[東京 8日 ロイター] – 日本株の下げが大きくなっている。米中貿易問題を懸念した世界的な株安が背景だが、日本株全体のムードを悪くしているのは、村田製作所やファナックなど有望銘柄の下落だ。米中貿易協議は一定の合意に至り、中国関連企業の業績も上向くとの楽観論はトランプ米大統領の対中強硬姿勢をきっかけに大きく後退。外需減退とリスクオフの円高が連鎖する展開に警戒感が強くなっている。
<「トランプ砲」でムード一変>
ハイテクや自動車など日本の完成品メーカーに対するマーケットの評価が厳しくなる中で、電子部品や工作機械は日本企業が競争力を維持する数少ない分野とみられている。村田製作所やファナックなどは株式市場でも人気が高く、海外投資家の買いも集めていた。
しかし、村田製の株価は7日に13%の急落。8日も続落となり、今年1月30日以来となる5000円割れに一時は迫った。
嫌気されたのは連休前の4月26日に発表された3月期決算。2019年3月期連結決算(米国基準)は営業利益が前年比63.4%増と大幅な増益となったが、20年3月期の営業利益は同17.5%減と2桁減益の見通しが示されたためだ。
ファナックの株価は、決算発表後の4月25日の市場では下げ渋った。20年3月期の連結営業利益が前期比53.6%減と大幅減益予想だったにもかかわらず、「今が底。中国景気が回復すれば業績も上向く」(国内証券)との楽観論があったためだ。だが、連休明けの株価は下げ足を加速。この2日間で5%以上の下落となっている。
市場の楽観論を打ち砕いたのは、5日のトランプ米大統領のツィート。大統領は中国との通商協議の進捗が遅いことをに不満を示し、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10日から現在の10%から25%に引き上げると表明。追加関税の対象になっていない3250億ドル相当にも25%の関税を発動する考えを示した。
「現時点の業績は厳しくとも今後は回復してくる、という楽観論は後退を余儀なくされた。村田製やファナックなどの株価下落は全体相場のムードも悪化させている」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券・チーフ投資ストラテジスト、藤戸則弘氏は指摘する。
<日本経済への悪影響を懸念>
日経平均は10連休明けの2日間で656円(2.95%)下落。年初からの世界的な株高傾向に日本株は出遅れていたにもかかわらず、リスクオフが広がると真っ先に下げるという、これまで何度もみられた日本株の特徴が出ている。
米国経済は、個人消費を中心に堅調さが目立つ。2000億ドルに25%の関税が加わると、輸入物価の上昇を通じて米消費に悪影響を与えるとの見方もあるが、中国から輸入製品500億ドルに25%、2000億ドルに10%の関税がかかっても、米国の物価にはほとんど影響はなかった。むしろ上がらないインフレが心配されるほどだ。
「米経済の堅調さが、トランプ大統領の中国への攻撃姿勢を強めた背景ではないか」(三井住友銀行のチーフ・マーケット・エコノミスト、森谷亨氏)との見方もある。
しかし、日本経済に対しては楽観はできないという。「日本経済はさえない。内需は弱く、外需で支えれらている状況だ。米経済が堅調だとしても、日本と関係の深い中国経済が減速すれば、日本の経済や企業への悪影響も大きくならざるを得ない」とシティグループ証券・チーフエコノミスト、村嶋帰一氏は警戒する。
<リスクポジションの巻き戻し>
出遅れと言われながらも、年初は日本株に海外勢からの買いが入っていた。
今年1月─4月末に外国人投資家は、日本株を1兆3188億円買い越した。内訳は現物が1兆2106億円の売り越しに対して、先物は2兆5294億円の買い越し。買いの中心はヘッジファンドなど短期筋だったとみられている。
しかし、連休明けは海外勢からの売りが目立つという。市場では「CTA(商品投資顧問業者)などからの注文を扱う欧州系証券の先物売りの手口が目立っている。ヘッジファンドなどが日本株のロングを巻き戻しているようだ」(国内証券)との声が出ている。
ポジションの巻き戻しは、外為市場でも起きている。米商品先物取引委員会(CFTC)によると、非商業(投機)部門のVIX指数先物の差引き建玉は4月30日までの週で18万枚のショートと、比較検証できる04年7月以降で最大の積み上がりになっていた。一方、IMM通貨先物で円は9万9599枚の売り越しと高水準だった。
ヘッジファンドなどは、低いボラティリティを利用し、円のキャリートレードを増加させていたが、5日の「トランプ砲」で巻き戻しを開始。8日の市場で、1ドル110円を割り込んだ円高要因の1つになったとみられている。
さらにマーケットではこんな見方もある。「もし、貿易戦争で米経済に大きな悪影響が出れば、FRB(米連邦準備理事会)に利下げさせればいいとトランプ大統領は考えているのではないか」(国内銀行)──。
各国の中銀は金融緩和方向に舵を切りつつあるが、日銀の緩和余地は大きくないとの見方が金融市場では多い。潜在的な円高圧力が高まっているとの認識も、日本株の上値を重くさせている要因の1つとなっている。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)