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「どこまで値上げできるか」がみえてくる!価格感度メーター分析とは

 最近珍しくなくなった「値上げ」。帝国データバンクの調査によると、価格改定は2022年の10月に本格化し、23年もその傾向が継続しました。今回の値上げは、企業努力という名の「利益を削っての価格維持」にとうとう耐えられなくなったことによるもの。そのため、10%を超える値上げの発表も珍しくありませんでした。

 本連載では過去、値上げのリスク判断のために価格弾力性分析をすることを提唱しましたが、今回は「急激な値上げの実態と影響」について冷静に考えたいと思います。

帝国データバンクの調査によると、価格改定は2022年の10月に本格化し、23年もその傾向が継続しました(写真はイメージ、xijian/iStock)

2023年の価格上昇の実態は?

 総務省統計局が発表している消費者物価指数をみると、23年は20年を100として105.6、つまり20年比で5.6%上がっていると報告されています。この期間の生鮮食品を除く食品が112.9でした。ちなみに物価指数は特売価格などが考慮されていない「値札の価格」であって「売れた価格(POSの販売実績に基づく)」ではないことを注意する必要があります。

 実売価格をもとに価格のトレンドを把握したい場合は、POSデータをもとに分析しているインテージ社と一橋大学の「SRI一橋大学購買・単価指数」や、True Data社と流通経済研究所が発行している「消費者購買行動年鑑」などもあわせて参照することもおすすめします。どちらも価格の上昇幅は消費者物価指数よりも数ポイント低いようです。ここから推測できるのは、消費者が特売価格で購入している割合が多かったり、単価の安いものに「トレードダウン」したりしているということです。

いくらの値上げまでなら買い続けますか?

 筆者の実体験で恐縮ですが、よく購入していたアイスクリームの話を例にします。ある食品スーパー(S M)で定番価格が350円程度だった商品が、23年夏から急に440円程度(約25%の値上げ)に値上がりしました。筆者はこの値段に度肝を抜かれ、以来そのアイスクリームを購入することはなく別の商品を買うことにしています。ただし、このアイスも時々「月間特売」で350円に戻ることがあり、そのときは以前に増して高頻度で購入しています。

 他の消費者が同様の行動を取っているかはそのSMのPOSを見ていないのでわかりませんが、多数の消費者が筆者と同様の購買行動を取った場合、「値上げの狙い」は達成できないことになります。今のところ筆者は代替の他社品を購入していますが、そもそもアイスクリームは必需品でないので他の商品が同じように値上がりしたら買わなくなるかもしれません。たとえば、ペットボトル飲料も同様で、価格がある一定を超えてしまうとプライベートブランド(PB)などへのトレードダウンにとどまらず、「水筒持参」という完全代替が起こってしまうかもしれません。

価格弾力性分析以外の手段は?

 ご承知の通り、価格弾力性分析は、「価格上昇率X%に対して何%の数量減少があるのか」を過去の販売数量と販売金額をもとに算出します。

 たとえば、価格弾性値が-1の場合、理屈上、価格が5%高くなると数量は5%減少します。しかし、5%の値上げならいざ知らず、たとえば15%以上の値上げの場合は、それを大幅に上回る影響が出ることが考えられます。つまり、ある一定以上の値段を超えると買わなくなる人が急に増えるような価格があるというわけです。これを防ぐためには、継続的に段階的な値上げをすべきだったのですが、メーカー、小売店はそれをずっと我慢してきました。ある意味、そのツケがたまった恰好で、今回、極端な値上げによる数量減は想定以上になっているようです。

 価格弾力性分析以外の手段として考えられるのがPSM(価格感度メーター)分析です(図表)。ある商品に対して、❶いくら以上なら「高い」と思いますか、❷いくら以下なら「安い」と思いますか、❸いくら以上なら「高すぎて買えない」と思いますか、❹いくら以下から「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか、の4つの質問をして、その回答率をもとに図のような曲線を描き、その交差ポイントの高い順に「上限価格」「妥当価格」「理想価格(消費者にとって)」「最低品質保証価格」というふうに価格の幅を探すアンケートベースの分析です。

 一般には「上限価格」を大きく超える値付けはしないようにするべきというのがこの分析の活用方法です。

 アンケートベースのため、どうしても実際とはズレがあるのですが、円安、原材料・物流費・光熱費高騰、人件費上昇などコスト上昇要因にはこと欠かない昨今、値上げは避けられません。であれば、値上げによる数量減は当然覚悟のうえで、「どこまでの値上げでなにが起きそうか」をある程度事前に評価できる方法のひとつとして、値上げの判断の前に一度試してみるのも有益でしょう。