主要小売企業は2020年12月末から順次9-11月期の四半期決算を発表しました。筆者はこれを「ポスト・コロナ禍の適応戦略が見えてきたのか」という観点から眺めています。とりわけ、Eコマース(EC)をどの程度巧みにハンドルできているのかに注目しています。各社の状況を分析していきましょう。
2020年9-11月期はポスト・コロナ禍のショーケース
2021年もすでに1ヶ月が経過しました。新年から再燃する新型コロナウイルス(コロナ)の流行により行動制約が強まっています。読者の皆様のご健勝を改めてお祈り申し上げます。
2020年、消費者はコロナ禍で行動制約が強まるなかECの利用を深めたと思います。ECの使い所を探る時期だったとも言えるでしょう。一方21年は、抗体獲得者が増えるにつれ行動制約が緩和され順次ポスト・コロナ禍に移行すると思います。消費者の購買様式は実店舗に概ね回帰するかもしれませんが、筆者は消費者がコロナ禍の体験を踏まえてECと実店舗を商品ジャンルごとにTPOに応じて使い分けていくと見立てます。このような転換点を控え、多く小売企業は実店舗とECをいかにバランスさせ連携させるのかという適応戦略を熟慮しているはずです。
20年9-11月期は行動制約が緩和されポスト・コロナ禍で想定されるシナリオに近い事業環境だったと思われます。そこで今回は小売主要企業の決算をコロナ禍以前の2019年9-11月期と比較しながら各社の適応力を探ってみたいと思います。
ECに関する情報開示は二極化、スタンスの違いを反映
各論に入る前に全体像をお話しします。
今回の分析対象として2021年1月末の株式時価総額が大きい小売企業上位10社を見てみました。企業名を列挙すると、ファーストリテイリング、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)、イオン、ニトリホールディングス(ニトリHD)、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(註・直近決算は7-9月期)、ウエルシアホールディングス、ワークマン、良品計画、ツルハホールディングス、コスモス薬品となります。
このうちECに関する財務計数的開示が多い企業は、ファーストリテイリング、セブン&アイ、ニトリHDの3社にとどまりました。残りの7社は財務計数の開示はわずかです。
10社中7社という結果は「案外多い」というのが率直な印象です。しかし、7社のECの対応が遅れていると考えるよりも、事業戦略の重心が依然として実店舗にあるととらえるべきでしょう。
総合スーパー(GMS)、ディスカウントストア、ドラッグストアは実店舗を起点にライフラインを支えており、ECは依然補完的チャネルという位置付けなのでしょう。特に、昨春マスクなどの特需が発生したときEC事業者よりも実店舗を運営する小売企業のほうが数量を確保したことで、消費者に実際に商品を手に取ることができ品揃え・数量も豊富な実店舗の実力を訴求できたと思います。
とはいうものの、各社が決してEC対応を軽視しているとは思いません。例えば、イオンはOcadoとの提携によって次世代ネットスーパー構想を掲げていますので、早晩具体的な戦略が見えてくることが期待されます。また、良品計画はMUJI passportをテコにした個店経営の強化をテーマにしていますが、充実した開示は半年ごとで今回は単にそのタイミングではなかったと思います。次回の決算発表を待つことにしましょう。
ちなみにこの7社の業績は足元まで総じて堅調です。コングロマリットであるイオンにおいても、スーパーマーケット事業とヘルス&ウエルネス事業(ウエルシアを含みます)は3-5月期以降の3四半期増収増益基調を続けています。GMS事業の方は減収ではありますが増益基調に転換しつつあります。
このように堅調な業績が続くのは、消費者が実店舗を支持しているからでしょう。ポスト・コロナ禍に向けて確かな足掛かりになると筆者は考えます。
EC対応進む、ファストリ、ニトリ、セブン&アイの戦略
それでは次に、ECに関して詳しい開示をしている3社についてそれぞれ見ていきましょう。
ファーストリテイリング:実店舗とECが両立
2020年9-11月の国内ユニクロ事業全体の売上収益は2538億円(対前年同期比+9%増)、営業利益は600億円(同+56%増)となりました。このうちECの売上は367億円(同+48%増)で売上高構成は14.5%でした。EC以外の売上は2171億円(同+4%増)となり、2つのチャネルが共存共栄しています。さらに2つの販売チャネルの収益性も互角の模様です。冬場を前に消費者がステイホームへの備えを進めたという追い風をとらえて、商品、販促の効率化、在庫管理、その結果としての価格政策を好循環に持ち込んだ経営手腕は評価されるべきです。
ファーストリテイリングの場合は3千万人を超えるユニクロアプリユーザーを抱えていると言われ、ポスト・コロナ禍において消費者行動が多様化しても柔軟に対応ができる足掛かりを備えている印象です。
セブン&アイ:セブンーイレブンネットコンビニで仕切り直しか
セブン&アイの2020年9-11月のEC売上は235億円(同+1%増)、このうち配達型であるネットスーパーは81億円(同▲14%減)、セブンミールが57億円(同▲1%減)でした。ネットスーパーは3-5月期、6-8月期も減収です。IR資料によれば、IY通販、eデパート、アカチャンホンポ、IY西日暮里などのセグメントは堅調にも見受けられますが、俯瞰的に眺めれば、現在の経営のフォーカスは国内のコンビニ事業と米国コンビニ事業の大型買収に向けられていると推察されます。
ただし、2021年度には、ネット注文でコンビニ店舗から配送を受ける形になるセブン・イレブンネットコンビニが立ち上がる計画ですので、これがどのように同社全体のラストワンマイルのプラットフォームに仕上げられるのかに注目したいと思います。以前のオムニチャネル構想と比べてどのような進化があるのでしょうか。
ニトリHD:実店舗もECも順調
2020年9-11月の店舗売上(海外含む)は1549億円(対前年同期比+8%増)、通販売上は174億円(同+66%増)で連結売上に占める構成は9.8%でした。既存店売上高なども合わせて推察するところ、ファーストリテイリングと同様に実店舗とECが両立して成長している印象です。また、2020年8月末の数値になりますが、アプリ会員数が720万人となっており順調に顧客接点を蓄積しています。
オムニチャネル化進むSPA(製造小売業)
いかがでしたか。
まとめると、SPA(製造小売業)であるファーストリテイリングやニトリHDは実店舗とECを両立させており良い状態にあると思います。一方、非SPAの小売企業は実店舗に力点を置いており、コロナ禍において消費者の支持を高めその状態を維持できていると思います。これもポスト・コロナ禍に向けた重要な足掛かりになるはずです。
とはいうものの小売業全体でECの浸透が続くのがマクロトレンドでしょう。実店舗型の小売業は漸次ECを強化し情報開示(アピール)も増えていくはず。各社の戦略がどのように進化するのかを楽しみにしたいと思います。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、