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売場、商品、衣食住、DXそして地域共創!平和堂が行う全方位改革の全貌とは

平和堂特集メインイメージ

根幹に据えてきた精神

 1957年3月1日、滋賀県彦根市の銀座商店街で、服飾雑貨を売る店が新規オープンした。朝9時半に営業が始まるとすぐに行列ができ、30分が経つ頃には売場面積20坪のこぢんまりとした店内は大勢のお客で埋まった。

 店の屋号は「靴とカバンの店・平和堂」──。

 1号店で成功を収めた平和堂は、着実に商いを拡大していく。当初は滋賀県内で店数を増やしたが、73年10月の敦賀店(現「アル・プラザ敦賀」)で初めて滋賀県外へ進出。以降も78年11月に京都府1号店を出すなど、徐々に出店範囲とともに店舗網を拡充した。

 そして滋賀県を拠点に関西、北陸、東海で162店舗(平和堂小売グループ国内計、2023年2月21日時点)を展開。23年2月期の連結営業収益は、4156億7500万円の一大流通企業に成長している。

 成長を続ける平和堂が創業以来、ビジネスの根幹に据えるのは「奉仕と創造」の精神だ。

 つまり同社は、「奉仕」を商いの第一とする。自らの使命は、商品を通じてお客の生活がより豊かになるための役に立つこと。商品は可能な限り低いコストで、安く提供。常にお客が欲しいと思うものを先取りするかたちで、自らの仕事を「創」っていく。その結果として、利益が生まれると考える。

 平和堂が、売上高を「ご奉仕高」、粗利益を「創造高」と呼ぶのは、こうした信念に基づいている。また制定している理念に「5つのハトのお約束」がある。ハトは「平和」の象徴で、会社のシンボルマークにしている。約束には「創造のハトは、よい品を販売します」「感謝のハトは、お取引先との信用を重んじます」「友愛のハトは、みんなの幸せを築きます」「平和のハトは、地域社会のためにつくします」といった項目が並ぶ。その中、最初に掲げているのが「奉仕のハトは、お客様へのサービスを第一とします」である。

 ここでも第一は「奉仕」。人々の役に立って初めて儲けがあるという考えは、企業DNAとして根付いている。

調査結果が映し出す厚い信頼と強い愛着

 「奉仕と創造」の精神が消費者にも伝わっているためか、多くの店がある本拠の滋賀県を中心に、強い支持を獲得する。

 特集にあたり、mitoriz(ミトリズ:東京都/木名瀬博社長)によるインターネットアンケート調査を実施した。京都府、滋賀県在住者に対し「平和堂の購買動向や消費者の特徴、ニーズ」について、競合する小売店を含めて聞いている。

 まず食品の購入先としてメーンで利用しているチェーンをたずねたところ、「平和堂」(アル・プラザ、フレンドマート)が22.1%で最も多く、15.9%のイオン(イオン、マックスバリュ)、「フレスコ」(7.5%)、「西友」(5.8%)といった有力店を抑えた。

 次にメーンで利用するチェーンが競合よりも優れている点を質問した。平和堂は「いつも利用しているから」(54.0%)が最も多く、「なじみがあるから」(38.8%)も4チェーンで最も高かった。コメントには「昔から地域に根付いた親しみのあるスーパーだから安心感がある」という趣旨の意見も目立つ。中には「滋賀県民はとりあえず平和堂なので比較しない」というものもあった。平和堂がいかに地域で親しまれ、圧倒的に支持されているかがわかる。

 それは「HOPカード」の利用動向にも表れている。同カードは中学生以上であればつくることができ、現在の発行枚数は約420万枚。滋賀県に限らず全店ベースでの決済時の提示率は88%という驚異的な高さを誇っている。

 これらのデータ、結果、声からは、消費者による平和堂への厚い信頼、高い愛着度をうかがい知れる。

30~40代の獲得が課題

 そうした中、平和堂が現在、めざす姿に掲げるのは「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」。重視する「健康」「子育て」「高齢者」といった切り口、シーンに向けた品揃え、売場づくりを強化し、「地域社会の元気に貢献する企業」であり続けることを目標に設定する。

 利用者に目を向けると、50代以上の年齢層がメーンであり、若い世代の構成比率はやや低い。この中で平和堂は、既存顧客の満足度を保ちつつ30~40代の支持を獲得することを課題としている。

