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カスハラ、モンスター客から従業員と店舗の評判も守る!具体的な方法とトーク例

前回は、迷惑行為を含むカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)や無理難題を申し立てる不当要求は、運営企業に対して、種々の大きなロスをもたらすことを解説した。今回は、実際に迷惑行為やカスハラが発生した場合の初動対応についての4つのポイントについて説明していく。

RRice1981/iStock

<ポイント1> 明確に「止めて欲しい」と伝える

 迷惑行為が発生した際の対応のポイントは、例1にあるように、迷惑行為やカスハラと思われる行為に対して、店長などの責任者が明確に「止めて欲しい」と伝えることである。ルールや警告を無視するような場合は、当該行為は禁止されていること、ルールに反していることであると告げて、止めるように求めるのが重要となる。

例1)カスハラへの対応に関するトーク*1

自分の要求をのませるために、担当者を困らせたり、怖がらせるために、暴言や威圧行為・暴力行為と思われる言動を行っている場合
1.まずは、やんわりと、「止めていただきたい」旨、お願いする
  例:「誹謗中傷は止めていただけますか」
2.それでも続く場合は、警告する
 例:「やめてください。これ以上続けられると、お話させていただくことは難しくなります」
3.それでも続く場合は、警告する
 例:「止めていただけないようなので、これで打ち切らせていただきます」
(対応打ち切りに至るまでのより詳細なトーク例、あるいはその後の対応方法については後述します)

 最初は、カスタマーサティスファクション(CS)を重視し、「止めていただけますか」と、あくまで「お願いする」姿勢でトークするのをおすすめする。それでも迷惑行為やカスハラ行為を止めない場合は、例1内の2のように、改めて「止めてください」と命令・指示調で停止を求め、それ以上続いた場合な警告を行うことが重要だ。

 ここまでで、顧客側に二度にわたり迷惑行為やカスハラ行為停止を求め、警告を行っている。それでも迷惑行為・カスハラ行為を止めない場合は、もはや擁護の余地はない。再三にわたる要請・指示・警告を無視したのは顧客側であり、対応等を打ち切られても、それは顧客側が要請・指示・警告を無視して迷惑行為・カスハラを続けた結果であり、自己責任である。責任者は、従業員の安全や人格の尊厳、ほかのお客の権利や安心を守り、無用な種々のロスを生まないために、当該顧客への対応を打ち切り、場合によってはそれを既成事実として警察対応へと進めればいい。

 実際に迷惑行為やカスハラが発生した場合、まず行いたいのは、以上に述べてきたように当該顧客の言動が、「迷惑行為やカスハラにあたる」と明確にすることだ。そうすれば、顧客側の言動が悪質かつ意図的(故意)なものであり、対応の打ち切りや事件化することの正当性、このような事態を引き起こしたのはあくまで顧客側の「自己責任」だと明確にできる。

 ただし、冷静に判断し、対応するのが重要だ。「迷惑行為やカスハラにあたる」と明確化されるまでは、あくまで「当方に非があり、お客さまにご迷惑をお掛けしている」というスタンスで臨まなければならない。クレームや不当要求・カスハラの場合も、基本的にはCSを重視した「お客さまのご要望には可能は範囲で最大限対応します」という姿勢を維持するのが望ましい。企業の担当者がけんか腰で対応していては、他のお客に与える印象に影響し、風評被害につながることもあるほか、冷静さを失い誤った対応をしてしまうリスクもあるからだ。

<ポイント2> 対応を打ち切るためのロジックの構築

 続いて解説したいのが、迷惑行為やカスハラを続ける顧客への対応を打ち切ったり、警察対応を行ったりするためのロジックをいかに構築するか、いわば理論武装の仕方である。

 自分の要望が通らなかったカスハラ顧客は、対応を打ち切ったり、警察対応に切り替えた場合、企業側の対応を「不適切な対応」「傲慢かつ一方的」とSNSなどで自身の正当性を主張し、企業の対応を批判する場合がある。自身の過失などを棚に上げ、その状況に陥ったことの責任を企業側に「責任転嫁」するのが、迷惑行為やカスハラを行う顧客、いわゆる「クレーマー」と言われる人たちの思考回路なのである。

