[シカゴ 12日 ロイター] – 米イリノイ州の農家、デール・ハッデンさんは困り果てていた。 コンバイン収穫機用のスペアタイヤが手に入らないのだ。収穫スタッフには、タイヤを傷つける金属屑を避けるため、今年の秋は路肩を走らないように注意した。
カンザス州のニュー・アグ・サプライでは、来春の植え付け期に向けた部品を今のうちに注文しておくよう顧客に要請している。またアイオワ州の農家コルト・ホラブさんは、毎晩、農機を納屋に入れて施錠している。ディア・アンド・カンパニー 系列の地元の農機ディーラーで、いまや入手困難となったトラクターの部品が盗まれる事件があったからだ。
アイオワ州バッキンガムで、4代続けてトウモロコシと大豆の栽培を続けているホラブさんは、「皆、農機を我が子のように大切に扱っているが、今のところ、部品の入手は運任せだ」と話す。
製造部門のメルトダウンは米国の中部地域に打撃を与えている。農機メーカーは数カ月にわたって半導体不足に悩まされてきたが、品薄は他の部品にまで広がってきた。サプライチェーンの問題は、今や米国内での食糧供給、さらには農家の収穫能力まで脅かしている。
農家では、農機が故障した場合の応急措置を見つけることに追われており、地元の溶接工や機械工を探しているという。農機オークションサイト「マシナリー・ピート」の創設者であるグレッグ・ピーターソン氏によれば、スペアタイヤの価格が高く入手困難になっているため、トラクターやコンバインをネットで購入しようとする農家が、タイヤ部分のアップの写真を要求しているという。
「収穫期が終わりに近づくにつれて、農機オークションに参加する農家は、本体ではなく部品を求めるようになる」とピーターソン氏は言う。「すでに、部品取り用に2台目の播種機や散布機を買おうかなどという話も出ているくらいだ」
入手難のために古い部品の再利用や補修を余儀なくされている農家もある。
ラミ・ウォーバートン、ボブ・ウォーバートン両氏がワシントン州西部で経営する小規模な溶接工場は、かんがい設備の部品からヒビの入ったブルドーザーのバケットまで、農家から入る修理の注文を何とかこなすのに手一杯だ。
ラミ・ウォーバートン氏は、「このあたりは干ばつの真っ只中だった 」と語る。「そういう時期には、畑への水やりを1カ月も待っているわけにはいかない。作物が枯れてしまうからね」
「次から次へと難題が」
米国・アジアの製造業拠点における新型コロナウイルスに伴う生産停止、主要港湾を混乱させているコンテナ不足、そして人手不足といった要因による供給網の機能不全により、穀物価格がほぼ10年ぶりの高値にまで上昇しているにもかかわらず、農機メーカーはせっかくの好機を十分に収益につなげられずにいる。
パーデュー大学とCMEグループによる「農業経済バロメーター」は農家の景況感を毎月測定するものだが、10月初めには10%低下し、2020年7月以来で最も低い水準となった。栽培農家に重くのしかかっているのは供給面での懸念であり、調査に回答した農家の55%は、在庫が乏しいせいで農機の購入計画に支障が出ていると答えている。
パンデミックの間、鉄、プラスチック、ゴムその他の原材料は利用しにくくなっていたが、中国の複数の製鉄所がここ数週間、電力不足により生産削減に追い込まれているため、メーカー各社はさらに多くのショックに備えているところだ。
農機メーカーのAGCO でグローバル規模のサプライチェーン管理を指揮するグレッグ・トゥーンマン氏によれば、この夏、同社幹部が米国中西部のサプライヤー各社を訪問したところ、一部の企業は通常の従業員のわずか60%で操業していたという。
トゥーンマン氏は、ノースダコタ、サウスダコタ、ネブラスカ、テキサス各州では、サプライヤー数社で従業員の減少が見られたと話す。従業員がバイデン大統領のワクチン接種義務化に反発したり、新型コロナ感染を恐れて仕事から離れたり他の職場に移ったりしているためだという。
「頭痛薬が手放せない状況だ」とトゥーンマン氏は言う。「次から次へと難題がやってくる」
供給の逼迫(ひっぱく)によって特に苦しんでいるのが農機ディーラーだ。通常であれば、伝統的な収穫期である9月から11月にかけて修理ビジネスが活況を呈するものだ。
だが今年は、何か役に立つものはないかと10年前からの在庫をあさっているディーラーさえある。ディーラーにとって悩みの1つは、トラクターの誘導・データシステムの運用に使われるGPS受信機が業界全体で不足していることだ。
北米地域のディア・アンド・カンパニー系列ディーラーとしては最大規模の株式非公開企業アグ・プロでは、オハイオ州のスタッフが、2004年当時のGPSユニットを「発掘」している。今まではガラクタ同然だった装置である。
だが農家が農場内のデジタル収穫マップを記録する目的なら、まだこの装置は使いものになる。銀行や地主、作物保険の代理店と交渉するために、多くの農家はこうしたデータを必要としている。
どこにパーツを回すのか
農機メーカーは、今年の収穫期を前にして辛い選択を迫られている。農家に販売する新品のトラクターやコンバインを製造するために工場にパーツを回すべきか、それとも既存顧客の故障した農機を修理するために農場にパーツを回すべきか。
AGCOや競合するCNHインダストリアルNV が選んだ答えは後者だった。
「現場の顧客を支えないわけにはいかない」とAGCOのトゥーンマン氏は言う。「収穫期が来たら、何より大切なのはタイミングだから」
CNHの試算によれば、輸送費の高騰から原材料価格の上昇に至るまで、供給網の制約によって同社が被ったコスト増加は10億ドルにも達するという。
こうした制約のせいで、CNHでは一部工場の駐車場を倉庫スペースに転用せざるをえなくなった。ネブラスカ州グランドアイランドにあるCNHのコンバイン工場では、未完成のコンバインが数百台、パーツの到着待ちで屋外に並んでいる。
一方、CNHの広報担当者によれば、同社は傘下の「ケースIH」「ニューホランド」ブランドの農機に使える部品を現場の顧客に回しているという。
ディア・アンド・カンパニーでは、より多くの製品を出荷できるよう輸送用コンテナの見直しを進めており、港湾での船舶からの荷下ろしを迅速化するためクレーンのリースを増やし、輸送用トラックの台数も増やしているという。
だが、ディアでアフターサービス・顧客サポート担当シニアバイスプレジデントを務めるルーク・ガクスタッター氏によれば、部品不足は「ただでさえ収穫の時期が限定されている農家にとって、特に面倒な問題になっている」という。
一部のケースでは、ディアは農機を未完成のまま顧客に納入した。ミズーリ州の農家アンディ・カップさんの新品のコンバインは、高性能カメラを一部搭載しないまま工場から出荷された。そのカメラがもたらす高効率ゆえに数十万ドルも投じたにもかかわらず、だ。
それでもカップさんはその新型コンバインを使っている。故障に備えて予備の部品もよけいに用意してあるほどだ。
「収穫期が終わりに近づけば、機械も人もくたびれてくる」とカップさん。「まだ馴染んでいない機械だ。いくつか緩んだボルトがあっても驚かない」