[東京 30日 ロイター] – 外食産業の株価が二極化している。コロナ禍でも「郊外」や「非日常」などのニーズを取り込み堅調に売り上げを伸ばし続ける業態がある一方、「密」を敬遠される業態も少なくない。利益率を上げるなどの改善がなければ、こうした明暗はコロナワクチンが普及してもしばらく続くとの見方が多い。
家族利用やテイクアウトが好調
新型コロナウイルス感染拡大の影響が続く中でも株価が好調なセクターは、寿司や焼肉、ファーストフードだ。スシローグローバルホールディングスやくら寿司は、TOPIXを上回る上昇。日本マクドナルドホールディングスも株価の大幅下落は免れている。
野村総合研究所の上級コンサルタント、佐野啓介氏は「テレワークが浸透したことで、家族と一緒に過ごす時間が増えている。ファミリー層に人気なのが寿司で、週末の家族利用が増えている」と指摘する。
寿司チェーンは、都心部だけでなく郊外で店舗を展開している点でも需要を呼び込んでおり、10月から始まった政府による「GoToイートキャンペーン」も追い風となっている。スシローの10月既存店売上高は前年同月比9%増となった。
ファーストフードの好調はテイクアウト需要の高まりが背景にあり、店での滞在時間も短いことから回転率を高くキープできている。日本マクドナルドの10月既存店売上高は10%増となっている。
「密」の業態は不調
一方、株価が低迷しているのがファミリーレストランや居酒屋系だ。サイゼリヤや鳥貴族の株価は3月安値からは回復しているものの、戻りが鈍い。
ファミレスは、長時間滞在する客が多く複数人で利用することから「密」になりやすいと警戒され、利用者は急減。感染への警戒感から高齢者の外出が減少していることも重しとなっている。
居酒屋業態のチェーン店は、若者のアルコール離れや人件費の高騰で、コロナ・ショック以前から業績が低迷していたところに、新型コロナが追い打ちをかけた。
サイゼリヤの10月売上高は前年同期比9.8%減、鳥貴族の10月全店売上高は同9.2%減となっている。
実名の口コミグルメサイトを運営するRettyの武田和也社長は、「密になりやすい居酒屋系は厳しいが、焼肉など自宅ではなかなか再現できない『非日常感』を味わえる業態は回復が早い」と指摘する。さらに、エリア別でみると、テレワークの浸透により人出が減ったオフィス街や繫華街は依然として厳しい状況が続くが、住宅街や郊外は好調だという。
利益率の向上が鍵
新型コロナウイルスワクチンが開発されれば外食産業にとっても光明となる。しかし、普及には時間がかかる上、「密を避けたい」という人々の意識がそう簡単には薄れることはないとの見方も多い。
立花証券の企業調査部アナリスト、千葉明弘氏は、ソーシャルディスタンスを確保するために客席を減らす中で、いかに損益分岐点売上高を下げられるかがポイントになると指摘する。客単価や回転率を上げる一方、コスト削減を進めることで、利益率を高めることが重要になるという。
さらに、コロナ禍の対応としてテイクアウト需要がさらに増える可能性もあり、店舗レイアウトの見直しや設備投資ができるかも焦点となりそうだ。
コロナ禍でも意外と好調なのがラーメン業態で、大阪王将を主力ブランドとするイートアンドホールディングスなどの株価が堅調だ。Rettyの武田氏は「郊外でも店舗数が多く、『お一人様需要』があるためラーメンは人気が高い。1000円弱の価格帯で手軽に利用できる点も魅力なのではないか」と話す。
もう1つのポイントは、複数の業態を持つことだ。中部地方を中心に焼肉やラーメン、お好み焼きなどのチェーンを展開する物語コーポレーションと、ステーキで単一事業を展開するペッパーフードサービスでは、株価のパフォーマンスに大きな差ができている。
単一業態であれば競合他社が生まれやすいが、複数業態であれば1つの事業が悪化しても他の業態で補えるなどカバーがしやすい、と立花証券の千葉氏は指摘している。
企業名/指数 業態 株価
スシローグローバルホールディングス 寿司チェーン ₊37.9%
くら寿司 寿司チェーン ₊4.2%
日本マクドナルドホールディングス ファーストフード -1.8%
サイゼリヤ ファミレス -31.3%
鳥貴族 居酒屋 -41.3%
イートアンドホールディングス ラーメンチェーン ₊2.0%
物語コーポレーション ラーメン、焼肉、お好み焼きなど ₊37.9%
ペッパーフードサービス ステーキチェーン -77.9%
TOPIX – ₊3.7%
*株価は2019年12月30日と11月27日の終値ベースで比較