 なぜ平和堂では50代以上と比べると若い年齢層の利用がまだ少ないのだろうか。あらためて各年齢層の特性、そのバックグラウンドを考えてみたい。

 まず50代以上。この年齢層が歩んできたのは、人口が増加し、あらゆるマーケットが拡大していた時代。収入を含めてすべてが右肩上がりで、高度経済成長期やバブル期なども経験している。

 一方、30~40代はどうだろうか。日本の人口は2000年代後半から減少に転じ、その傾向は今も続く。社会に出たのはバブル崩壊後で、就職氷河期といわれた時期と重なる。さらに平均年収は約30年間、ほぼ変わっていない。

 こう見ると、若い人々は消費に対し慎重で、価格に敏感であることは容易に想像できる。その点、前出の調査結果で、平和堂を選ぶ理由を「安いから」とした回答者数は、4チェーンで最も少なかった。

 また平和堂の商品政策は、味、品質を重視する方針で、そこが50代以上の利用者から高く評価されているポイントであるのは間違いない。しかし肝心の30~40代に対しては、価格面での抵抗感もあり、その価値が十分に伝わっていない可能性がある。

 このあたりに、若い層の支持を獲得するためのヒントがありそうだ。これは同時に大きな伸びしろでもある。

企業変革の強い意志、設備投資に表れ

 「地域密着ライフスタイル総合(創造)企業」をめざす平和堂の戦略に話を戻すと、重要なキーとなっているのは「地域共創」というテーマだ。

 事業展開する同社の商勢圏の各地ではさまざまな問題が生じている。人口減少、高齢化、高齢者増加による需要減、域外への消費流出、またさまざまな分野での後継者不足による生産能力の低下、雇用需給のアンマッチなど。

 これに対し、地域や行政、企業、関連団体などと連携、観光客誘致やスポーツ・文化の支援、また移住定住支援などによって経済を活性化。これにより雇用や消費、また域内所得の向上を実現させ、ひいては平和堂の売上高、利益に結びつけようというのが「地域共創」のねらいである。

 ここで思い出されるのは、冒頭に紹介した平和堂の「奉仕と創造」の精神である。

 近年、同社では「強いショップ」の集合体をつくることを主眼に衣料品や住居関連売場の本格的な改革を進めるとともに、30~40代の取り込みを図る価格政策の見直し、また市場深耕のための新フォーマット「SX店」の開発など、新たな取り組みに次々とチャレンジしている。その1つがデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進。顧客体験と従業員体験の両面からDXを進め、前者ではとくにデータサイエンスの領域に踏み込み、One to Oneマーケティングの構築をめざしている。

衣料品や住居関連売場を改革するほか、新フォーマットの開発など、新たな取り組みに次々とチャレンジしている

 企業を変革する強い意志は近年の設備投資額(連結ベース)にも表れている。22年2月期は93億円だったが、23年2月期は175億円、24年2月期は248億円を計画しており積極的だ。24年2月期に関しては今年6月から稼働開始する新デリカセンター関連の投資が大きく、ここでは最新の炊飯設備の導入に加え、ベーカリーの製造もセンターで行うなど、強みの総菜に磨きをかける。

 顧客とのコミュニケーションも工夫する。地元、滋賀県のアーティストである西川貴教さんに、各店で流れるテーマソング「かけっことびっこ」を歌ってもらったり、「平和堂特命GM」として商品や平和堂の活動をPRしてもらったりと、斬新な施策を行う。

地元、滋賀県のアーティストである西川貴教さんが「平和堂特命GM」に就任、商品や平和堂の活動をPRしてもらうなど斬新な取り組みを行う(写真提供:平和堂)

 だがそれらの根幹にあるのは、「地域共創」のねらいからもわかるように、あくまで人々や地域の役に立って初めて自社が利を得ようとする姿勢だ。まさに「奉仕と創造」を実践するもので、さらに言えば「三方よし」で知られる近江商人の考え方に通じるものである。

 本特集は、平松正嗣社長インタビューに始まり、DX戦略、大型店改革、差異化進める食品改革、進化するフォーマット、地域共創・経済圏・循環型経済への挑戦と、平和堂の全方位改革すべてに切り込んだ。

 「奉仕と創造」、そして近江商人の精神を持ちながら、次代にも通用するビジネスに向かい、一気に改革のアクセルを踏み込んでいるのが、現在の平和堂だ。これは、地域に根差す小売業のロールモデルの1つといえるのではないだろうか。

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