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小売・EC・サービスの3ヶ月時価総額増加額ランキング! 1位、2位はヤフー親会社とZOZO、メルカリも大躍進

2020年8月、本来であれば東京でオリンピックを無事に終了しパラリンピックに移行している時期のはずだが、新型コロナウイルスの影響で想定外の展開になった。そして実体経済も株式市場も年初の想定と比べて大いに異なる展開になった。マスクのまとめ買いに始まり、ステイホーム定着による生活様式・消費行動の大きな変化が進み、企業業績への影響も甚大だった。この間、本連載で筆者はドラッグストア、ホームセンター、ザラとスターバックスの事業戦略転換、ライフコーポレーションを中心とする食品スーパーを順次取り上げた。
今回はコロナ禍の影響が如実に出た2020年4-6月期の決算発表を終えた時点であることから、2020年5月28日から8月28日までの3ヶ月間に株式時価総額を高めた企業を点検してみたい。

EC関連事業者が株式時価総額の増大の主役

 今回はこれまでと異なり、対象範囲を小売業に限定せず、情報通信業とサービス業のなかで個人消費に関連する企業も含め、2020828日を基準に過去3ヶ月間の株式時価総額の増価額の大きいものをリストアップした。株価の騰落率ではなく株式時価総額の増加に注目するのは、富の実額の変化を通して経済全体に対する示唆を読み取るためである。

順位 銘柄名 時価総額(百万円) 株価終値 3ヶ月株価騰落(%) 3ヶ月株式時価総額増減額(百万円)
1 Zホールディングス 3,333,247 691 54 1,167,394
2 ZOZO 919,351 2,950 52 313,518
3 ニトリホールディングス 2,476,557 21,640 12 261,588
4 メルカリ 727,200 4,650 52 250,222
5 ファーストリテイリング 6,503,379 61,310 4 233,249
6 イオン 2,281,391 2,617 9 196,977
7 ファミリーマート 1,201,739 2,371 19 191,620
8 パン・パシフィック・インターナルホールディングス 1,557,618 2,457 13 177,485
9 コスモス薬品 734,815 18,370 21 129,581
10 BASE 171,725 8,400 170 108,147
11 セリア 348,485 4,595 34 88,363
12 ライフコーポレーション 250,417 4,685 45 77,775
13 マクアケ 120,994 10,370 105 61,840
14 ヤオコー 330,113 8,250 20 55,225
15 しまむら 327,052 8,860 17 48,354
16 イズミ 291,677 4,070 19 46,591
17 サンドラッグ 471,955 3,955 11 45,348
18 ベルーナ 96,758 995 83 43,954
19 スギHLDG 479,414 7,570 10 42,431
20 アークランドサカモト 86,777 2,097 73 36,538

 注目その1 躍進したZホールディングスと連結子会社のZOZO

写真左はZホールディングスの川邊健太郎社長、写真右はZOZOの澤田宏太郎社長

 小売業以外の企業の躍進が目立つので、3つにポイントを整理したい。

 第一の注目はZホールディングス(4689)、その連結子会社であるZOZO3092)がそれぞれ1位、2位にランクインしている点だ。

 ZホールディングスはLINEとの統合を控えスーパーアプリ戦略への期待が高まるなか、4-6月期決算では営業利益段階でコマース事業の利益がメディア事業の利益をはじめて上回った点が注目される。

 業績を確認すると、全社営業利益(IFRS基準)は対前年同期比+144億円増益の506億円となったが、その内訳はコマース事業が同+196億円増益の363億円、メディア事業が同▲15億円減益の335億円、その他および調整額が同▲36億円減の▲191億円であった。コマース事業の増益+196億円のうち、同社IR資料に従えばZOZOの連結化の影響はZホールディングスの会計上は+73億円にとどまるとのことである。したがって残りの+123億円の増益は、ショッピング広告売上収益の増加、ZOZO連結を除いた真水でのショッピング事業取扱高の拡大、クレジットカード取扱高の増加、そして経費コントロールによってもたらされたと整理できる。

 額面通りに受け止める前に留意事項がないわけではない。巣篭もりの一時的な追い風を否定できないうえ、経費抑制のなかには一時的なものもあったようだ。現状コストセンターであるPayPayは持分法適用会社であるためその損益はZホールディングスの営業利益には関係していないこと、およびZOZOの連結化効果は営業利益段階では大きいものの親会社株主に帰属する当期純利益への寄与度は持分50.1%相当分にとどまることも無視はできない。