 そうやって企業側に負い目を感じさせ、自身の正当性を主張して自身の要求に応じさせようとする場合もあるため、その事態を見越して反証できるように企業側はロジックを構築しておくのが重要である。

 具体的に抑えておいていただきたいロジックは、次の通りである。

図 1 カスハラへの対応に関するロジック *1

 図1のように、対応を打ち切るためのロジックは、「止めて欲しい」という意思表示を明確に行い、「拒絶の意思表示をしているにも関わらず、お客さま自らの判断で当該行為を続けた(当該行為を止めなかった)」という既成事実をつくることである。

 たとえば、セクシャルハラスメントでは、相手が拒絶している行為をおこなえば、その悪質性が問題視され、ストーカーの事案でも付きまといなどをやめるように求めても止めなければ逮捕される。相手が拒絶していることを、執拗に続ければ、当該行為の悪質性や違法性は高まるし、再三の要請・警告を無視した既成事実を作れば、意図的(故意)に迷惑行為やカスハラ行為を続けているのが明確になるため、「そんなつもりはなかった」といった言い逃れも難しくなる。

 こうすることで、「対応を打ち切られたり、警察対応(事件化)されたり、出入り禁止になったのは、あくまで、企業側の要請・警告を無視して、悪質かつ意図的に当該行為を続けた顧客側の自己責任」と言いやすくなるし、企業側としても対応の合理性を担保できる。その上、悪質かつ意図的という点で、刑法などの構成要件に該当する行為は、警察も犯罪として事件化しやすくなる。サッカーのイエローカード→レッドカード(退場)となるルールをイメージするとわかりやすいであろう。

 現場では、どのような段階になったら対応を打ち切っていいのか、警察を呼んでいいのか、出入り禁止にしていいのかなどの判断に悩むことが多い。そのうえ、そのような対応をすれば、先述したようにカスハラをした顧客が、「企業側(担当者)の対応が悪い」と騒ぎ、大事に発展する場合もあるため、担当者としてもお墨付きがなければ対応の打ち切りなどはやりにくい。このような心理状況になれば、カスハラなどの理不尽な行為があっても、毅然とした対応をするのを躊躇し、結果的にカスハラの被害を受けて、精神的負荷も大きくなってしまう。

 そのため、上記のようにロジックを構築し、フロー化して、それを現場で徹底するのが肝要だ。そうすることで、このような現場の担当者の不安や恐怖心を払拭できるというメリットがある。

<ポイント3> 対応打ち切りや事件化に踏み切る時間や基準を決める

 さて、カスハラなどへの対応でもう一つ困るケースが、いつまでもゴネて店側の時間を消耗させる行為への対応であろう。このようなケースへの対応についても、簡単に触れておきたい。

例2) いつまでもゴネて、時間を消耗するケースへの対応 *1

自分の要求をのませるために、延々と対応を引き延ばそうとしている場合

1.まずは、必要な説明や対応などの、基本的なCS対応を行う(方針・事実・謝罪・意見として聞く)
2.対応打ち切りの目安
 「CS対応終了後に30分以上ゴネている」、または「同じ話(要求)が3回目」
3.それでも引き下がらない場合は、対応打ち切り
 例1:「申し訳ありませんが、何度おっしゃられても当社の対応・方針は変わりません。ほかのお客様への対応もありますので、これで対応を終了させていただきます。お引き取りください。」
 例2:「いずれにいたしましても、これ以上お話しても、本日、当社の対応も変わりませんので、同様のお話をされるのであれば、これ以上の回答・対応を控えさせていただきます。お引き取りください。」

 この場合も前項で解説したロジックと同様である。一定の時間や基準を決めて、その基準を満たした時点で、「お断りのトーク」を行い、「お引き取りください」と伝えることだ。

