米アマゾン(Amazon.com)は2022年2月、対面診療サービスの対象地域を米国で20都市以上増やすと明らかにした。同事業は開始から2年がたち、これまで段階的に拡大してきたが、ついに本格展開する。他の事業と同じようなアマゾンの事業成長パターンをみることができる新たな動きと言えそうだ。
拡大するアマゾンの医療サービス
アマゾンの対面診療サービスはこれまで、本社のあるワシントン州シアトルやカリフォルニア州ロサンゼルス、テキサス州のオースティンとダラス、マサチューセッツ州ボストン、メリーランド州ボルチモア、首都ワシントン、バージニア州アーリントンで提供していた。今後はカリフォルニア州サンフランシスコやフロリダ州マイアミ、イリノイ州シカゴ、ニューヨーク市などの都市を新たに加えて拡大していく。
アマゾンは19年9月に、「アマゾン・ケア(Amazon Care)」と呼ぶ医療サービス部門を立ち上げた。試験プロジェクトという位置付けで20年2月にシアトルでサービスを開始。当初の対象はアマゾンの社員とその家族で、専用アプリを通じてビデオ通話とテキストチャットによるオンライン医療相談の提供を開始した。同時に訪問診療・看護も提供。訪問場所は社員の自宅のほか社屋内の診療室も選べるようにし、処方薬の配達サービスも始めた。
その後、対象をワシントン州全域の社員と家族に拡大。21年3月には規模を全米に広げ、他の企業にも提供すると明らかにした。今回の発表によると、サービスのうちオンライン医療はすでに全米で利用可能となっている。
アマゾン・ケアの外販着々と
またアマゾンは今回、半導体メーカーの米シリコン・ラボラトリーズ(Silicon Laboratories)や、人材派遣会社の米トゥルーブルー(TrueBlue)、そしてアマゾン傘下スーパーマーケット(SM)ホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)がアマゾン・ケアの新たな顧客になったことも明らかにした。
こうした状況について米経済ニュース局のCNBCは、「アマゾンはより多くの雇用主と同様の契約を結んでいるようだ」と伝えている。アマゾン・ケアのババク・パービズ副社長は21年6月、『ウォールストリート・ジャーナル』紙のヘルステックに関するオンラインイベントに出席し、「当社のサービスには多くの会社からかなりの関心が寄せられている」と述べ、「できるだけ早く対象地域を広げ、将来は地方でも提供する」と意気込みを示していた。
社員向けクリニックやオンライン薬局も
アマゾンはさらに、社員向けクリニックを開設したり、オンライン薬局を立ち上げたりしている。CNBCによると、20年7月には米医療サービスのクロスオーバーヘルス(Crossover Health)と提携し社員向けクリニックを開設すると発表。すでに、カリフォルニア州やテキサス州、アリゾナ州、ケンタッキー州、ミシガン州の計17都市で展開している。
また、20年11月には、米国で処方薬のネット販売事業「アマゾン・ファーマシー(Amazon Pharmacy)」を始めた。同事業の前身は、18年に約8億ドル(約925億円)で買収した米国のオンライン薬局企業ピルパック(PillPack)。患者が医師からもらった処方箋をネットで受け付け、複数の薬を服用時間帯ごとに分けて一包化し、米国内49州に宅配していた。
パターン化するアマゾンの事業展開
こうして見るとアマゾンの事業展開には一定のパターンがあるようだ。同社はまず、自社向けにサービスや技術、プラットフォームを開発する。それが成功して余力が生じると外販を始める。例えば自社EC向けに開発したクラウドサービス基盤がそうだった。自社の物流網も今では他社にサービスとして提供している。リアル店舗用の無人決済システム「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」も、他の小売店やスタジアム、映画館などの大規模施設に売り込んでいる。そして今回は遠隔・対面医療サービスの外販拡大。これがアマゾンの事業成長パターンと言えるのだろう。