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ウォルマート、コストコ、ホーム・デポを比較!対アマゾン時代の競争戦略

米国の小売業界では、数多くの店舗が相次いで閉鎖されている。2017年には米国で8600店舗以上が閉鎖され、この現象は「小売業の黙示録」と称された。18年の閉鎖店舗数は5864店と前年を下回ったが、19年以降、閉鎖店舗数は増加傾向にあり、その規模は4月時点で18年の閉鎖店舗数を超えている。これまで店舗を訪れていた顧客は、いったいどこに行ったのだろうか。
※本稿は2019年6月に開かれた『グローバルDIYサミット』の米ペンシルベニア大学バーバラ・カーン(Barbara E. Kahn)教授の講演「ショッピング革命」をまとめた

グローバルDIYサミットで「ショッピング革命」について講演するカーン教授

米国で人気!
カミソリのサブスクリプション

 「多くの顧客層が、商品中心(プロダクトフォーカス)の小売企業から顧客重視(カスタマーフォーカス)の小売企業に移っている」とカーン教授は指摘する。品揃えやマーチャンダイジング(MD)、ブランディングなどの「商品」と物流、在庫管理をはじめとする「オペレーション」は、小売業の二大要素だ。カーン教授は、これらに加え、「顧客」を小売業の重要な要素に位置づけ、「小売企業は、単に商品を売り込むのではなく、商品にまつわる顧客体験にも注目し、有形無形問わず、顧客が欲しいものを提供するべきだ」と説く。

 たとえば、デザイナーや業者が主導して店舗での販売商品を決める商品中心志向のギャップ(GAP)に対して、ザラ(ZARA)は、顧客重視型のファストファッションブランドだ。ビッグデータ時代到来前から、顧客それぞれの店内での様子を店舗スタッフが常時モニタリングし、これらのデータを分析して生産現場にフィードバックし、顧客の嗜好やニーズに合った商品づくりに役立てている。

 商品の企画・製造から販売までを垂直統合させ、通販サイトやソーシャルメディア(SNS)を通じて顧客とオンラインで直接つながり、独自のブランド体験を提供する「デジタリー・ネイティブ・バーティカル・ブランド(DNVB)」も、顧客重視をベースした新たな小売業態として注目されている。12年にカリフォルニア州ベニスで創設され、16年7月、ユニリーバ(Unilever)に買収された「ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)」は、月額1ドルでカミソリの替え刃を提供するという独自の定期購入型サービスで人気を集め、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)傘下の「ジレット(Gillette)」を中心とした寡占市場からシェアを奪っている。

対アマゾン時代の
四象限マトリクス

有力小売企業のポジショニングをまとめた四象限マトリクス

 顧客は、それぞれのニーズに応じて小売企業を選んでいる。カーン教授は、顧客が小売企業を選ぶポイントとして、「顧客は、信頼している人から価値あると思えるものを買いたい」、「顧客は、より優れた価値を提供してくれる小売企業から買いたい」という二大原則を挙げる。これらの二大原則に沿って顧客を獲得するための戦略を四象限マトリクスで整理したのが「カーン・リテイリング・サクセス・マトリクス」だ。

 このフレームワークでは、小売企業が顧客に提供する価値として「商品から得られるベネフィット(便益)」と「顧客体験」を横軸に配置し、小売企業の競争優位性として「喜びを高めるもの」と「苦痛を軽減するもの」を縦軸に置く。

 四象限マトリクスの左上に位置する「ブランド」は、顧客の喜びを高めるような価値のある商品を提供し、一定の顧客層から高い信頼を獲得する。ザラのほか、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)などの高級ブランド、DNVBの代表格としても知られるニューヨークの眼鏡ブランド「ワービーパーカー(Warby Parker)」らはここに強みを持つ小売企業だ。

 右上の「エクスペリエンシャル(体験価値)」は、よりわくわくと楽しい顧客体験を店舗で提供する。たとえば、イタリアの総合食材店イータリー(Eataly)は、食品スーパーと飲食店、料理教室を融合させ、食にまつわる豊かな顧客体験を提供している。また、化粧品専門店セフォラ(Sephora)では、顧客自身が店内で商品サンプルを手に取って自由に試用できるという独自の顧客体験を提供し、高い支持を集めている。

 左下の「ロープライス(低価格)」は、ローコストオペレーションによって信頼性のある商品やサービスを低価格で販売し、顧客の節約に寄与する。ウォルマート(Walmart)やコストコ(Costco)は、ここに強みを持つ代表的な小売企業だ。

 右下の「フリクションレス(摩擦がない)」は、顧客にとっての煩わしさや面倒を一切排除し、簡単で便利に買い物できるという「フリクションレス」な顧客体験を提供する。アマゾン・ドット・コム(Amazon.com、以下アマゾン)がその代表例だ。アマゾンは、顧客のあらゆるデータを収集し、分析することで、顧客それぞれの嗜好やニーズを正しく把握し、顧客視点から「より簡単で、安価な買い物手段」を提供し続けている。

 カーン教授は、「厳しい競争環境を生き抜くために、小売企業は、これら4要素のすべてにおいて、適正レベルに達している必要がある」とし、「市場リーダーを目指すならば、これら4要素のうちの1つ以上で競合他社に比べて優れていなければならない」と説く。

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四象限で読み解く、アマゾン、ウォルマート、コストコ、ホーム・デポのポジション!

アマゾンvsウォルマート、コストコ、ホーム・デポ

各社のポジショニング比較:アマゾン

 競争優位性を確立するべく、4要素のうちの2つを志向する小売企業も少なくない。たとえば、アマゾンは「フリクションレス」を徹底的に追求しながら、「ロープライス」も実現している。ウォルマートは、長年「ロープライス」に強みを持ちながら、近年、ネット通販事業にも注力し、通販サイトで注文した商品を店舗で受け取るBOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)サービスを広く展開するなど、店舗を効果的に活用した「フリクションレス」を実現しようとしている。

各企業のポジショニング比較:ウォルマート

 コストコは、ウォルマートと同様に「ロープライス」を強みとしているが、「エクスペリエンシャル」な小売企業でもある。巨大な売場を回遊しながら、限定商品や割引商品を見つける「宝探し」のような仕掛けを組み込んだ顧客体験を提供することで、来店動機につなげ、顧客の購買意欲を刺激している。

各企業のポジショニング比較:コストコ

 カーン教授は、米国のホームセンター業界について「米国では、いまだに多くの顧客がホームセンターの店舗に出向いている。ホームセンター業界では、店舗での顧客体験が重要であり、顧客がその価値を認めているのだろう」と評価する。たとえば、ホーム・デポ(Home Depot)は、独占ブランドをはじめ、商品力が高く、低価格の面でも支持されてきたが、近年は、通販サイトの整備やBOPISの拡充など、「フリクションレス」な顧客体験の提供にも積極的に取り組んでいる。

各企業のポジショニング比較:ホーム・デポ

 厳しい競争環境のなか、小売企業がより優れた価値を提供し続けることによって、顧客が求める適正レベルが上がるという面もある。カーン教授は「競争優位性を保つためには、顧客の期待値を常に把握し、必要とされるレベルを超える価値を確実に提供することが重要だ」と説いている。