高水準の賃上げにインバウンドも重なって小売売上はコロナ前2019年の水準を超えたが、衣料品の需要不足は解消する気配もない。慢性的過剰供給で毎年、大量の売れ残り在庫が持ち越されていく我が国の衣料品流通下では、チェーンストアにとって「SPA調達」と「当用仕入れ」のどちらが正解なのだろうか。チェーンストア衣料品に詳しい小島健輔氏が解説する。
回復鈍く「格下げ」が進行する衣料消費
インバウンドや株高に押し上げられた7月の全国百貨店売上は19年を4.0%(6月は8.2%)超えたが、衣料品は99.8%(6月は96.0%)と届かなかった。7月の商業動態統計でも小売業全体は19年を17.6%(6月も15.7%)超えたが、織物・衣服・身の回り品小売業は19年比79.0%(6月も77.9%)と極めて回復が鈍い。6月の家計消費支出は19年を1.4%超えたが、被服及び履物支出は92.1%にとどまっている。
6月の実質賃金が27ヶ月ぶりにプラスに転じても介護保険料など社会負担増で手取りは増えておらず、光熱・燃料費や食料品の高騰で生活防衛姿勢が強まり、衣料支出は抑制されている。衣料支出の抑制は米国も同様で、ラグジュアリーブランドや百貨店ブランドを敬遠して、割安なオフプライスストアや手頃なカジュアルチェーン、量販店の衣料品に移行するというTrading down(格下げ、より安いものを買おうとする消費動向)が進行している。
我が国ではインバウンド効果で百貨店売上が嵩上げされているが、大手百貨店アパレルの売上は19年比8〜9掛けで回復が頭打つ一方、ユニクロなど手頃なカジュアルチェーンの既存店売上は19年を10〜30%も超えている(5〜7月平均)から、衣料消費のTrading downは明白だ。円安下で輸入単価が前年から9.4%上昇(1〜6月)する一方での衣料消費のTrading downは需給の乖離をいちだんと広げるのではないか。
大量に売れ残るのも当然!
「慢性的過剰供給」の実態
衣料品の国内供給数量も金額も日本繊維輸入組合が財務省の貿易統計と経済産業省の工業統計から毎月集計しているから正確に掴めるが、衣料消費の総額を大雑把に推計する統計はあっても数量の統計はない。総務省家計調査の世帯平均購入数量※に全世帯数を乗じても供給数量の56.9%(過去5年間の平均)と乖離が大きく、業界の断片的データから推測するしかない。
※洋服+シャツ・セーター+下着の購入数量で、和服や生地、服飾雑貨や履物は含まない。家計調査の対象は9000世帯弱だから、その平均購入数量に5583万世帯(2020年国勢調査)を乗じては統計誤差を否めない
環境省が2020年に日本総合研究所に委託して調査した業界アンケートによれば売れ残り率の平均は13.61%で、当社が何度かクライアントにアンケート調査した結果も近似していたが、小売チェーン(5〜10%)とアパレルメーカー(10〜20%)の平均であって、商社やOEM業者などサプライヤーの抱える未引き取り在庫は含まれていない。それを加えても3割程度と思われるが、その水準を“大きく超える”データがある。
それは供給数量統計が揃っている紳士既製スーツ(販売着数は推計)だ。過去5年間の平均消化率は52.9%(3506万着の供給に対して1855万着の販売)、過去10年間では50.3%(9054万着の供給に対して4555万着の販売)にとどまり、毎年、小売業界とサプライヤーが分担して半分近い売れ残り在庫を持ち越している。紳士既製スーツの消化率を見ると、衣料品の国内供給数量に対する家計購入数量が56.9%という乖離も、あながち統計誤差とは言えないのかも知れない。
分野によって偏りがあると思われるが、サプライヤーを含む衣料品業界総体で毎年、3分の1前後が売れ残って持ち越されたり処分されている慢性的過剰供給状態にあると認識して良いだろう。
ならば、小売業者が積極的に在庫リスクを抱えるメリットがあるのだろうか。
SPA調達には大きく4種類あり
それぞれ方法が異なる
衣料チェーンの調達方法は「SPA型」と「仕入れ型」に大別できるが、各々の調達方法は極めて多様だ。
ひとえに「SPA型」と言っても
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