[香港 18日 ロイター] – トム・ベネルさん(46)が香港で営むオリーブオイル販売事業は、昨年の政府抗議デモによって主要顧客であるホテルやレストランから客足が遠のき、痛撃を食らった。彼は今、新型コロナウイルスの感染拡大にノックアウトされることを恐れている。
ベネルさんが経営する創業20年のオリーブズ・アンド・オイルズは、香港で20以上の五つ星ホテルのほか、クラブやデリ、レストランに商品を供給している。
小売り・観光業と貿易・金融業が両輪のように働く香港経済は、デモの影響で10年ぶりの景気後退に見舞われている。そこに新型コロナウイルス感染拡大が加わって観光客が激減し、店舗に出掛ける住民も減った。
商売上がったりのベネルさんは、節約のために10代の息子2人をインターナショナルスクールから退学させた。状況が改善しないようなら、1993年から住み続けてきた香港を離れざるを得ないかもしれない。
「(新型コロナウイルスが)とどめの一撃になりそうだ。恐ろしい。これまでで最悪の事態だ。信じられない」
香港経済は3・四半期連続でマイナス成長となっており、デモの影響で小売売上高は昨年12月に19.4%も減少。1月には過去最悪の約30%減を記録したとみられている。
2月の香港への観光客の到着は1日平均3000人を割り込み、1月の同10万人から急減した。この1月の数字も既に、前年同期の半分以下だった。
<極寒の冬>
香港レストラン・関連事業連盟によると、100を超えるレストランが閉鎖した。
飲茶レストランのシェフで、飲食業労働者の労組委員長を務めるクォック・ワンヒンさんによると、政府抗議デモの期間に香港のレストラン事業は30―50%落ち込んだが、新型コロナウイルスの影響でこれが70―80%減に悪化したと言う。
「気がめいるよ。この業界の人々は、職を失うんじゃないかと絶えず心配している」
香港観光業評議会によると、旅行代理店や関連産業の活動停止によって4万人超の雇用が脅かされている。
評議会の執行ディレクター、アリス・チャン氏はロイターに対し「非常に心配している。ビジネスがない状態でいつまで持ちこたえられるか分からない」と語った。
香港小売管理協会は、小売業の存続を脅かす「極寒の冬」が来たと指摘する。春節(旧正月)最初の10日間に小売業は前年同期比で平均30―50%減少し、宝石や時計、化粧品、衣料品などは最大80%も落ち込んだ。
レストランチェーンの叙福楼集団(LHグループ)は今月13日から鍋料理チェーンの「しゃぶしゃぶ温野菜」と「モーモークラブ」の営業を一時的に停止した。宝飾品販売の周大福珠宝は香港とマカオで売り場40カ所を一時閉鎖し、その他の売り場も営業時間を短縮している。
化粧品小売りのサ・サ・インターナショナル・ホールディングス(莎莎国際)は一部店舗を閉鎖。3月から5月にかけてコストを3分の1削減するため、香港の従業員を最大3%、給与を10―40%、それぞれ減らすとしている。
チョン・クォックツィンさん(61)は、これまでペニンシュラ・グループ傘下のレストランなどで月に2週間働いて日給800香港ドル(約1万1000円)を稼ぎ、家賃その他の生活費をなんとか賄っていた。これらのレストランは、2月に入って2日しか営業していない。
「食費さえ賄えない。どうしようもない。時にはパン数枚で終わることもある」とクォックツィンさんは嘆いた。