焼き鳥チェーン「鳥貴族」を運営するエターナルホスピタリティグループ(大阪府/大倉忠司社長)の2024年7月期決算は大幅な増収増益だった。売上高は419億1400万円(前年同期比25.3%増)、営業利益は32億4800万円(同29.2%増)で、いずれも過去最高を更新。23年7月期決算で発表した業績予想を大きく上回った。コロナ禍を乗り越え、次にめざすのは海外進出だ。新たに策定した中期経営計画(中計)で示した海外戦略とは。
商品力・サービス力を磨いて耐えたコロナ禍
好調の要因としては、昨年5月にコロナが感染症法上の5類に移行し、忘年会や歓送迎会など宴会需要が回復したことが大きい。コロナ禍で競合店が減るなかで、着実に需要を取り込んだ。大倉社長は会見で「ブランド認知の高さや、継続的なマーケティング活動が寄与したと考えている」と語っている。
地道な努力も支えになった。コロナ禍の21年、22年は赤字を強いられたが、基盤構築に注力し、店舗レベルでの採算管理を徹底。商品力に磨きをかけ、顧客満足度をキープし続けた。たとえば24年7月期下期には、1カ月ごとに料理と相性の良いドリンクをセットで提案するプロジェクトを実施。ホットドッグならぬ「鳥貴ドッグ」と、店舗で初めてコーヒーを提供するなどの取り組みを行い、好評だったという。また、ブランド認知拡大へ、山崎製パン(東京都)と共同で「焼鳥風ランチパック」も期間限定で発売。こうした取り組みに加え、従来のリーズナブルな価格や味、サービス力が支持され、客足の回復につながった。採算管理を徹底したことで、収益率も向上している。
新規出店も積極的に進めている。24年7月期から25年7月期上期にかけて、鹿児島や徳島など5県に初進出。業績は好調で、今後も積極出店する方針だ。グループ全体の店舗数としては、「鳥貴族」のほか「やきとり大吉」、米国で事業譲受した1店舗を加え1139店舗となり、23年7月期の1134店舗から5店舗増やした。
一方で、止まらない原材料費や人件費の高騰に対応するために値上げは避けられなかった。22年から3年連続で値上げを実施し、均一価格は327円(税込)から370円(同)までアップ。ただ、既存店売上高はコロナ前の19年7月期と比べても、9月以降に大きく上回っており、外部環境による”変化”は客数に影響せず、受け入れられたといえる。
国内の復調で満を辞して臨む海外進出
国内での不安を払拭し、満を持して挑むのが悲願の海外進出だ。コロナ禍がなければ早期に着手していたはずだったが、まさに雨降って地固まる。海外事業展開における知見やノウハウをもったメンバーも加わるなど、結果的に十分に体制を整えて、世界進出へのスタートを切ることになった。
新たに示した中計(25年7月期~27年7月期)では、その姿勢を鮮明にしている。まず長期ビジョンを「Global YAKITORI Family」を一新。「”焼き鳥”をYAKITORIに、”YAKITORI”を世界言語に」とするビジョンを掲げた。そのうえで、新中計を「海外事業の立ち上げと実績の積み上げ」と位置づけ、海外出店の土台を作る期間に設定する。
進出先としては、各国における日本食レストラン数をもとに判断。日本食の浸透度の高さや市場規模などから、ファーストゾーンを米国、東アジアに選定した。それぞれのエリアに合わせた店舗モデルの構築と展開を進め、将来的には米国モデルを欧州・豪州へ、東アジアモデルを中国、東南アジアへ展開していきたい考えだ。
米国ではすでに2店舗を出店しており、12月にオープンする1店舗を加えて米国モデルの構築へ検証を始める。3店舗は出店地域がいずれもロサンゼルスで、5月に事業譲受した「HASU Gardena店」、8月にオープンした自社ブランド「zoku Riviera店」、12月に開店予定で、米国における鳥貴族ブランド1号店の「TORIKIZOKU Torrance店」だ。焼き鳥を軸にしつつも、アラカルトメニューを充実させたレストランスタイルでの展開など、エリアに合わせて価格帯やメニューを変更しながらモデル構築を進める。米国でのブランド認知や、焼き鳥とお酒という消費スタイルがないことを考慮し、慎重に浸透を図っていくという。将来的には、フードコートなど新業態の開発も検討する。
一方、東アジアではお馴染みの黄色の看板をそのまま”輸出”し、日本の鳥貴族を再現したかたちで展開する。9月には台湾の台北と、韓国・ソウルに2店舗をオープン。いずれも出足は好調で、とくに韓国1号店では4900ウォンの均一価格が支持され、若年層の顧客を多く取り込んでいるという。韓国では29年までに300店舗の出店を計画しており、”鬼門”と言われるエリアでブランド力を追い風に一気に拡大する計画だ。今冬には香港にも出店予定で、その先には中国進出も見据えている。
こうした戦略のもと、目標に掲げるのは30年7月期までに直営、フランチャイズなどさまざま運営形態を含めて世界店舗数2000店舗への拡大だ。海外店舗比率も25~30%まで引き上げることをめざす。海外戦略のひとつとして、国内で高価格帯のメニューを提供する焼き鳥の有名店とも業務提携し、大衆価格にとどまらない中・高価格帯の業態も開発を進めている。
”YAKITORI”を世界言語化へ
リーズナブルな均一価格で焼き鳥の大衆化を実現し、日本の焼き鳥居酒屋を牽引する「鳥貴族」。このタイミングでの海外展開は、過去最高益の更新に貢献したインバウンド需要も追い風となっている。日本を訪れ、初めて鳥貴族を知った外国人観光客は、リーズナブルな均一料金で美味しく、サービス力も高い外食として、「鳥貴族」を認知。その期待を裏切らない商品力、おもてなしを海外で横展開できれば、現地でも着実に支持を得られるからだ。
人口減少フェーズの国内市場では顧客満足度の追求に注力し、海外市場では日本発の飲食業のサービス力で”YAKITORI”文化の浸透を推し進め、「スシ」、「テンプラ」、「ラーメン」に続く、日本食の地位定着を本気でめざす
今年5月1日には、社名を鳥貴族ホールディングスからエターナルホスピタリティグループに変更した。それは、世界の外食市場へ挑戦する社内外へのメッセージにほかならない。
創業以来こだわり、磨き続けるホスピタリティを強みに顧客第一主義を徹底し、奉仕の姿勢を崩さなければ、どの地域、どの国においても、永遠に繁盛店を生み出し続けられるはずだ。そして、その実現はそのまま「YAKITORI」の世界言語化につながっていく。