CADにAIモデリングが加わってバーチャルサンプルやAIモデル装着が現実になり、工場と発注者を繋ぐPDMがクラウドサービスでグローバル化し、PLMで製品ライフサイクルを管理するのが当たり前になる中、ECのOMSとPOSのトランザクションやPDM、PLMとERPの棲み分けが課題となるなどアパレルDXの変化は急激だ。それに加えてAI駆動の生産工程最適化や製品在庫最適化のクラウドサービスが競われるとなれば、それぞれの段階を効率化・最適化する様々なシステムをどう選択して組み合わせ、自社にとっての「全体最適」を実現するか、サプライチェーンも時空も鳥瞰する見極めが問われることになる。
さまざまな局面で急進する「アパレルDX」

アパレルのDXは1990年代の欧米におけるCAD※企画・マーキングとCAM※裁断の連携に始まり、2010年代に入ると韓国CLOバーチャルファッション社が開発した3Dモデリングソフト「CLO」の登場によって商品企画のデジタル化とオンライン化が急進。今やバーチャルサンプルをAIモデルに着せてECサイトやSNSに掲載して受注が先行し、生産が週サイクルで後追いするという「無在庫タイムマシン・マジック」さえ現実にするに至っている。デジタル企画に入るまでのアイデア出しも、AIクローラがネット世界を一周するトレンド情報学習と2D/3Dモデリングで極めてスピーディだから、従来のアナログなプロセスに比べればタイパもコスパも革命的だ。
後出しジャンケンのタイムマシン・マジックが成立するのは「SHEIN」(シーイン)などファストファッションの産直越境ECに限られるが、CAD・CAMオンライン連携によるリードタイム短縮は欧米や中国で広く浸透し、一昔前には中国レッドカラー社による7Daysパターンオーダーを成立させて我が国のカシヤマ・ザ・スマートテーラーにも波及するなど、すでに一般化した感がある。
CAD企画はオンラインCAM連携によるリードタイム短縮、バーチャルサンプルをAIモデルに着せての生産に先行するEC/SNS掲載だけでなく、オフショア遠隔地の工場と生産仕様やコスト、納期をスピーディに擦り合わせ、発注後の生産工程進行をリモート管理するPDM※(製品開発管理)プラットフォームの普及ももたらした。
商社が管理する我が国のオフショア生産はいまだアナログなやりとりが残って複数回のサンプル製作を要するが、欧米のアパレルやコントラクター(OEM/ODM事業者)とアジア/アフリカの工場との間ではCoats Digital社のGSDCostソリューションなどの英語圏PDMクラウドサービスが広く活用されている。我が国のPDMベンダーは未だ国内工場を主対象とする日本語版が大勢であり、言葉とプラットフォームの壁が災いして我が国のアパレルビジネスがグローバルなサプライチェーンからスポイルされるリスクさえ危惧される。
生産仕様とコスト、納期が確定して発注して以降は、発注進行と生産・物流進行、入荷から在庫配備、販売消化と売上金回収まで製品在庫の編成と運用を見える化するPLM※(製品ライフサイクル管理)に役割が移る。PDMとPLMは製品段階が重複するが、PDMは開発現場が実務活用するものでCADデータがやり取りされるのに対し、PLMはマーチャンダイジングの進行を経営サイドで管理するもので画像データはともかくCADデータのやり取りはない。システムベンダーによっては両者の区分けも異なるので、ざっくりとした認識と受け取って頂きたい。
PDMは受注側の行程管理にも使えるが、PDMもPLMも発注側の業務を効率化するものだ。縫製工場の生産工程を最適化するには生産規模や人時コスト、CAM機器や各種専用工業ミシンの装備などを考慮してTSS方式やバンドル方式など生産方式を構築し、それに適した「生産行程最適化アプリケーション」を選定する必要がある。

※CAD・CAM……コンピュータ・グラフィック支援の設計(CAD)と製造(CAM)。アパレルではCADはデザインからパターンメイキング、マーキングまでの設計、CAMは自動裁断機を指すことが多い
※PDM(Product Data Management)……企画と生産のCADデータ連携、コストと納期の見積り、ワークフロー管理の実務マネジメントシステム
※PLM(Product Lifecycle Management)・・・商品の企画・開発から生産・物流、流通・販売、二次流通までライフサイクル全体の流れを戦略的に管理・運用して品質とブランド価値、利益とキャッシュフローを最大化するマネジメントシステム
OMO/リテールメディアとERP
製品の販売段階は店舗販売のPOS(販売時点管理)システムとオンライン販売のOMS(受注管理システム)が連携してIMS(在庫管理システム)が作動し、WMS(倉庫管理システム)に指示がいくという構図だ。この構図が時差なく連携して「見える化」していないと、「在庫最適化アプリケーション」も期待するような成果はあげられない。
日締めのバッチ管理で開発されたPOSとオンラインのリアルタイム管理が要求されるOMSをトランザクション(取引処理)してはギャップが生じるし、そもそも店舗在庫と店舗向けのDC※在庫、EC向けのFC※在庫を別途管理しては在庫運用に壁があって移動にも時間とコストを要する。顧客利便とエンゲージメント、在庫効率向上と物流コスト削減を図ってOMO※を推進するなら、どちらも一元化してセントラルロジスティクスとリージョナルロジスティクスに再構築する必要がある。
取り寄せ試着やEC注文品の店受け取り/店出荷のOMOは顧客エンゲージメントを含め本来、ローカルに運用するものだから、リージョナルロジスティクスの方がコスパもタイパも格段に高い。ECと店舗の顧客情報を一元化してOMOアプリとiD-POSで個客にリコメンドするのが基本で、それができればリコメンドやクーポン発行を外販するリテールメディアにも道が開ける。
商品開発から販売まで全事業プロセスを統合して経営管理するのがERP(基幹情報システム)で、人材と資材・製品と資金の運用を「見える化」して「全体最適」で管理する。会計管理と人事管理にPOSやPDM/PLM、EC絡みのOMSやWMSなどが繋がって接続が複雑になり負荷が重くなって、システムベンダーのパッケージやフルスクラッチで開発して長期間が経過したオンプレミスな基幹システムは限界に近づいているケースが多いとされる。
基幹システムに直結する必要のないシステムは別途にクラウド運用してバッチな出力データを活用するなど基幹システムの負荷を軽減して時間を稼ぎながら、抜本的なリプレースへ構想を固めていくのだろうが、クラウドが定着しAIが急速に普及する今日では各段階のシステムも高度化しており、ERPの役割は限定されていくのではなかろうか。
※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略
※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とFC(Fulfillment Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FCは通販の出荷用DC
調達方式に適したシステムの組み合わせとは
アパレルDXで要となるのが、①誰が何を目的として活用するのか、②導入前に目的に必要な交通整理はできているのか、という2点だ。
アパレルの商品企画・開発・調達プロセスを効率化するには
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