イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループのイオンディライト(東京都/濵田和成社長)は設備管理、警備、清掃といった、いわゆる「ファシリティマネジメント」を手がける事業会社だ。同社が管理を行うのは商業施設にとどまらずホテルや球場、工場、病院と幅広く、売上高は3000億円超(2023年2月期)と事業規模も大きい。なかでも珍しい管理物件が、神奈川県横浜市の本牧、大黒、磯子の3カ所にある海づり施設「横浜フィッシングピアーズ」だ。なぜ同社は海づり施設の管理事業を始めるに至ったのか、現場責任者に取材した。
イオンディライトが海づり施設の運営を始めた理由
イオンディライトは、イオングループの商業施設を中心にファシリティマネジメントを行う会社だ。その業務内容は主に施設の設備管理、警備、清掃、建築・内装工事などで、国内に8カ所の支社を置き日本全国を網羅するほか中国、ASEANを含む海外にも進出している。
売上高は3000億円を超える(2023年2月期)大企業だ。同社が管理する施設は多岐に渡る。とはいえ、なぜ海づり施設に手を伸ばしたのかと疑問に思う方もいるだろう。
参入を決断したのは、イオンディライト関東支社の2006年当時の支社長だ。事業拡大のため、扱う施設の幅を広げたいと考えた支社長は、検討を重ね横浜市の本牧、大黒、磯子の3カ所にある海づり施設に目をつけた。入札を経て運営権を勝ち取り、施設の所有者である横浜市から指定管理業務を受託。横浜市による公募により「横浜フィッシングピアーズ」と名称をつけ、2006年から同社初となる海づり施設の運営・管理を開始した。
一般的に海づり施設の設備点検や清掃などは運営会社が外部委託するケースが多いが、横浜フィッシングピアーズではイオンディライトがすべての業務を行っている。同社が長年培った管理ノウハウを海づり施設の運営・管理に落とし込むことで現場の各業務に生かされているそうだ。
イオンディライトが有する対応力も同業他社に比べて優位となる点だと横浜フィッシングピアーズの運営を統括する関東支社横浜中央支店新港エリア横浜フィッシングピアーズサイト サイトマネージャーの高橋啓輔氏は説明する。「一般的な管理会社であれば、海づり施設の管理は1カ所が限界。同一エリア内にある3カ所の施設をまとめて管理できる運営力のある会社は限られる」(高橋氏)
横浜フィッシングピアーズの運営を開始してから、イオンディライトでは同施設の公式サイトにおける情報発信の頻度を格段に増やしたという。高橋氏は「(横浜フィッシングピアーズは)日本で最も情報公開量が多い海づり施設であると自負している」と話す。
こうした努力が奏功し、横浜フィッシングピアーズの来場者数は大きく増加。イオンディライトが管理業務を始めた06年時点の年間来場者数は約17万人だったが、12年後の18年に約26万人(06年比151%)まで伸長した。イオンディライトとしては横浜フィッシングピアーズで得たノウハウをほかの海づり施設に横展開していきたいところだが、新規開拓にはいくつかの課題があるという。
施設の規模、利用者数、天災リスク……
海づり施設は売上を安定・維持させるのが難しく、小規模の施設では採算の面から参入メリットが乏しいうえ、横浜フィッシングピアーズと同規模の面積を有する施設でも一定以上の利用者数が確保できなければ採算がとれないケースもあるという。また、施設の規模や利用者数に加えて考慮しなければならないのが、自然災害の被災リスクだ。
横浜フィッシングピアーズも自然災害の脅威にさらされた過去を持つ。19年に発生した台風19号により、本牧海づり施設にある護岸釣り場と桟橋釣り場が損壊し、施設一部の閉鎖を余儀なくされた。一時は来場者数が半減したが、22年3月に補修工事を完全に終えると罹災以前の水準(約26万人)まで回復。このように、プラス収支をあげられる海づり施設においても、運営には常にリスクや困難がつきまとう。
こうした難しさがありながらも、イオンディライトは条件に見合う海づり施設があれば積極的に名乗りをあげていく方針だという。実際に、イオンディライトでは22年4月、横須賀市内にある「海辺つり公園」を含む2カ所の公園施設を受託している。緑地空間の建設、管理を行う西武造園(東京都/大嶋聡社長)らがつくったコンソーシアムに参画したかたちだ。
冒頭で説明したように、イオンディライトはイオングループの商業施設にとどまらず球場や工場、病院、ホテルとさまざまな施設の管理を手がけている。同社はこれまでに培ったノウハウを活かし、今後も海づり施設以外にも受託施設を積極的に拡大していくとのことだ。