新型コロナウイルスの感染は世界各国で拡大の一途を辿っており、アメリカにおいても症例が増加し、当局が対応措置を打ち出している。本稿では、韓国やイタリアなどすでに大きな影響を受けている国に共通する消費者の行動パターンを明らかにするとともに、感染拡大に備えるアメリカの状況についてお届けする。
ニールセンの最新の調査では、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大への懸念に起因する消費者態度の6つのフェーズが明らかになっている。初期では緊急用食料品と健康関連アイテムの支出パターンに変化が見られ、これは複数の国・市場で共通している。
公共機関による情報提供や政府の記者会見など新型コロナウイルス関連の報道と、ハンドサニタイザーや賞味期限の長い食品といった品目への支出の関連性を分析すると、一連のパターンが見えてくる。さらに、目下進化中のこのパターンを感染拡大の影響を受ける各国に当てはめることで、サプライチェーンの安定化へ向けて懸命な努力を続けるメーカーや小売企業が激増する需要と購買行動の急変に対応するためにすべきことが明らかになる。
中国で新型コロナウイルス感染症の最初の症例が報告されてから8週間以上が経過し、感染は世界中で拡大を続けている。医療用マスクや除菌剤などの健康衛生関連アイテムの販売が劇的に増加しているのはもちろんですが、症例数が増えるに従いその他のアイテムにも影響が波及していることが分かります。
下の図表は、各市場が初期兆候として示した6つのフェーズだ(影響を受ける時期が異なるため分析対象となる時期も市場ごとに異なる)。それぞれが異なる消費態度と関連しているが、いくつかの共通するタイミングがあり、詳しく見てみると報道が主な要因となっていることが分かる。
新型コロナウイルス感染拡大への懸念が生む消費者行動パターン6つのフェーズ
フェーズ1〜4では、予測可能な消費パターンの兆候が見て取れる。言い換えると、その国が感染拡大のどのフェーズにあるかで支出には一定のパターンが見られ、これを参考にすることで 次に何が起こるかを予測することができるのだ。
各国とも、健康志向商品を積極的に購入するフェーズ1をすでに終えていると言えるだろう。ここでの販売パターンの変化はわずかだった。ただし、フェーズ2(意識的な健康管理)では、消費者がハンドサニタイザーやマスクなど衛生関連の主要アイテムを備蓄していたことが分かる。
世界中で感染が急速に拡大していることがさまざまなメディアで詳しく報道されたため、多くの国で消費者は、フェーズ3の「食料品の備蓄」に飛びつきいた。このフェーズに至るまでの間で、消費者は食料と緊急アイテムの備蓄を行っている。こうした支出の急増は、「パニック買い」が発生した数週間後には減少したが、その後の報道やさらなる感染拡大の知らせをきっかけに再び急増した。
米国市場に関するニールセンの調査では、消費者が感染拡大に関する最新情報を消化・処理し、その報道に関連する購買決定をいかに迅速に行うかが明らかになっている。これは購買行動の初期兆候に対する理解につながり、各企業が報道に即してサプライチェーンを管理するのに役立つ。以下のケースからは、新型コロナウイルスに関連する主だった報道の約2週間後に冷静さを取り戻す消費者が多いことが伺える。
1月30日、米国では新型コロナウイルスの人から人への感染症例が初めて報告されました。その2週間後(2020年2月8日終了週)、ハンドサニタイザー、医療用マスク、家庭用マスクの売上は前週からそれぞれ4%、47%、53%減少している。在庫切れが原因だった可能性もあり、売上は前年を上回っているが、健康衛生関連商品の購買ラッシュは次の報道が出るまで静まり返った。
報道と連動した購買行動の変化
2月26日のトランプ大統領の記者会見は、国民の関心を「意識的な健康管理」から「食料の備蓄」へと移行させたと言えるだろう(下図)。この記者会見は、必需品の家庭内在庫を増やすためのガイダンスに言及している。会見が、安定した健康衛生関連商品の販売を促す一方で、賞味期限の長い食品に対する需要を高めたと言える。 ニールセンでは2月29日終了週の売上を測定しており、この傾向を確認している。
