2021年5月、米アマゾン(Amazon.com)のEC商慣行を巡り、米首都ワシントン(コロンビア特別区)の司法長官が反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで同社を提訴した。出店者が参加するマーケットプレイスで他のサイトよりも安く売るよう指示し、価格を拘束したと指摘している。
米首都司法長官「業者は他サイトで安価に販売できない」
訴状によると、アマゾンは過去に米国の業者に対し、アマゾンのサイトでの販売価格よりも安く他のサイトで販売することなどを禁じていた。19年3月この規定を撤廃し、新たな「公正価格規定」を設けた。だが、司法長官は事実上旧規定と同じ内容だと批判している。
司法長官は、「アマゾンが結ばせている契約によって、業者は他のサイトでより安価に販売できなくなり、消費者に不利益をもたらしている」と問題視している。
アマゾン、「まったく逆だ」と反論
これに対しアマゾンは、「出品業者は我々のオンラインストアで提供する商品の価格を独自に設定している。司法長官は全く逆の考え方をしている」と反論した。
アマゾンの「公正価格規定」では、出品業者が価格を自由に決めることができる。一方、アマゾンはこの規定の下、他のウェブサイトをモニターし、アマゾンのサイトでの価格よりも安く販売していないかどうかをチェック。もし、より安価な商品が見つかれば、その業者の同じ商品を自社サイトで大々的に表示しないことにした。
これについて同社は「当社も他社と同様に、割高なものを目玉商品として陳列しない権利はある。価格規定は過剰な支払いから消費者を守るために設けた」と説明し、「司法長官の主張は割高な商品を消費者に売り込むよう我々に要求しており、反トラスト法の目的と逆行する」とも反論した。
米政府や議会、欧州競争当局がアマゾン監視
米『ウォールストリート・ジャーナル』紙によると、今回の訴訟提起は首都ワシントンの法律に違反したとするもので、提訴先は1審にあたるコロンビア特別区上級裁判所。連邦法に違反したとして米政府や複数の州政府が連邦裁判所に提訴した米グーグルや米フェイスブックの事例と比較し、訴訟の影響は限定的だという。
ただ、アマゾンなどの巨大IT企業の商慣行を巡っては、米国の州政府や連邦議会、欧州の競争当局が監視を強めている。
20年6月には米ワシントン州と米カリフォルニア州の司法長官がアマゾンの調査を始めたと報じられた。アマゾンが本社を置くワシントン州では、マーケットプレイスで自社商品を有利に掲載していないかどうかを調べている。カリフォルニア州では、出品業者の販売データを不正に入手し、PB商品の開発に利用していないかどうかを調べている。
欧州連合(EU)の欧州委員会は20年11月、アマゾンに対し競争法違反の疑いに関する暫定的な見解を示す異議告知書を送付。出品業者の売上高や発送個数、訪問者数といった非公開のデータにアクセスし、自社製品の販売に利用したと指摘した。
米国では連邦議会下院の司法委員会が20年10月、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのいわゆる「GAFA」を対象にした反トラスト法調査報告書をまとめた。アマゾンについては米EC市場で50%以上のシェアを持つと推測され、マーケットプレイスで支配的な力を乱用していると指摘した。
MGM買収も監視・規制対象か
アマゾンは一方、21年5月26日、米映画製作大手メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)を買収することで最終合意に達したと明らかにした。人気スパイ映画「007」などで知られるMGMを傘下に収め、動画配信市場で競争力を高める狙いだ。
買収価格は84億5000万ドル(約9300億円)。アマゾンにとって17年に137億ドルで傘下に収めた高質スーパーマーケット(SM)「ホールフーズ・マーケット」に次ぐ過去2番目の大型M&Aとなる。だが、MGMの買収は今後、規制当局の承認手続きなどを経る必要がある。ますます巨大化するIT企業の大型買収には懸念の声も上がっている。