 しかし、今回「ショッピング取扱高を増やせば利益が伸びる」という道筋を示したこと、「コマース事業の利益額がメディア事業を超え基幹事業になってきたこと」は重要なメルクマールであり、経営陣の意思表示とも言えるだろう。株価も731日の決算発表後から828日までに+24%上昇しており(過去3ヶ月の上昇+54%の半分程度に相当)、この決算内容が評価されたことは疑いない。ECといえばアマゾン、楽天、あるいはヨドバシカメラなどが注目されてきたが、ここにZホールディングスも(改めて)名乗りをあげたと考えたい。

 次にZOZOだ。同社の4-6月期業績(日本基準)は商品取扱高が対前年同期比+19%増の953億円、売上高が同+19%増の336億円、営業利益は同+33%増の104億円、親会社株主に帰属する四半期純利益は同+37%増の73億円となった。新型コロナウイルスの影響によるアパレルへの逆風のなか、販路としての重要性を高め、主力のZOZOTOWN事業の受託ショップ取扱高は+12%増、売上高は同+21%増となり堅調だった。主要事業の一品単価が約▲11%低下したものの、出店ショップ数とアクティブ会員数を着実に底上げ、出荷件数は+24%増となっている。Zホールディングスとの事業シナジーの試金石となるPayPayモール事業の4-6月期は1-3月期の実績を下回り取扱高43億円、売上高12億円になったが、プロモーションを抑制した結果でありシナジー不在と判断するには時期尚早だ。Zホールディングス同様追い風参考の要素は否めないもののアパレルのECシフトは中長期的に不可逆的になるとの見立ても根強いはずだ。決算発表の730日から828日までに株価は+25%上昇しており、アパレルECプラットフォーマーとしての評価を高めたと言える。


注目その2 メルカリの評価アップ

(2019年 ロイター/Issei Kato)

 二つ目の注目はメルカリ(4385)の動向だ。

 20206月期の通期業績を見ると、売上高は対前年度比+47%増の762億円に対して、営業利益は同▲72億円の悪化となる▲193億円の赤字になり、これだけ見るとポジティブな印象は薄い。

 しかし、4-6月期に限ると、売上高は対前年同期比+60%増の229億円、営業損益は+70億円改善の9億円の黒字となり四半期ベースで黒字転換した。これがポイントである。

 黒字転換の要因は、日米共にコロナ禍で取扱高が急増し(日本では同+40%、米国では+183%増)、経費の抑制ができたことにあり、こちらも追い風参考記録と言えなくもない。会社側も今後米国事業を中心に必要な経費投下をすると述べており、4-6月期はあくまで一時的と述べている。

 しかし、一旦獲得した既存ユーザーが定着しその利用頻度が向上すると、新規ユーザー獲得のための経費投下がしやすくなり、米国事業が中期的に黒字基調へ転換する可能性につながる。今回の決算はこのようなアップサイドポテンシャルについて株式市場に再考を促したことになる。

 

注目その3  BASEの台頭

 三つ目の注目はBASE4477)の動向だ。

 4-6月期の売上高は25億円、営業利益は6億円となり、過去2年半において2度目の四半期営業黒字化を果たした前回黒字化した2019年4-6月期の実績(流通総額167億円、売上高9億円、営業利益67百万円)とは水準が全く異なる。今回主要2事業の総取扱高は対前年同期比+132%増、対前四半期比+99%増と急増し(BASE事業310億円、PAY事業78億円、合計388億円)、その中身も新規出店の寄与にとどまらず既存店舗の取扱高も満遍なく伸びる健全なものになった小規模事業者がコロナ禍を契機にECサイトの立ち上げに動いたこと、消費者側もそれにしっかり応え好循環がうまれつつあることが、株式市場に評価されたと言えるだろう。

 

多士済々のEC事業者、基盤固めなるか

 いかがだろう。

 筆者は、コロナ禍を追い風に、アマゾン・楽天を追撃するZホールディングス、リユース市場を担うメルカリ、小規模事業者のEC参入をサポートするBASEがそれぞれ増収と利益計上の両面でしっかり成果を示したことに強く印象づけられた。物販の新しい潮流を感じざるを得ない。

 4-6月期の業績が追い風参考記録だったのか、成長軌道をワープしたものだったのかは、4-6月期までに獲得した営業基盤を盤石化できるかにかかる。筆者の見立ては、後者である。コロナ禍を通じて、ワークスタイル、消費行動、SNSなどのメディア接触のあり方が構造的に変わり、ひとびとは新しい体験を求めている。これに応えることのできる企業、そしてそのためのインフラを提供する企業は引き続き支持を集め、世の中をさらに変えていくのではないだろうか。

 読者の皆様もぜひこれらの企業の動向に注目していただきたい。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師