なぜグロサリーストアを開店?
米国のアマゾン・ドットコムは、米国カリフォルニア州ロサンゼルス(L.A.)郊外のウッドランドヒルズに世界初のグロサリーストア「アマゾンフレッシュ」1号店を今年4月に開店した。開店当初はコロナ禍のため、オンライン注文限定として営業していたが、先月8月27日からアマゾンに招待された地元住民(主にプライム会員)に限って来店が始まっている。
今後数週間以内に同店の全面オープンを行ない、全ての買い物客を受け入れるとしている。
「アマゾンフレッシュ」を開店した理由について、アマゾンのスポークスパーソン、アリ―ス・バナールさんは「L.A.の住民に安い価格の食料品や生活必需品を販売するため。特にコロナ禍に安い価格の商品を販売することは重要だとアマゾンは考えている。他社にはない価値、質の良い商品、便利なサービスというアマゾンの特徴を生かした店となっている」と説明する。
同店では、オンライン注文も受け付けており、プライム会員の場合は商品の当日配達と店での受け取りが無料。扱う商品は、一般のスーパーマーケットやグロサリーストアで販売している食料品、生鮮食品、日用品など、幅広い分野の商品を揃える。「安くて、質が良い食料品が鍵。料理チームが毎日作る新鮮で美味しい出来立ての調理済み食品も販売している」とバナールさんは、リーズナブルで新鮮な商品の充実ぶりを強調する。
同店の目玉は、スマートショッピングカートの「アマゾン・ダッシュカート」。客は通常のレジを使用する必要がなく、スマートフォンのアマゾンアプリを利用して便利に買い物ができる。搭載されたカメラと重量センサーによって客がカートに入れた商品を自動認識させ、客がダッシュカート専用レーンを通るだけで精算が可能という仕組み。
「客はアレクサの新しい機能を利用して、購入希望商品のリストに従ってカートに店内を誘導してもらう。他社のスーパーマーケットにはない便利なサービスで、アマゾンフレッシュの強みになる」という。
客は探している商品の売り場を店員に訊く代わりに、アレクサに訊いて商品の売り場を教えてもらうこともできる。最新のテクノロジーを活用した新しい買い物の仕方が今後一般的になるのかもしれない。
同店には、対面式の一般的なレジが2台設置してあるが、客の大半は「アマゾン・ダッシュカート」を利用して、自動で清算できるシステムを使う。コロナ禍にレジで他の客や店員との接触を避けることができ、短い時間で安全に買い物ができる便利な同サービスは、今後、需要が増えることが予想される。
2017年8月より同社は自然食品高級スーパーマーケット「ホールフーズ・マーケット」を傘下に収めているが、「ホールフーズとは競合せず協力していく。ホールフーズはオーガニック食料品がメイン、アマゾンフレッシュはリーズナブルな値段の食料品および日用品などの全般を扱う。一方で、アマゾンフレッシュではホールフーズのプライベートブランド365のオーガニック食品も販売している」とバナールさんは明かす。
同店の商品について、バナールさんは「全商品、安くてお得な値段がモットー」と何度もアピール。「例えば、ナチュラルな丸ごと鶏肉1羽が0.4キロに付き99セント(約105円)、1.3キロの玉葱が1.69ドル(約179円)、10個入りクェーカー・オートミールクッキー1箱が2.50ドル(約265円)という具合で安い」と説明する。
「アマゾンフレッシュ」は増えていく?
ソフトオープンとして、先月からウッドランドヒルズの地元住民だけを招いて営業している理由について、「アマゾンの他の事業店舗と同様に、テスト販売は店の経営にとって重要。本格的にアマゾンフレッシュをオープンする前に一定数の客を招いて店で買い物をしてもらい、客の反応を知り、客の意見を参考にして、カスタマーサービスなどの改善に役立てていきたいから」とバナールさんは話す。
コロナ禍の現在、コロナ感染防止のために入店客数を最大許容人数の半分に抑え、全ての従業員に検温を行なうことや、従業員および客にマスクまたはフェースカバーの着用を義務付けている。希望する客には無料で使い捨てマスクの配布も行なっている。
同店はアマゾンの傘下「ホールフーズ」と差別化している点も新規客が見込めるだろう。例えば、コカ・コーラやクラフト・マカロニ&チーズなど、他社のスーパーマーケットで販売している庶民におなじみの商品は「ホールフーズ」にはないが、同店では販売している。
その上で、L.A.の地元住民に人気で美味しいと評判のロッケンワグナー・ベーカリーのパンなども販売する。同ベーカリーのパンは「ホールフーズ」にはないが、「ホールフーズ」の競合店である高級スーパーマーケット「ゲルソンズ・マーケット」で扱っている。
人気のローカルブランドでベニスビーチ発コーヒーのグランドワーク、主に米国南部地方で販売していてL.A.では手に入りにくいマヨネーズのデュークス・マヨやシアトル発のエレノス・ヨーグルトなど、他社のスーパーマーケットで扱う人気のローカルブランド商品や他社のスーパーマーケットでは扱っていない商品を揃えるなど、各他社の高級スーパーマーケットや一般的なスーパーマーケットと競争が激化する気配が感じられる。
8月30日に買い物した客の一人は「すごく感動した。買いたい商品がすぐに見つかってカートにどんどん入れていけるし、アマゾンでベストセラーの商品も揃っている。一番いいと思った点は、店員と全然接することなく買い物ができたこと。40分ほど店にいて、150ドル(約15,900円)の食料品を購入。普段はラルフス、スマート・アンド・ファイナル、ホールフーズで食料品の買い物をするが、この新しいアマゾンフレッシュは気に入った」と話す。
9月7日に訪れた別の買い物客は「普段はラルフス、ターゲット、ホールフーズへ行く。今回、アマゾンのプライム会員のほとんどが招待されたようだった。店はかなり混んでいた。20分くらい店内を歩いて、20ドル(約2,120円)使った。最初にカートに入れた商品がスキャンされなくて少し戸惑ったけど、その後すぐに慣れて簡単に買い物できて便利だった。しかし、幅広い商品を売っている割には、一つの商品カテゴリーに対して扱っているブランドの数が少なくて自分が買いたいと思うブランドがあまりなかった。安い商品を求めて買う人向けと言うよりは、速く簡単に買い物したい人向けという感じがした」と感想を述べる。
アマゾンは今後、L.A.郊外のノース・ハリウッド、L.A.近郊のノースリッジ、O.C. (L.A.の隣のオレンジ郡)のアーバイン、イリノイ州オーク・ローン、イリノイ州シャンバーグへも「アマゾンフレッシュ」を出店することが決まっている。開店の時期は未定。
今後の同店および同店を訪れる客の動向に注視したい。