健康衛生および家庭用品の売上が拡大
米国では、備蓄用の食料がマスクやハンドサニタイザーよりも記録的な売上となっている(下図)。除菌剤、洗浄剤、市販の風邪薬、その他健康関連の必需品の売上もピークに達しました。また、乾燥豆(37%増)、肉の缶詰(32%増)、米(25%増)の売上の急増が見られており、2月の最終週には消費者が賞味期限の長い食料を買い込んでいたことが分かります。
米国での食料の備蓄状況
下の図表は、各国での報道が消費者の需要を「食料の備蓄」のフェーズにまで引き上げたことを示している。図表に見られるように、新型コロナウイルスの症例と死亡例の報告によって消費者は、状況が危機的になって自主隔離する際に必要となるだろうアイテムへ関心を寄せるようになる。
イタリアや韓国など一部の市場では、「積極的な健康志向」、「意識的な健康管理」、「食料の備蓄」といったフェーズを過ぎている。3月9日週、イタリアでは全国的な封鎖措置が敷かれた。米国および他の多くの市場は、イタリア市場の分析結果にもとづいて今後の予測を立てることができるため、これ以降のフェーズにおいて見られる購買パターンを注視する必要があるだろう。
先手を打って「パニック買い」に対応
感染拡大が明らかになるにつれ、政府が打ち出す措置はフェーズ的に積極的なものになっていく。6つのフェーズをすべて経験した国の購買パターンを把握することで、打撃を受けている地域のサプライチェーンマネジメントに役立てることができるはずだ。一部の国では、政府の施策により購買パターンが各フェーズに達する期間が短くなっているように見える。現状、中国では大部分の地域がフェーズ6に達しており、通常の生活に戻り始めた唯一の国であると言える。長期間の隔離の後、多くの労働者がオフィスや工場に戻ったが、湖北省など最も打撃を受けた地域は例外となっている。
ニールセン グローバルインテリジェンス リーダーのスコット・マッケンジーは「小売企業は、需要の高いアイテムの供給を維持するためにも各フェーズにおける消費者の支出パターンを理解しておくことが大切です。新たな市場のいくつかが『制限された生活』のフェーズに入っています。パターンは消費者が報道に反応することで出現しており、各企業はこれらのシナリオから学び、新型コロナウイルスが人々の生活をひっくり返してもなお成長を維持できるよう対応していく必要があります。これらのパターンは、異なる国・異なる時期において感染が拡大する状況下で、購買行動の変化に対する理解を促すとともに、各フェーズにおける企業活動の指針となるはずです」と述べている。
ニールセンでは、フェーズ5および6における消費者の行動を今後さらに可視化する予定。症例が増加の一途を辿るイタリアでは全国的な外出禁止措置が敷かれており、消費者は「自主隔離準備」と「制限された生活」のフェーズにある。マッケンジーは「中国同様、消費者が長期間孤立し実店舗にアクセスできなくなることで、オンラインショッピングとサプライチェーンに負荷が掛かり、イタリア国内外に大きな影響を与えることが予想されます。感染の拡大により、各国の消費者の購買行動には多大な変化が生じていますが、ニールセンでは、この先何が起こるのか、どの程度続くのか、そして、事態が収束した後に残る傾向は何なのかといった点に焦点を絞り、市場動向をモニターし続けます」としている。
ニールセンは今後も、新型コロナウイルスが購買行動に与える影響について継続的に情報を提供していく。
ニールセン・カンパニー合同会社では、消費者調査、ショッパー調査、販売予測、マーケティングROI分析、コンシューマーニューロサイエンス分析、海外市場情報提供などを行っています。
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