中元・歳暮の市場は漸減が続いています。どちらも毎年1〜2%台で着実に減少しており、17年は約1.7兆円でした(矢野経済研究所調べ)。中元・歳暮にギフトを贈るのは60代以上の習慣で、40代以下にはほとんど継承されていません。
「団塊世代の高齢化が一段と進む今後は、さらに急降下するしかない・・・」と悲観的に考える人も多そうですが、中元・歳暮を一つの催事として捉えると、再生の可能性もありそうです。催事は時代によって意味が変わるからです。世代間で断絶しているからこそ、まったくの別物に刷新できるかも?
同じ催事でも、時代によってイベントの中身が激変!
同じ催事でも時代によって中身が変わります。21世紀に入ってからを考えても、節分は豆まきの日から、海苔巻きを食べる日に変質しました(マーケット的には)。バレンタインデーは、女子から男子へのギフトというより、女子同士でシェアし合う方が中心のチョコレートの祭典になりました。
そしてハロウィンです。かつてはカボチャ味の限定品がちらほら出て、せいぜい幼稚園で楽しむイベントに過ぎませんでしたが、今やインスタ映えありきの一大パーティ・ナイトです。
母の日にチョコ、父の日に洋酒など、メーカーの仕掛けもあって催事は中身が変質します。矢野経済研究所の調査では、催事の機会にギフトを贈り合う場面は増えており、ギフト市場トータルでは成長トレンドが続いているそうです。
この流れが、中元・歳暮にも来ないと、どうして断言できるでしょう? もちろん、催事の中身は変わる必要があります。お盆が来たからビール? 年の暮れに食用油? ハム? これらの商品が悪いわけではありませんが、贈答のためという旧来型の意味合いのままではトレンドの変化は起こりません。贈答だけではない新たな「機会(コト)」と、その機会にふさわしい商品としての「理由(ワケ)」が必要です。
歳暮=贈答から、歳暮=プチ贅沢に?
中元・歳暮を一新するようなコトとワケとは何でしょうか。それを百貨店は探ってきました。
百貨店にとって昭和から続く贈答ニーズが重要なことはもちろんですが、このところ力を入れているのは「自家需要の掘り起こし」です。相手先に贈るだけでなく、自分でも食べてみる・使ってみる。ギフトのそのような消費シーンが増えているそうです。
ギフトの自家消費とは、言い換えれば「家庭内のちょっとした贅沢」です。このプチ贅沢は新たなコトになりそうです。「歳暮=贈答」から、「歳暮=プチ贅沢」への変質です。年の暮れにプチ贅沢を楽しむイベントであれば、それを他人に贈るのも、自宅で消費するのもお気に召すままです。
とりわけ歳暮期は、自宅でプチ贅沢をする時期です。ボーナス、クリスマス、年末、お正月。12月初めから続くハレの日のどこかに、特別なアイテムを食卓に乗せるコトに事欠きません。それは家族団欒かもしれませんし、友人を招いたホームパーティかもしれません。
プチ贅沢の場には「ワケあり商品」
あとは歳末のプチ贅沢シーンにふさわしい商品として、ワケを作り込むことです。百貨店は、食べてみたい・見てみたいと好奇心をくすぐる商品開発に力を入れています。ネットやカタログを通じて商品の背景ストーリーを伝えようとする工夫も進んでいます。ギフトカタログの巻頭に掲載されるそれらの商品は、全体が漸減する中でも数字を伸ばしている場合が少なくありません。
さらに消費税が複数税率になった今年は、外食を豪華に楽しむよりも、税率8%で済むギフトを使って、自宅でプチ贅沢を楽しもうという気運がありそうです。そこに百貨店は賭けています。
髙島屋は「自宅でゆっくり」、大丸松坂屋は「仲食(なかしょく)」、松屋銀座は「おうちで贅沢ごはん」を歳暮ギフトのキーワードにして内食を訴求します。商品のワケも、ただ高級というだけではありません。塩釜焼きのローストビーフを塩の塊のまま届け、食べる前に木槌で割る演出(髙島屋)だったり、春が旬と思われがちなサワラ(鰆)を、脂が乗っている秋にしゃぶしゃぶで食べる提案(松屋銀座)だったり、三崎マグロの鍋セット(そごう横浜)など、見た目や食材、地域性に加え、料理としても斬新さがあります。食卓にその商品があれば、話題になる、見栄えがする、テンション上がる、そんな価値をもたらします。
百貨店による自家需要の開拓はここ何年かのトレンドですが、今年は増税の追い風があります。2019年は歳暮という催事の中身が変わった起点として記憶される・・・かどうかは分かりませんが、市場創造のチャンスはあるように思います。