[東京 5日 ロイター] – 家計と企業のインフレ期待の動きに「かい離」が生じてきた。今年に入って食品の値上げが相次いで家計のインフレ期待が上がり出す一方、企業サイドでは景気の先行き不安などを背景に価格引き上げが通りにくいとの見通しが台頭している。今後は実際の物価の下押しが見込まれることや、今年10月の消費増税後の消費者行動に不透明感があり、インフレ期待は上がりづらい状況が続くとの見る民間エコノミストが多い。
日銀が5日に発表した3月の「生活意識に関するアンケート調査」によると、1年後と5年後の物価について「上がる」との回答割合が、2四半期連続で上昇した。人手不足に伴う人件費や、原材料価格の上昇を背景に、飲食品を中心に値上げが目立ってきていることが背景とみられる。
内閣府の消費動向調査をみても、2人以上の世帯における1年後の物価見通しは、1月調査で「上昇する」が2カ月ぶりに前月から増加した。
物価上昇を見込む割合が増加したことについて日銀幹部は、相次ぐ値上げ報道が「影響した可能性はある」とみている。
一方、企業のインフレ期待は鈍い。日銀が2日に発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)における「企業の物価見通し」によると、企業が想定する消費者物価の前年比上昇率は、平均で1年後(前年比0.9%上昇)と3年後(同1.1%上昇)が前回調査から横ばい。5年後は同1.1%上昇と2016年9月調査以来、2年半ぶりにプラス幅が縮小した。
特にグローバルな競争にさらされている製造業は慎重で、大企業・製造業の販売価格見通しは、全期間にわたって下方修正され、3年後と5年後は現在よりもそれぞれ0.3%、0.5%の下落を見込んでいる。
日本経済研究センターが実施している民間エコノミスト予測を集計したESPフォーキャスト調査の3月調査では、コアCPI見通し(消費増税の影響含む)が平均で19年度0.84%、20年度0.93%となり、それぞれ2月調査から0.12%ポイント、0.06%ポイントのプラス幅縮小となった。
物価連動国債から算出される予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率、BEI)は0.2%台で推移しており、市場のインフレ期待も低迷している。
企業やエコノミストの見通しでは、実際の消費者物価の動きが鈍いことや、中国を中心とした世界経済の減速が意識されている。一部の食料品などで値上げが見られているものの、景気の先行き不透明感の強まりが「企業心理と価格設定行動をより慎重化させている可能性がある」(国内証券)という。
<賃金と連動するサービス価格>
むしろ、今後はエネルギー価格の押し上げ要因のはく落や、携帯電話通信料の値下げなどによって実際の消費者物価上昇率も鈍化する可能性が大きい。今年の春闘におけるベースアップ(ベア)の前年割れが相次ぐ中で、物価上昇に対する家計の警戒感も根強い。
ニッセイ基礎研究所・経済調査室長の斎藤太郎氏は「サービス関連の物価は、賃金に連動する」と指摘。先行きの物価上昇率は「需要や金融政策による押し上げは期待しづらく、低空飛行が続く。インフレ期待も上がりづらい状況になるだろう」と指摘する。
日銀は、需給ギャップの需要超過状態が続くことで、実際の消費者物価が上昇し、それを受けてインフレ期待も高まっていくとのシナリオを描いている。ただ、先行きの物価も低迷が続く可能性が大きく、需給ギャップとともに物価2%目標に向けたモメンタム(勢い)を構成するインフレ期待の先行きにも不透明感が強まっている。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)