共働き家庭が増加し、需要が高まる家事代行サービス。小売業界からも熱い眼差しが注がれている。2014年に設立、22年に東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たしたCaSy(東京都/加茂雄一社長:カジ―)は、独自のビジネスモデルでめざましい成長を遂げている。同社の取締役CHRO(最高人事責任者) の白坂ゆき氏に、家事代行サービスの市場概況をはじめ、同社の戦略、課題、展望を聞いた。
オンライン完結のCtoBtoCモデルで差別化
現在の日本社会では、共働き世帯が片働き世帯の約3倍以上となった。こうしたなか、白坂氏は「家事のアウトソーシングへのニーズは将来的にも高まっていく」と見ている。
「家事代行サービスの市場は1400億円規模。ペットシッター、ベビーシッター、訪問介護なども含めると2兆1000億円規模になる。これまで根強かった『家事を他人に預けること』への抵抗感が薄れ、プロによる家事サービスの利用意向が高まっている」(白坂氏)
サービス提供者数も増加傾向にあり、地元密着型の小規模事業者を含む家事代行サービス業者は約4000社にのぼる。従来型の家事代行サービスの“2強”ともいわれるのが、ダスキン(大阪府/大久保裕行社長)とベアーズ(東京都/髙橋健志社長)。いずれも、利用者の自宅にコーディネーターが赴いてスタッフのマッチングを行う、訪問型のビジネスモデルだ。
その“2強”に続くのがCaSyだ。同社の特徴は、「キャスト」と呼ばれるスタッフと利用者をITによってマッチングするプラットフォーマー型のビジネスモデルをとっていることである。利用開始までに必要なマッチングがオンラインで完結するため、本来であればコーディネーターにかかる中間コストが発生せず、訪問の日程調整も時間を要しない。これにより、業界最安値かつ迅速なサービス提供を実現した。中間コストの削減は、キャストの報酬水準の向上にもつながっている。
通常のプラットフォーム型のサービスでは、プラットフォーマーはマッチング機能を担うにすぎず、契約関係はユーザーとスタッフの間に結ばれる。このようなCtoCモデルでは、サービスの品質や物の破損といったトラブルの解決はユーザーとスタッフ間での責任となり困難だ。
この点CaSyでは、ユーザーとキャストがそれぞれCaSyと契約を結び、同社が責任を持ってトラブルに対応する、いわゆる「CtoBtoC」モデルを採用している。また、キャストのトレーニングも同社が担っており、どのキャストも一定のパフォーマンスを出せるようサービスの品質が保証される。
品質平均評価4.9!カギを握るはキャストエンゲージメント
このように、同社は訪問型ともほかのプラットフォーマー型とも差別化されたビジネスモデルを武器に急成長を遂げ、業界唯一の上場企業にまで上り詰めた。
白坂氏は、「良質なサービスを提供できている自負はある」と、同社のサービスに自信を見せる。主要KPI(重要業績評価指標)である定期UU(一定期間に複数回の利用が見られるユニークユーザー)は、24年第2四半期で7000人を超えている。
定期UUを増やすには、「初回体験と(ユーザーとサービスの)“粘着性”を重要視している」(白坂氏)という。同社サービスではキャストの応募によって毎回マッチングがなされ、ユーザーがキャストを選ぶことはない。よって、「初回体験で誰が来ても一定品質以上を担保できるよう、サービス品質への注力を怠らない」(白坂氏)。粘着性、すなわちユーザーにとって「必要不可欠な存在になる」という観点からも、サービス品質が重要になる。
白坂氏の話す品質の高いサービスとは、モチベーションの高いキャストによるホスピタリティがある「おもてなし」のサービスのことだ。現に、同社のサービス利用者による品質の平均評価は、5点満点中4.9点という高水準を維持している。
では、CaSyではどのようにキャストの高いモチベーションを維持しているのか。その1つが高水準の報酬だ。CaSyのキャストの報酬は、中間コスト削減分を還元するかたちをとっているため、他社に比べて高水準だという。
加えて、キャスト間の相互交流もモチベーション維持に大きく寄与している。CaSyではキャスト同士のコミュニケーションを活性化させるオンラインコミュニティを運営しており、イベントも定期的に開催している。また、評価に応じてランクと報酬が上がり、エプロンのカラーが変わる独自の制度など、成長を実感しながらサービスにおける悩み相談やノウハウ共有もできる仕組みも提供している。
「『働くならCaSyがいい』と思ってもらえるよう、エンゲージメントを高める施策を打ち続けている。良質なサービスを提供してお客さまから感謝されることで、キャストに誇りや自信が生まれ、キャストの継続率を高めることにつながると考えている」(白坂氏)。
他方、他産業と同じく、家事代行サービス業界でも働き手の確保が課題は深刻な課題となっている。CaSyでは、キャストへの高報酬やエンゲージメントを高める施策を通じて品質強化と、キャストの高い継続率を実現したうえで、優秀なキャストによる知人の紹介など新規にキャストになりたい人材を増やしたい考えだ。
設立から10年の月日を経た今、さらに家事代行サービスを日本中に普及させるために「どのようなお客さまにどのような価値を提供するか、再定義すべき時に来ている」と、白坂氏は話す。今後は家事代行を中心に、隣接するニーズにも応えながらサービスに磨きをかけたい考えだ。
24年2月には、家事代行クラウド「MoNiCa(モニカ)」をリリースした。全国に存在する家事代行会社の業務管理をクラウドシステムで支援するとともに、登録事業者が増加するにつれて働き手を融通し合うプラットフォームとしての機能も期待できる。白坂氏は、将来的には自社サービスの伸長だけではなくMoNiCaを通じて業界と協働し、「家事代行サービスを日本中のインフラにしていきたい」と語った。