フォーマットの栄枯盛衰
既存フォーマットがいずれピークを迎え、衰退することは周知のことだ。フォーマットには栄枯盛衰がある。
1957年にハーバード大学のM.P.McNair教授が講演のなかで紹介した「小売りの輪理論仮説」は、その後多くの事例によってその正当性が証明された。
品揃えを限定してローコストと低価格で消費者の人気を獲得した新興勢力が、既存勢力を侵略して拡大する。既存勢力にとってはその時点が最大規模のときで、次第に新興勢力に客を奪われて衰退してゆく。
やがて新興勢力にも模倣企業が出現して競争が発生する。そこで価格の優位性は独自のものでなくなるため、新興勢力も品揃えやサービスに付加価値を付け始める。結果、コストが上昇して安売りできなくなる。こうして新しい商品構成のフォーマットに入れ替わってゆくのだ。
フォーマットにはライフサイクルがあり、そのままでは成長し続けられない。しかも最盛期は衰退の始まりなのである。
そのため欧米のチェーンストアはたとえ成長中でも8~10年ごとに経営戦略を立て直し、それに基づいたプロトタイプをつくり直し、既存店の改造とスクラップ&ビルドで標準化を進める。つまり定期的にフォーマットを再構築し続けているのである。
その結果、チェーンストアはフォーマットを乗り換え、新たなフォーマットを加えながら成長を続けている。この連載の第9回と第10回でアメリカの大チェーンの例を紹介したとおりである。
日本ではまた別の事情がある。既存フォーマットの多くが飽和なのだ。減りつつある人口を増え続ける店舗で分け合うから、必要商圏人口を割るフォーマットが続出しているのである。
そのため、多くの企業が乗り換え用の新フォーマットの実験を試みた。80年代は①着物のチェーン化に成功した企業がアパレル専門店に、②日本型スーパーストアがアメリカ型の正統派ディスカウントストアに、90年代は③日本型スーパーストアや専門フォーマットがアメリカでいまだに多店化を進めるバラエティストアに、④テーブルサービスレストランがファストフードに挑戦するなどの事例がある。ところが成功例は少ないのが現実である。
2000年前後にはドラッグストアが食品の扱いを増やした“フード&ドラッグ”フォーマットに挑戦して現在も数社が多店化中である。当連載第8回で解説したスーパーマーケット(SM)の低価格帯だけをラインロビングした食品のディスカウンティングフォーマットも同様に、新興勢力と認められる。
また、イオン(千葉県)の小型SM「まいばすけっと」はチェーン化開始から約15年で1000店規模に成長し、まだまだ拡大の余地がある。
ありがちな失敗の経緯
こうして消費者の人気を獲得した新フォーマット
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