影響し、EC事業の伸び悩んでいる。プレスリリースによれば、24年度のEC売上高は130億ドルで、総売上高に占める構成比は9%。売上高自体は前年度を上回ったものの、成長率は鈍化している。
SM大手で6位のターゲットはファッションや生活雑貨などの売上高構成比が高いため、インフレと重い関税措置による販売額へのダメージが大きい。しかしながら、他社ブランドなどと協業している食品部門とビューティー部門がインフレ下でも着実に伸長しており、業績を支えている。
また、店舗をフルフィルメントセンター(FC)として活用する「ストア・アズ・ハブズ戦略」や、出店ペースのスローダウンといったコスト抑制策が一定の効果を示している。出店戦略では、24年度からの10年間で300店舗以上の新規開業を計画していたが、24年度は23店、25年度は20店にとどまる見通しだ。
●
インフレに加え、トランプ大統領による重い関税措置で経営環境が大きく変化する米国小売業界。シビアな環境をチャンスに変えるべく、各社はEC事業などを中心に投資を続け、24年度はその成果が数字に表れてきたと言えるだろう。
