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コロナでも店数増やした沖縄「やっぱりステーキ」 ネパール、豪出店の意外な理由とは

沖縄発で全国、さらには世界にも店舗網を広げる「やっぱりステーキ」。驚くのは、多くの外食企業がどんどん閉店を余儀なくされたコロナ禍でも店数を増やしていったことだ。そのねらいとやっぱりステーキの今後の成長戦略、強さの秘訣について、運営するディーズプランニング(沖縄県)の義元大蔵社長に聞いた。

カウンター席から始まった創業の旧1号店(那覇市松山にて、本田路晴撮影)

コロナ初年度から店数倍増、100店舗間近

沖縄県那覇市松山にある1号店(1st カクテルプラザ店)本田路晴撮影

 沖縄発祥の「やっぱりステーキ」――。2015224日の沖縄県那覇市内の1号店のオープンから着実に店舗数を増やしていった。現在、沖縄に24店舗、本土に63店舗と大台の100店舗達成も視野に入っている。

 コロナウィルス感染拡大による客足の減少で、競合のステーキ店が軒並み店鋪閉鎖に追い込まれる中で「やっぱりステーキ」だけは店舗数を創業時の1.5倍に増やした。また、意外に知られていないこととして、7月14日にはネパールのチトワンに、8月10日にはオーストラリアのシドニーにも出店し、海外進出も果たしている。

 51店鋪目で東京進出第一号となった東京都武蔵野市の吉祥寺店はコロナ禍最中の2020年6月17日にオープンした。井の頭公園に近い、大通りから少々外れた閑静な住宅街の一角に設けられた店には開店後3年経った今もランチ、夕食時となると長蛇の列ができる。テラスを入れて27坪の店には一日あたり200人から250人が訪れるという。

 「やっぱりステーキ」の人気メニューは、ミスジ(三筋)ステーキだ。100グラム1000円の低価格で提供する。三筋は一頭の牛から3キロしか取れない肩甲骨周りの希少部位だ。赤身だが程よい脂がありさっぱりしている。

 ただ、名前の通り、筋だらけの肉なので筋を取るのが一仕事だ。一つ一つ筋を取り除いていかなければ、柔らかなミスジステーキは提供できない。

 熟練の作業者でも1キロの牛肉から650グラムのミスジ肉しか取れない。平均で取れるのは600グラム程度だ。

 「やっぱりステーキ」のミスジステーキにあやかり、競合他社もミスジステーキを提供し始めている。都内の飲食チェーン大手が経営するステーキ店でミスジステーキを注文したが、筋が完全に取り除かれておらずナイフで切ることもできないし、噛み砕くのにも一苦労した。

 

コロナ禍で有利に運べた家賃交渉 人件費を抑えるための工夫

 コロナ禍で飲食店が事業拡大に二の足を踏む中で、「やっぱりステーキ」が事業拡大に踏み切れたのは家賃交渉がしやすくなったことが背景にある。

「やっぱりステーキ」の今後の成長戦略について語る義元大蔵社長(那覇市牧志の株式会社ディーズプランニングの沖縄本社にて、本田路晴撮影)

 「やっぱりステーキ」を運営するディーズプランニングの義元大蔵代表取締役社長(48歳)は「空き室にするよりは誰でもいいから貸したかったのではないか。今までうちに振り向きもしなかったような不動産屋が逆に案件を持ってくるような状態だったので家賃交渉もしやすかった」と当時を振り返る。

 出店に関しては、決して無理はしない。家賃比率は売上の5%内に収まるようにしている。家賃で折り合うことができない時は潔く出店を諦める。

 飲食店は通常、FL(食材原価と人件費)コスト比率を食材費24~40%、人件費20~36%で抑え、二つの合計が売上の60%以上が適正値とされる。「やっぱりステーキ」の場合は食材費が40%前後、人材費が24%の合計64%となっている。価格改定を行い、食料原価を抑えることで食材費は今の数字に抑えたが、人件費は徐々に上がってきている。そのため、家賃を5%以内に抑えることは、利益を上げるためには必須となる。

