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寿司にジャム?!和食を海外に広める上で大切な「独自の食文化を尊重する」ということ

「ブラジルの寿司にはジャムが入っていることもあるんです」とおっしゃっていたのは、国際日本料理協会(IJCA:大阪府)代表の藤口晃一(ふじぐち・あきかず)さんだ。国際日本料理協会の設立は2012年。目的は、「日本料理の文化・伝統を守り、伝える」活動を行うことである。

i-stock/Ryzhkov

地域や時代で移り変わる食文化

 日本料理にとって、国際市場はなかなかの難敵なのだという。

 「たとえば、寿司を日本の形のままで持ち込んでも、海外市場では受け入れてもらえません」。

 鮮度管理設備が整っていない国では衛生上生魚を食べることはできないし、そうした環境であればそもそも生魚を食べること自体が敬遠されている。そこに無理矢理、日本と同じ寿司を押し込んでも浸透していくわけがないからだ。だから、ジャム寿司のようなものも誕生する。

 「ただ、ジャムの寿司を笑う日本だって、実は同じようなことをたくさんしているんですよ」と藤口さん。

 代表的な例は、スパゲッティ・ナポリタンだ。本場イタリア人から見れば、ケチャップで食べるパスタなんて際物以外の何物でもないはずだ。

 日本の国技であるはずの寿司にしても、最近の“進化”ぶりは相当なものだ。ハンバーグや天ぷらをネタに乗せたり、マヨネーズを使ったり、もし江戸時代の職人がタイムスリップしてきたら「てやんでえ、そんなもん食えっか」と怒り出すに違いない。日本国内でも時代とともに変わっていくのだから、国や地域の違いによって食文化が異なるのはどうしようもないことだ。

彼を知り、己の文化を伝える

 食器や食事マナーにしても、食卓の大きさや高さによって確立されてきたところがある。日本のちゃぶ台文化の場合、食卓は小さく、低い位置にあったから、茶碗やお椀を手に持ち箸を使って食べるのが普通であり、子供の頃からそう習う。しかし、欧州の場合は食器は置いたままが当たり前。ナイフ・フォークを駆使して料理を取り、口に運ぶのにテーブルのサイズや高さが適しているからだ。所与の環境からして、そもそも大きく異なっているのだ。

 だから藤口さんは、原理主義者のように日本料理をそのまま海外に押し付けるというようなスタンスはとらない。お互いの文化の違いを違いと認め、尊重した上で、日本の技術や味わいなどをしっかり伝えていこうとしているのである。

 奇しくも、2013年に和食(=日本料理)がユネスコ無形文化遺産に登録された。彼を知り、己の文化を伝えることに努める藤口さん。時間がかかるかもしれないが、そんな活動が結実した時には、これまでとは全く違う新しい食文化が生まれる可能性もある。