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SDGsで先行する欧米食品スーパーの現状は?ウォルマート、クローガー、テスコの事例を紹介

コロナ禍で生活困窮者への食料支援に取り組むウォルマート
コロナ禍で生活困窮者への食料支援に取り組むウォルマート

 新型コロナウイルス(コロナ)禍、世界共通の公衆衛生の危機であるとともに、人種差別やジェンダー格差など、さまざまな社会的課題を顕在化させた。また、コロナ禍でも豪雨や台風、熱波など、気候変動による自然災害が世界各地で相次いで発生。地球温暖化防止対策もますます重要な課題となっている。

 コロナ禍によって消費者の生活様式や購買行動が大きく変化するとともに、地球環境問題や社会的課題への消費者意識も高まっている。経営戦略コンサルティング会社ボストンコンサルティンググループ(BCG)が米国、英国など、世界8カ国3000人以上を対象に実施した2020年7月の調査では、76%が「環境問題を健康問題と同等もしくはそれ以上に懸念している」とし、70%が「コロナ禍からの経済復興において環境対策を優先すべきだ」と回答。また、約40%が「サステナビリティ(持続可能性)に配慮した行動を実践する」と表明し、その具体的な行動として、「リサイクルの推進」、「廃棄物の抑制」、「サステナビリティに配慮した商品の購入」などをあげている。

17項目にわたる持続可能な開発目標(SDGs)

持続可能性を追求する米ウォルマート

 欧米の食品スーパー(SM)では、国際連合が15年9月25日に策定した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」をふまえ、17項目の「持続可能な開発目標(以下、SDGs)」のうち、とくに注力する優先目標を経営戦略に組み込み、経営管理の仕組みと連動させることで、事業の成長とSDGsの実現をめざしてきた。

 2005年からサステナビリティを推進する米小売最大手ウォルマート(Walmart)は、SDGs で掲げる目標2(飢餓をゼロに)、目標5(ジェンダー平等を実現しよう)、目標7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)、目標8(働きがいも経済成長も)、目標11(住み続けられるまちづくりを)、目標12(つくる責任つかう責任)、目標13(気候変動に具体的な対策を)、目標14(海の豊かさを守ろう)、目標15(陸の豊かさも守ろう)を事業活動に反映させている。

 20年9月には、40年までの長期ビジョンとして、サステナビリティの追求のみならず、地球環境の再生(リジェネレーション)にも主体的に貢献する「リジェネラティブカンパニー(再生的な企業)」の構想を発表。「40年までにゼロエミッションを達成する」との目標を掲げている。

 また、コロナ禍で生活困窮者が増加するなか、ウォルマートでは、20年、計6億2500万ポンド(約2億8300万キロ)以上の食料と5500万ドル(57億7500万円)超の資金を寄付し、飢餓の救済にあたった。

 ウォルマートはさらに、社外との共創を通じて、プラスチック製買い物袋に代わるサステナブルなソリューションの開発にも取り組んでいる。20年7月、ターゲット(Target)、CVSヘルス(CVS Health)、デザインコンサルティング会社アイデオ(IDEO)らと提携し、「ビヨンド・ザ・バッグ・チャレンジ(Beyond the Bag Challenge)」を創設。サステナブルな買い物袋のアイデアを公募し、世界60カ国から450件以上のアイデアが寄せられた。

クローガーは食品ロス削減に本腰

 米食品スーパー(SM)最大手クローガー(Kroger)は、17年9月に策定した「ゼロハンガー・ゼロウェイスト(ZeroHunger ¦ Zero Waste)」で「25年までに飢餓と食品ロスのゼロ」を目標に掲げ、SDGsの目標2、目標12と連動させてこれに取り組んでいる。

 クローガー傘下のデータ分析会社84.51°がコロナ禍に実施した米国消費者調査では、35%が「コロナ禍を機に食品廃棄をより意識するようになった」とし、約半数が「食品の期限切れが食品廃棄の最大の要因となっている」と回答。クローガーでは、このような消費者意識の変化を受けて、プライベートブランド(PB)の食品を対象とした期限表示のシンプル化や人工知能(AI)を活用したレシピツール「シェフボット(Chefbot)」のリリースなど、家庭での食料廃棄量の軽減をサポートする施策に取り組んでいる。

期限表示をシンプル化したクローガーのプライベートブランド

 また、リサイクル専門ベンチャー企業テラサイクル(TerraCycle)との提携により、先進的なリサイクルプログラムにも着手した。20年8月から、オーガニック専門PB「シンプルトゥルース(Simple Truth)」の300品目以上を対象に、包装材を消費者から回収し、リサイクルしている。

プラ削減に取り組む英テスコ

 英SM 最大手テスコ(Tesco)は、17年に「リトル・ヘルプス・プラン(LittleHelps Plan)」を策定し、SDGs の目標2、目標3、目標5、目標7、目標8、目標12、目標13、目標14、目標15と連動させて、社会的課題や環境対策に取り組んでいる。21年1月には、小売企業として世界で初めて、温室効果ガス排出量の削減目標と連動させた「サステナビリティ連動債(SLB)」を発行した。発行額は7億5000万ポンド(約1102億円:1ポンド=147円で換算)だ。

 コロナ禍で消費者の健康志向や環境意識が高まるなか、テスコは、20年9月、英国の小売企業として初めて「代替肉の売上を25年度までに対18年度比3倍に拡大させる」との目標を掲げ、品揃えの拡充やイノベーションの推進に取り組む方針を示した。19年6月に策定した「リムーブ・リデュース・リユース・リサイクル(Remove,Reduce,Reuse,Recycle)」のもと、PBの商品を中心に、プラスチック製容器包装廃棄物の削減にも積極的に取り組み、20年末までに商品10億点分の使い捨てプラスチック包装材を削減した。

テラサイクルとの提携による、クローガーの包装材のリサイクルプログラム「シンプルゥルース・リサイクリングプログラム」

業界の枠を超えた取り組みも

 SDGs の目標12.3(30年までに世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減)にサプライチェーン全体で取り組む動きも本格化している。テスコ、ウォルマート、クローガー、イオン(千葉県)ら、世界の食品小売大手10社がそれぞれ20社以上のサプライヤーと提携し、30年までに食品廃棄量の半減をめざすイニシアチブ「10x20x30」では、20年9月、ケロッグ(Kellogg)、ネスレ(Nestlé)、ユニリーバ(Unilever)など、約200社のサプライヤーがサプライチェーンにおける食品廃棄量の削減にコミットした。

 コロナ禍では、地球環境問題や社会的課題への消費者意識の高まりが、欧米のSMのSDGsへの取り組みを後押ししている。また、社会的な機運の高まりから、ステークホルダー全体を巻き込んだ取り組みや異業種とのコラボレーションも活発になってきた。

 消費者の意識や購買行動の変化を的確にとらえて自社のSDGs への取り組みと連動させ、商品やサービス、オペレーションに反映させることでより多くの消費者から支持を獲得するという好循環を生み出せれば、自社の事業を成長させながら、食を軸としたサステナブルな社会の実現にも大いに貢献できるだろう。