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オムニチャネル戦略を成功に導くサプライチェーン変革

オムニチャネル戦略を成功に導くサプライチェーン変革 ~顧客戦略と商品戦略を両立して収益化するために~

株式会社CaTラボ代表取締役
一般社団法人日本オムニチャネル協会理事SCM部会リーダー

逸見 光次郎 氏

 

 

コロナ禍を経て小売業各社がDXを迫られる中、顧客起点の店舗とネットを融合したオムニチャネル戦略は店舗を展開する企業においては必須のものとなります。一方でこれまで人口増加に伴う消費拡大の流れにのって成長し続けてきた小売業では、プロダクトアウトの商品戦略や、経験と勘に基づいたマーチャンダイジング、大量発注大量販売による粗利アップといった取り組みが行われてきましたが、人口減少の中で大きな見直を求められています。とくに顧客と従業員、それぞれの“人”を大事にする戦略が求められています。CX(顧客体験価値)を高めるためのマーケティング戦略に基づく顧客データベース基盤の整備、インサイトの獲得、ロイヤルティの向上と平行して、顧客が求める商品の企画開発と品揃えによる商品在庫の最適化を行ってEX(従業員体験価値)を高める必要があります。本講演ではそのための思考と実行策について、具体的にお話しいただきました。

顧客軸と商品軸、チャネル軸のデータを統合し活用

オムニチャネルでは、顧客起点の情報と販売接点、それから双方向性がキーワードになる。その進化はシングル、マルチ、クロスのプロセスに分けられるが、最近オムニチャネルと思われてしまっているものの多くはひとつ前のクロスチャネルだ。例えばネットで注文して店舗で受け取る。店舗に買いに行ったが商品が無くて店舗で支払いを済ませて、商品はECの倉庫から自宅に届けてもらう、というのは商品がチャネル間を単にクロスして動くクロスチャネルだ。本来のオムニチャネルというのは、双方向性つまり情報のやり取りができることで、お客さまがネットで見た時に店舗や倉庫の在庫が見えたり、過去の購買履歴が確認できたり、顧客情報が一元管理されていることが重要だ。当然、それに伴うロイヤルティ、ポイントプログラム、リコメンデーションなども店舗でもネットで買ってもきちんと統合されてお客様に提示されている状態が大事になる。

オムニチャネルで重要なのが商品の流れ。川上から川下に流れる一般的な店舗小売流通の商品の流れに対して、オムニチャネルでは店舗とECのチャネルが加わり、メーカーがお客さまに直接届けたり、メーカーがアマゾンなどのECサイトに出店して直販したりする一方、店舗間でも横持ちと言われる商品の移動が発生したり、お客さま自身がネット注文した商品をお店やコンビニに受け取りに行ったりするなど、商品の流れが複雑になっている。

くわえて「顧客起点で考える」ということが一般化した。いわゆるLTV(顧客生涯価値)である。お客さまがその企業に対して生涯にわたって利用してくれるために、お客さまがどこかで情報を見て店やECサイトに来店して購入する。この購入した瞬間、今までは商品コード(JANコード)、購買チャネル(店舗コード)でしかお客さまを把握できなかった。それが店舗のID-POSレジやECサイトでのID情報を活用出来るようになった事で販売データに紐づくようになったので、お客さま軸でものごとを考えられるようになった。

顧客軸と商品軸、店舗とECの販売チャネル軸で考えるとどのようなことが見えるのか。同じお客さまが同時もしくは1年の間に買っているものの組み合わせがわかると、品揃えと接客方法も変えなければならない。さらに顧客軸と販売チャネル軸で見ていくと、同じチェーン店で同じMDをしていたはずなのに店舗によってまったく傾向が異なる顧客層や売れ筋データが見えてくるケースもある。そうなると当然、店舗の特徴を生かした品揃えやディスプレーを変える必要があることがわかる。実は現場の人達は皆わかっている。しかし、これまでは経験と勘をデータで可視化して説明することができなかった。商品軸、店舗軸だけでは見えなかったものが、顧客データ軸による見える化で真実が次々にわかってきた。

DX、改革は経営から現場まで戦略と戦術の浸透が必要

こういった変革を組織全体でどうやって進めていけばよいのか。よく聞かれるのは、社内と社外のDX/オムニチャネル化のどちらを先にすべきかということだ。社外の場合、お客さま向けにはECサイトを立ち上げたりアプリをつくったりする。これはお客さまのリピートで指標化、見える化をする。一方、社内は顧客情報とチャネル、つまり店舗やECで得られる情報を統合できているか、単品管理と物流管理の一元化がきちんとできているか、あとは組織内でネットでも店舗でも協力する体制で評価軸ができているかなど進化させることは多い。

社内で足りない機能は社外のサービスを利用してもよいが、ITやデータ管理については情報システム部に任せきりにするのではなくデータを活用する営業・販売部門がきちんと要件を考えるべきだ。投資決裁は経営判断になるが、現場は投資による営業効果を財務諸表やLTVで数値化して、経営判断が適正だったかどうか検証できるように進めていく。在庫管理や顧客情報統合ができていないうちに社外のサービスを拡大してしまうとお客さまの注文品の在庫が実は欠品してしまっていたりするトラブルが起きやすいので、順番としては社内が先の方が望ましい。

経営から現場まで各階層に、戦略と戦術が浸透していることが重要だ。その時、数値化やデータの見える化が、全社で共通化されていないと合意形成ができない。そこは経営企画部門がもう少し役割を果たしていくべきだ。

一般的に商品部門は商品の仕入れ原価を下げたい。一方で販売部門は在庫をコントロールして値引き、売価変更を減らして業務効率を良くしたい。ところが商品部門の仕入れ原価を下げたいという要望に対しての行動は、まとめて大量に発注することで原価を下げる、となる。一方で販売部門は適時、適品、適量で必要な分だけ発注してほしいと思っている。まとめて発注すると過剰在庫になり、少ないと在庫欠品にもなりかねないからだ。だから商品部と販売部は仲が悪いと言われる。しかしながらそもそも両部門とも会社の継続的な売上拡大、利益拡大では同じ目的を持っている。会社のためでもあるし、自分たちの給与やボーナスに直結するからだ。共通指標化はこうした部分最適の齟齬を減らしていく。

サプライチェーンを回すために、今何が足りないのか、何をつくれば売れるのかというのは、実はデータで把握ができるはずだ。こうして製品企画から原材料の調達、生産、店頭での配架、販売までサプライチェーン全体の流れを良くして、かつ短期間で回るようにすると、社内外すべての関係者の売上・利益が最大化する。そのために個社の最適化だけではなくて、今は寸断されているサプライチェーン全体の最適化と情報共有が大事になる。