 「肉は開店当初と比べると1.8倍値上げした。電気代も人件費も上がっている」(義元社長)

 店舗の大型化を避け規模を30坪前後に抑えているのは人件費を抑えるための工夫だ。

 「一人の従業員が一度にこなせるお客さんの数は4〜5人。店は2〜3人で回せるようにしないとダメです」(義元社長)

店内で自由にお代わりできるサラダ、ご飯、スープはバイキング形式のセルフサービスだ(那覇市松山の1号店にて、本田路晴撮影)

 人手が少しでもかからないようにするため、店内で自由におかわりできるサラダ、ご飯、スープはバイキング形式のセルフサービスだ。だが、ねらいはそれだけではない。

 「ご飯少な目」と言っても一律、お椀半分のご飯が提供されるお代わりでなく、最後に一口だけ食べたい女性も自分で食べる量を調整できるようにしたのだ。「あと一口食べたい時に食べられないと顧客満足度は下がる」(義元社長)。

 

ネパール出店のねらいは、将来の人材確保

ネパールのチトワンに7月14日オープンした海外1号店(ネパール、チトワンにて、株式会社ディーズプランニング提供)

 従業員の給与は時間給でなく、分単位で支払う。年3回の賞与もある。それでも、他の飲食店の例に漏れず、「やっぱりステーキ」も人材確保に苦労する。海外進出第一号店にネパールを選んだ真のねらいは人材確保だ。

 正社員、アルバイトを含め、約500人が「やっぱりステーキ」で働くが、一割強に当たる約60人が外国人でネパール人が中核をなす。

 義元社長の「(ネパール人従業員が外国人人材の中核であるため、その)源流の地で人材を確保したい」との思いからネパールの首都カトマンズから車で5時間かかるチトワンへの出店を決めたという。

 2019年4月から新設された、外国人材受け入れのための在留資格「特定技能」は外食業も対象となる。特定技能の資格を持っていれば、アルバイトではなくフルタイムで雇用され、最低でも日本に5年は滞在できる。

 「ネパールの店である一定期間働いてもらった後、特定技能の資格で日本に来てもらう。日本に来てくれたら社宅に入ってもらう。そうすれば彼らを囲い込みできるし、彼らにとっても僕らにとっても良い」(義元社長)。

牛ではなく山羊をロゴマークにしたネパール店ロゴ、株式会社ディーズプランニング提供

 このネパール店は、人口の約8割が牛を食べることを禁じるヒンドゥー教であることに配慮して、ロゴマークも山羊にした。メニューも山羊肉や鶏肉を使ったものだ。

 一方で、8月10日にオーストラリアのシドニーに2号店をオープンしたのは、肉の仕入れの情報をより早く得るためだ。「生の情報を一刻も早く取って、肉の物流、商法のあり方を変えたい」と義元さんは意気込む。

 このシドニー店、ユニークなのは地元のオージー牛を使ったメニューも提供するが、欧米で増えつつあるヴィーガン(完全菜食主義者)に配慮して、植物性原料のハンバーグも提供する。あくまで地元密着型の店舗を目指す。

 ディーズプラニングのグループ年間売上の大部分を「やっぱりステーキ」が占める。

 年内にも日本国内の店舗数は100の大台に乗るが、創業から9期目を迎える中、義元社長は「海外に目を向ける。外貨を稼いで日本に持ってくる方が価値はある」とさらなる海外進出に意欲を示す。「台湾、フィリピン、香港、シンガポール、タイ、マレーシア、ベトナムにカナダ、ニュージーランド」と、将来進出したい国々の名前を次々に挙げた。海外で活躍したいという日本人も少なくないようでオーストラリア進出にあたり3人の募集をかけたところ、約200人の応募があったという。

 今後、「やっぱりステーキ」を海外で見かける機会が増えそうだ。