 基準については、「通常のお客さま対応として必要な対応を行った、つまり企業として対応可能な説明・対応はすべて行ったにも関わらず、その後30分以上、ゴネている」または、「同じ話が繰り返しされており、すでに3回目」という基準を筆者はおすすめしている。時間をもう少し短くしてもいいが、「企業としてやれることはやったがしつこくゴネているという」という既成事実をつくるのが重要であるため、相応の時間経過は担保すべきであることを念頭に置いていただきたい。

 大切なのは、「企業として必要な説明・対応とできるだけの誠意ある対応を行ったが、これ以上の対応はできない旨をお伝えしているのに延々と居座り、営業にも支障が出ている」という既成事実をつくっていくことである。

 その上で、例2の3のようなトークを使い、退店・退去を促す。それでも帰らずにゴネ続けるなら、先に説明したイエローカード→レッドカードの流れのように、業務妨害や不退去などで事件化しやすくなる。

<ポイント4> 可能な限り、記録化に努める

 先述したように、迷惑行為を行ったお客がSNSなどで企業を批判した場合に反証できるよう、対応を打ち切ったり、警察対応した正当性を証明するロジックを構築しておくことが重要である。その際に、企業としての対応に問題がなかったと証明できるように、対応経緯を記録化しておくことが重要だ。

 危機管理の観点から考えると、防犯カメラや録音に残して、対応の一部始終を記録しておくのが最も望ましい。

 そのようなツールがない場合は、以下の手立てをとるといい。まず、複数名で対応して少しでも証人を増やしておく。次に、対応時のメモを徹底する。とくにカスハラ行為の内容をしっかりと書き留めることが肝要だ。また、暴言があった場合には、言われた言葉をそのままメモするといいだろう。それすら難しい場合は停止要請・警告をしてから、打ち切りなどの対応を行った時間を可能な限り記録しておくだけでもいい。

 このようなメモでも、従業員をカスハラから守るうえでは有効なので、ぜひ従業員にも研修などを通じて、対応要領の徹底とともに、メモの重要性・要領を周知しておくことが重要である。

 なお、記録を残すという観点からは、周囲のお客にもその様子を見ておいてもらい、企業側の対応に合理性があること、つまりお客の行為がカスハラに該当し、あまりに酷い状況であったと知らしめておくのが有効な場合がある。

 さて、カスハラを行ったお客への対応策として厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(*2)を参照すると、「店頭で対応せず、応接室等の個室に招いて2人以上で対応する」と記載されているが、この際には下記5点の問題点があり、現実的ではない部分があるので注意して欲しい。

  1. 現実には事務所が広くない店舗が多いため、応接室で対応することは難しい
  2. 事務所などの応接室に入れるのは、話し合いをする意思表示ととられるので、かえって長時間の対応を余儀なくされ、逆効果となりかねない
  3.  2人以上での対応を原則とされても、店舗にはその人的余力はなく、2人以上が長時間拘束されると現場が回らないなど不利益が大きい
  4. 周囲のお客に状況を確認してもらい、企業の対応の合理性を担保しておくという対応ができない
  5. 事務所などに入れてしまうと、「ほかのお客さまのご迷惑になりますので、止めてください(お引き取りください)」といった打ち切り対応ができなくなってしまう

 厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」内、対応要領の部分は、記述不足や逆効果になりかねない記述も散見され、同資料を参考にして、カスハラへの対応要領を整備する企業は、工夫や補強が必要である。

カスハラ対策は現場対応テクニックのみでは十分ではない

 カスハラに対して、企業および事業主として適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性がある。実際に、裁判ではカスハラに関して、企業の責任を認めた判例がある。そうした事例を正しく認識し、従業員に対する「安全配慮義務」として、対応要領の整備に留まらないカスハラ対策が必須であることを改めて確認すべきだ。

 次回は、カスハラ対策として、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を使用していく上での留意点やカスハラ対策の全体像や実務上重要な点について、解説する。

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*1エス・ピー・ネットワーク著『 クレーム対応の「超」基本エッセンス 新訂第二版~カスタマーハラスメントに負けない!エキスパートが実践する鉄壁の5ヶ条~』(2022年・第一法規刊)より引用

*2厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf)