あらゆるコストが上昇しているいま、少しでもコストを抑えたいというのが小売各社の本音だろう。そうしたなか、小売各社にとって無視できない額に積みあがっているのが、廃材の処理コストだ。しかもそのコストの大部分が運搬費、車両チャーター代だということを知っているだろうか。とはいえ、単純に回収頻度を減らせば、バックルームや廃棄物置き場を圧迫することとなり、作業効率が悪化するだけでなく、防犯の観点でも問題が出るし、廃材の保管に膨大な賃料を払っていくことになる。
そんななか、廃材処理コストの最適化を進め、排出する廃材の量自体の削減に成功している企業がある。ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)傘下のマルエツ(東京都/本間正治社長)だ。同社の取り組みをまとめるとともに、同社が今年新たに実験した、企業の枠を超えた「共同回収」についても取材した。小売主導でマルエツと他1社が行った共同回収のねらいと成果をみていきたい。
小売業を地味に圧迫する、廃材処理コスト
小売業界は食品廃棄物だけでなく、使わなくなったり壊れた什器や備品など多くの廃材を出している。それに加え、店舗の敷地内に不法投棄されたり放置された「家電」類や「自転車」、驚くことに「自動車」なども所定の手続きを踏んだのち、小売側の責任と負担で処理しなければならない。
複数の業者、小売企業にヒアリングしたところ、1回あたりの廃材処理コストは車両チャーター代が7~10万円程度、産廃処理コストが3万円程度というのが現在の相場だという。
これを仮に、各店舗が個別に年2回車両をチャーターしていたとすると、100店舗ある会社では年2000万円は廃材処理コストがかかることになる。効率的に5店舗ずつ同時に回収できればそのコストは単純計算で1/5となるが、ドミナントの都合上、そう理屈通りにいかないのも実情だ。
さらに、産業廃棄物と有価物を分別し、有価物を買い取ってもらえればその廃材処理コストはさらに低減することができる。
実は廃材には、銅線や古鉄などの金属くずも含まれる。それらは「有価物」として金銭的価値があり、金銭に変えることができる。もちろん、小売側が分別せずに混合廃棄物として産廃処理してしまえば、金銭に変えることはできず、産廃処理コストと車両チャーター代だけがかかる。
あるスーパーマーケット企業では1店舗あたり年間400㎏相当の有価物が排出されるという。実は、廃材は宝の山なのである。
つまり、収集運搬業務の効率化と有価物回収を行うことで、限りある資源の有効活用に加え、積み上がる廃材処理コストの削減機会にもなる、というわけである。
店舗の意識改革で分別が進むマルエツの取り組み
そうしたなかマルエツでは、店舗で廃材を有価物と産業廃棄物に分別し、1店舗当たり年2回の頻度でルート回収を実施。有価物の売却益と、効率的なルート回収による収集運搬費用の圧縮により、廃材処理コストの大幅削減に取り組んでいる。
マルエツのケースでは、廃材の収集運搬業者は有価物回収用と産業廃棄物用のトラック2台態勢で、あらかじめ決定されたルートに沿って順次回収作業を実施する。その後、金属類などの有価物はマテリアルリサイクルされ、産業廃棄物は中間処理場に送られるというプロセスだ。
ここで重要になるのが、各店舗が「どの程度分別をしているか」だ。有価物と産業廃棄物とに分けるにはひと手間かかるため、業務に追われる店舗スタッフの負担が増えるのは事実だ。
一方で、適正な分別を徹底すれば、それだけ店舗に賦課される処理費用は減り、店舗のコスト低減につながる。もちろん、バックルームや廃材置き場を清潔に保つというメリットがある。
マルエツ経営企画本部総務部の田島慎也氏は「分別状況は店舗によってまだバラつきがある状態だが、全体的に意識は向上している」と語る。
実際マルエツでは、廃材の総回収量に占める産業廃棄物の割合が2019年は59%だったのに対し、22年は54%まで減っている。それに伴い、年々総廃出量も減少している。
マルエツの親会社にあたるU.S.M.Hの経営戦略本部経営企画部長の北村智宏氏は「限りある人材で運営する店舗側は当然、なるべく販売に人時を費やしたいと考える。そうしたなかで、いかに資源回収に、必要な時間を割り当ててもらえるよう店を説得できるかが大事。バックルームをきれいにするとどれだけ業務が効率化されるかなどを地道に店側に説明し、納得してもらうことでマルエツは成果を出していったと説明する。
マルエツが他社と始めた共同回収
このモデルを活用して昨年6月、九州で行われたのがイオン九州やトライアルホールディングスをはじめ九州内の有力企業が参加する「九州総務連合会」による共同の有価物ルート回収だ。詳細は、『九州で進む「共創」 ゴミ処理コストを激減させ資源にする「有価物ルート回収」の成果とは』を読んでほしい。
首都圏でもこのモデルを使って今年2月、マルエツなど2社が共同で産業廃棄物と有価物のルート回収を実施した。
意外なことだが、産業廃棄物と有価物のルート回収モデルを構築したマルエツにとっても、自社主導で他社と「共同」でルート回収を行うのは、初めての取り組みだという。
「従来は自社でルート回収をしてきたが、飛び地出店などドミナントの空白があるエリアを当社も抱える。そうした店舗では他社と共同回収ができれば効果的だ」との見方を田島氏は示す。
今回の回収対象店舗はマルエツ5店舗、他社2店舗の計7店舗で、それぞれ神奈川県川崎市、横浜市、東京・大田区に位置する。なおマルエツの5店舗は、花月園店(横浜市鶴見区)、朝日町店(同)、京町店(川崎市川崎区)、出来野店(同)、西糀谷店(大田区)である。
ただし、今回の共同回収は急遽実施が決まったもので、もっと効率の良いエリアでルートを構築した方がメリットはでやすいという。
そうしたなかで今回の目的は「本当に効率的に共同回収できるのかの検証だ」と田島氏は説明する。
今回、マルエツ 出来野店で、回収の模様を取材した。既述したとおり、トラック2台体制で、産業廃棄物と有価物にわけて回収作業を進めていく。マルエツでは半年に1回の頻度で回収しており、全社で産業廃棄物と有価物あわせて年間200~300トンを回収しているという。
店舗によって廃棄物の保管場所は当然異なるが、出来野店の場合は、店舗の納品口の奥まった場所に、廃材置き場がある。「産業廃棄物」「産業廃棄物(プラスチック空容器専用)」「有価物」に分けられ、カゴ車ごとに分別されて保管されている。
それぞれカゴ車にストレッチフィルムを上から下まで巻いているが、これは保管場所をきれいに保つ店舗側の工夫だという。こうすることで、カゴ車から廃材がこぼれ落ちることがなくなる上、透明なフィルムで包んでいるため中身が見えて、違うゴミを捨てることがなくなるからだ。各カゴ車には「木製品、複合材、空容器、ガラス、トレイなど 上記は廃棄便で回収ができます」という具合に注意事項が明記されている。
回収を行うエコモーション(東京都)によれば「マルエツは年々ルールの順守が徹底されており、分別状況の良い店舗が増えている」という。
店舗側の地道な努力の賜物だが、マルエツ総務部とエコモーションによる取り組みの成果でもある。
田島氏は説明する。
「収集運搬作業を行ってもらっているエコモーションとは、毎回、全店のゴミ排出状況の写真を撮り、店別のできばえを報告してもらっている。課題を次回の改善点として共有することで、年々改善を図っている」
収集運搬コストを引き下げるためにもっとも大事なことは、1店舗ごとの排出量を正しく事前に把握することだと田島氏はいう。
できるだけ短い総移動距離で、積載率100%に近づけられれば、1店舗あたりの処理コストが最小化されるからだ。もちろん、廃材を事前に分別し、直置きではなく台車などに置いておくと、回収時間も少なくて済むという。
共同回収はメリットがはっきりしている一方で、個社そして店舗ごとの意識改革が不可欠だ。それを実行したうえで、店舗網が薄いエリアで競合する企業同士が「非競争領域」として共同回収を行えば、お互いコストを下げることができる。そのうえで、浮いたコストをお客に還元することができれば、お客、店、競合店すべてがウイン–ウインとなる。
共同回収の動きはまだ始まったばかりだが、その可能性は大きそうだ。